第3話 キャラメイク


 AROは吉田の言う通り完全無料で、フリーゲームと言って良い代物だった。

 運営母体は一応あるものの、ゲームバランス等はAIでコントロールされていて、運営者の手による仕様変更が加えられたことは一度も無いらしい。


 しかも中央サーバーの存在しない完全P2P。

 だから、サーバーダウンやらメンテナンスともまったく無縁。

 プレイヤーが一人でもいる限りゲームは継続され、サービスが終了することは半永久的にない。


 ただし、半年以上ログインしないと、プレイヤーデータが自動消滅するらしいから、そこだけは要注意だな。


「よし、やるか!」


 後に、吉田のひどい裏切りがあることをまだ知らなかったころの俺は、そんな感じで気合をいれてキャラメイクに臨んだ。



【Welcome to the All Rank Online !!】



 ブラックスクリーンに表示されるシンプルな文字列。

 それが消滅すると同時に、巨大な3面鏡が目の前にあらわれた。


「うお……」


 そこは古びた楽屋裏みたいな場所だった。

 薄暗い部屋に、上からスポットライトが当てられている。

 身長175センチの俺の身体をすっぽりと覆い尽くすような3面鏡に、すっぽんぽんのマネキンみたいな自分の姿が映っている。


「うむ……」


 自分の手足をぺちぺちと手で叩いてみる。

 粘土をこねて作ったみたいなのっぺりとした身体だが、一応、俺の体格にフィックスされている。

 中学の時に通っていたVR進学塾では、この体に服を着て受講していたので、特に驚きはない。


「だが……」


 今回は、この身体を『女性型』に変えなければならないのだ。

 これは初めての体験だったので、少し緊張した。

 性別を女に変更して、ポチッ。


【選択された性別が、貴方の身体的性別と異なりますが、宜しかったですか?】


 念のために聞いてくるんだな……。

 ここは『はい』をポチっと。


「むお……!?」


 すると、胸の辺りがちょっとポヨンと盛り上がった。

 あと腰骨の辺りに若干の違和感……さらには喉仏が小さくなっている。


「あーあー、んー……だめじゃん」


 声が完全に女になっている。

 まるで声変わりする前に戻ってしまったみたいだ。

 男装すればネカマとは思われないという前提は、早くも崩れ去ったな。


 それからも、空間に表示されるパラメーターをいじって体型や肌の色などを調整していく。

 本来の自分の姿から離れすぎないよう、なおかつ公爵令嬢として社交界に出ても恥ずかしくないよう、身体の細かい部分を慎重にセッティングしていく。

 どちらかといえばイカツい系の俺の顔が、徐々にお嬢様っぽくなっていく。


 身長と体重は、あまりいじると運動機能に支障が出るから手を出さない。

 バストとヒップは出来るだけ小さくして、『体格』というパラメーターを可能な限り大きくしてみる。

 すると。


「ぬうううん?」


 ビックリするほどムキムキマッチョなお嬢様になった。

 そして思わずやってしまう。


「わが生涯に一片の悔いー!」


――ドーン!


 とーちゃんの本棚にある、昔のアクション漫画のセリフを唱えつつ拳を突き上げる。

 うん、いかにも「ゴンザリアー!」って感じの、世紀末令嬢様だな。


 これでバッチリ……って、んなわけあるか!


 セルフつっこみを入れつつ、俺はぎりぎり淑女に見えるであろう程度に、体格の数値を下げていった。

 体格を大きくすると、若干声も太くなるようだな……。


「うん、こんなもんか。あーあー、お゛あー」


 努めて低い声を出せば、男の声に聞こえなくもない。

 175センチという、女性としてはちょい高めな身長もあいまって、レスリング選手のような、妙に逞しいご令嬢の誕生だ。

 髪は……まあ無難に金髪ストレートにしておこう。これはいつでも変更できるしな。

 目の色も、自然な感じのブラウンにしておく。


 最後に、その場でぴょんぴょん飛び跳ねたり、デンプシーロールをしてみたりして、身体感覚に過度な違和感がないか確認する。

 うん、大丈夫。

 どっからでもかかってこいって感じだ。


 身体の調整が済んだら、開始時の身分と職業を決める。

 オール・ランク・オンラインというだけあって、べらぼうな種類が存在する。


 まずは身分だ。

 選ぶ身分によってなれる職業が決まってくる。

 だが俺の場合、迷う余地はない。


『公爵令嬢』


 これ一択だ。

 他にも一番高いものだと『国王』から、一番低いものだと『野獣』まで、実に幅広い。

 野獣を選ぶと、狼とか山羊とかでプレイすることも可能になる。

 一体どうなっちゃうんだろうな、身体感覚。


 公爵令嬢がなれる職業はすごく多い。


「戦士」「騎士」「魔術師」「回復術士」「召喚士」「獣使い」「詩人」「踊り子」「盗賊」……


 まあ、大抵のものにはなれるようだ。


 職業はいつでも変更が効くから、今のところは戦士でいっとこう。

 妙にガタイの良い、職業は戦士の公爵令嬢。

 なかなか面白いんじゃないか?


 ステータスポイントの振り分けとかは無いらしい。

 みんな最初はHP10、MP10、能力値オール1でのスタートだ。

 スキル類もゼロ。

 その後の行動や鍛え方によって、能力は千差万別に変化していくというのが本ゲームの仕様だ。


 あと、運次第では新スキルを閃いたりすることもあるらしい。

 さあて、どう自分を育ててやろうか。

 吉田に頼まれて始めたゲームだけど、妙にワクワクしてきたぞ?


「最後に衣装……と」


 俺は三面鏡の隣にあるクローゼットの中から、ピンク色のドレスを取り出して身につけた。

 出来るだけ女の子らしく見えた方が良いんだろ?

 ここまで来たら、とことん付き合ってやるぜ、吉田!


 でも靴は動きやすそうなブーツにしておいた。

 せっかくだから、狩りやバトルも楽しみたいしな。


 公爵令嬢スタートなので、貴金属類も身につけられる。

 手当たり次第身に着けて、キャラメイキングを終了する。


【それではゲームを開始します。貴方の新たな人生に、良き出会いのあらんことを】


 最後にそんなシステムメッセージが表示されて、俺の意識は光の中へと吸い込まれていった――。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ステータス


名前 オトハ・キミーノ

身分 公爵令嬢

職業 戦士

年齢 17

経験値 0


【HP 10】 【MP 10】


【腕力  1】 【魔力  1】 

【体幹力 1】 【精神力 1】

【脚力  1】


【身長 175】 【体重 70】


耐性   なし

特殊能力 なし


装備

 淑女のドレス

 革のブーツ

 銀の髪飾り

 銀のイヤリング

 ルビーの指輪

 真珠のネックレス


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る