09 ユニフォームを着ただけなのに

 ノッポの家はここから、わたしたち子供の足で三分ほどのところ。わたしやドンの家と学校からの方向が同じだから、よく一緒に帰ることがある。


 そんな近さだから、さして雑談も出ないうちに到着した。

 住宅街の中にある、ごく一般的な二階建てだ。


 わたしはノッポとは三年生からの仲なのだけど、初めて彼女の家にお邪魔した。


 上がるなり早々に外見や顔立ちのそっくりな中三のお姉さんと合ってしまい、ちょっと笑いそうになってしまった。って、ちょっと失礼だな。心の中で思うだけでも。反省。


 わたしたちは二階にあるノッポの部屋と、一階にあるお風呂の脱衣所と、着替えるため二つの班に分かれたのだが、しかしボス一人だけは別行動だった。

 一階にあるトイレを借りて着替えるとのことだ。


 身体が小さいから窮屈ということもないのだろうけど……肌を見せるのがそんなに嫌なのかな。女の子同士なのに。


 手足の長さとか胴回りとか、小柄体型であるが故の悩みを抱えていて、服装でごまかしているのだろうか。

 などと想像していると、


「お前ら、着替えたかあ?」


 既にユニフォーム姿に着替え終えたボスが、階段を上って来てドアを開けた。


 結構似合うな、ボス。


「だいたいは。あとは、ノッポとサテツとフミだけです」


 わたしは被った帽子をきゅきゅっと回しながら答えた。

 紺色の普通の帽子で、額には「D」と「D」が重なったようなマーク。ボスに尋ねるまでもなくデスとデビルということだろう。


 部屋の隅にある姿見の前に立ち、全身を写して見る。

 ちょっとだけぶかぶかのユニフォーム。

 子供は成長するから、少し大きめに仕立ててあるのだ。先ほどガソリンは、自分のだけピチピチなんじゃないかとか文句いってたけど。


 わたしは鏡を見続ける。

 胸の文字を写し、今度はくるりと回って背番号を見た。


 ついに、

 わたしたちのユニフォームが出来たんだなあ。


 しみじみと心に呟いた。

 すでに心にはユニフォームをまとっていたつもりだったけど、やっぱり本物の着心地は格別だ。

 自然と気持ちが引き締まる。


 ふと気付くと、バースがにこにこ微笑んでいるようないつもの顔でわたしの横に立っていた。


「ああ、ごめん」


 姿見の順番待ちか。わたし、ずーっと見ちゃってたから。


 わたしがさっとどくと、バースは姿見の前に立って自分のユニフォーム姿をチェックしはじめた。

 くるり回ってみたり、わたしと同じように胸のチーム名や腕のワッペンをまじまじ見てみたり。

 帽子を深く被ったり浅く被ったり。

 またまたくるくる回り出したり。

 そして、


「なんかさ、ホームランがバンバン打てちゃう気がするねえ」


 唐突に口を開いたのである。


「ふああああっ、びっくりしたああああ! バースさんが喋ったあ! 必要最低限でないことを喋ったあああ!」


 アキレスが、あまりの驚きに腰を抜かしてしまった。


 バースって最低限の返事や掛け声は出すけれど、無駄口をいっさい叩かないからな。ここでも、私語を話すことなどまずないから、アキレスが腰を抜かしてしまったのも無理はないのだ。

 エイリアンがバースに化けているとでも思ったのかも知れないな。

 わたしは三年生からの付き合いだから、たまーには彼女が下らないことを話すのを聞くこともあったけど。


 でも無駄口珍しいのは事実。それだけバースの気分も乗っているということなのだろう。


 確かに、ただユニフォームを着ただけだというのになんだか自分たちが強くなった気がするよな。

 いくらでも良いプレーが出来そうな気がするな。


 ……出来そう、じゃないな。

 やるんだ。

 みんなで一生懸命に練習をして。


 今期のリーグへの参戦はもう間に合わないけど、トーナメントの小さな大会なら参加可能なものもある。そうした大会へ出場し、戦い、勝利を目指すんだ。


 頑張るぞお。

 わたしは両の拳をぎゅっと握りしめた。

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