急に許嫁ができたら戦う事になった僕の件

しゅら犬

急に許嫁ができたら戦う事になった僕の件

 私はいまでも覚えている。

 あの日、私の世界が小さな神社の中でしかなく、そこが自分の全てだった事の事を。

 未だに自分の役割がわかってなくて、だとの幼い子供だった時の事を。

 でもきっと彼は覚えてない。

 あの時助けてくれた彼にとっては私はきっとただの一人にすぎない。


 指切りげんまん嘘ついたらーー。


 幼い頃の約束。

 それが、私を生かしていたなんて彼にとっては知る由もない。

 けれどもそれでも良かった。

 私と彼はきっと一生交わらない。

 だってそれ程の関係があった訳じゃない。

 私にも私の。彼のには彼の生き方がある。

 だからこれはそれだけ。

 そう――それだけなのだ。


  ■


 なんでこんな事になったのか。

 今の僕の本心をいうのであるならばそれである。

 あれよあれよと自分の意志に反して決まってしまったこの結婚は、どうしてか今でもうまくいってしまっている。

 うまくいってしまっている、だ。

「許嫁って言われてもなぁ……」

 ぽつりとはいた言葉は、そのまま誰にも聞かれることもなく消えた。  

 時刻は既に20時を回っている。

 駅から離れて、住宅街を歩いていれば、既に人の姿は少なく、ほぼ歩いていない。

 だからこそ、吐けたともいえるのが。

「許嫁、ねぇ」

 今の時代を考えると、とても価値観が古いと思う。

 というかそういうのが嫌だからこそ、こうして普通のサラリーマンを選んだのだが、どうにもこのゴミみたいな価値観の家からは逃れられないらしい。

 とはいえ――彼女が悪い訳ではない。むしろ自分にはもったいない人間だ。

 才色兼備とはきっと彼女の様な事をいうのかもしれない。あるいは大和撫子か。どちらにしても、現代からしたらみない人間だろうし、そして家の稼業から逃れたいが一心でこうして上京してきた身としては、なんで許嫁なんていうのに従っているのかと思ってしまう。

「悪い人ではないんだよな……」

 だからこそ困るのだ。

 少なくとも稼業を続けると一点からみれば自分の元にくる必要なんてない。

 ましてや嫁に来るなんてもってのほかだろう。

 それをなし崩しに受け入れている僕も、大概だとは思うのだが。

「……あ、もうついてしまったか」

 考え事をしながら歩いていたら既に、自分が住んでいるアパートだった。

 けして良いアパートとはいえない。しかしながら自分一人が住むには十分だった。

「あー……今日もいるわ」

 当たり前である。

 けれど自分にとっては未だに納得がいってないというか、自分の部屋に人がいるという事自体に未だに慣れないのだ。

 階段を上り、自分の部屋へ。

 そして別に緊張する必要もないのだが……なんとも妙な気分で鍵を開けて部屋に入る。

「た、ただいまー」

「おかえりなさい!」

 明るく、可愛らしい返事がくる。

 ひょっこりと顔を玄関に向けてくるのは良く分からないままに結婚した彼女だった。

 長い髪をゆらゆらと揺らしてこちらに笑顔を見せて「もう少しでご飯できますからねー」なんて言う。それに僕は「あ、うん」なんて返す。

 自分の部屋なのに自分の部屋とは思えない。妙な居心地の悪さを感じる。でも別に悪いとは思えない。自分でも持て余している。

「はい! ごはんできましたよ!」

 笑顔でこちらにまたもやできた事を知らせる彼女を見て、自分の荷物を片して、席につく。

「………すごい。まともな飯だ」

「くすくす。なんですかそれ」

 なんでと言われても困る。こっちはめんどくさがってずっとコンビニ飯だったのだ。

 まともな飯を家で食うの事態がそれほどない身なのだ。

 こういうのも悪くはないと思う。

 思ってしまう。

 どうしたものか――本当に。 


  ■


 妖魔――人ならず者。

 別に妖怪でもいいし、あるいは化け物でもいい。

 解っているのは人に憑くものであり、また人を変質させるものであるということである。

 これをどういう解釈をするのかはどうやら世界的にみると色々とあるようだ。

 例えば伝説を紐解けば、そこにあるのは英雄のすがたであったり、もしくは神の姿である。

 その姿は人に似ているが、同時に人から外れている姿と何かしらの力を持っている。

 実家の稼業は――もっとも僕は嫌でやめたけれど――それを守る・狩るという事をしていた。

 人と見分けがつかないが故に、それを見分ける事ができる者が集団になり、人を守るというはきっと尊いことなんだろうと思う。

 だが――それがどれだけ尊い事だろうと僕はやりたくなかったのだ。


 ■


「くそ……つまり、こういう事か。あの娘は昔助けたあの娘で――その上、あの土地の神様役で、封印みたいな役割を持つ。馬鹿なのか? どれだけあの娘に背負わせてるんだ」

 田舎の実家に連絡をして返ってきた答えはそういう事だった。

 あの小さな土地神に連なる人間であり、僕の所に来たのは小さな場所でのゴタゴタから逃れてきたが故らしい。

 つまるところは別に結婚とかもあくまでそういった事情からだし、僕である必要はなかった訳だ。

 これはどこまでもあの土地の事情だ。

 巻き込まれた身としてはたまったもんじゃない。


 ――護さん。


「…………だからって見捨てられるかよ」

 知らなければ、きっとそうなのかで聞き流していたことだ――でも、こうして知ってしまっている。一緒に過ごしていた思い出がある。くるくると回る表情と、楽しそうな声を覚えている。

 ああ、認めよう――僕は結局の所、彼女の事がいつの間にか好きになっていた。

「馬鹿が! くそ、もうやらないって思ってたんだぞ」

 クローゼットの奥にしまい込んだ箱を乱暴にあける。

「またこれを使うなんてな」

 そこに入ってるのはかつて使った武器の数々だ。

 もっともここには刃物なんてものはない。身を守る装備だ。現代で生きるときに武器なんていうのは持ち歩けないし、職質されるのが落ちである。

「ああ、もう。本当……結局は僕も馬鹿だってことだ」

 姿形も分からない人間の為に命をかけるなんてまっぴらごめんだ。

 そんなのは間違っていると思うし、だからこそ僕はやめたのだ。 

 けれど逃れられないならば進むしかない。

 装備を付けて、意識を切り替える。

 

 ――ガチリと今まで見えていたのが切り替わる。

 

 コントラストが変わり、灰色に変わる。

 残っている香が、人には感じられない筈の匂いを感じるようになる。


「これなら追えそうだな」


 

 ■



 今まで使わないようにしてた身体能力を使い、そのまま追いかけてて、彼女の元に向かう。

 別に苦労も無くついたのは雑貨ビルである。

 妥当といえるだろう。

 とはいえ何処にいるかと言われると皆目見当がつかない。

「さて……どうするかな」隣のビルから目的地をみて呟く。「それとも後ろのあんたらが僕の相手をするのかい?」

 言葉につられて、いままで隠れていたのが現れる。

 その姿は人のそれだが気配は違う。

 どれもが妖魔のそれであり、人ではない。

「ひい、ふう、みい……あ、多いな」

「舐めてんのか?」

 いらだだしそうに一人の男が呟いた。

 どうやらそれ程焦ってないのが気に入らなかったらしかった。

「別に。ただ――弱そうだなって」

「てめぇ!」

 激昂。それと同時に姿が変わる。

 鬼、かな。

 角と皮膚の変化が激しく、体躯も増えている。


 ――馬鹿だな。棒立ちで変化するなよ。


 踏み込み/目の前に変化しつつある敵/そのまま脚を踏み込み加速した力を相手に叩き込む。

 あ、フェンスまで吹き飛んだ。

 周りにいるのがざわざわと騒ぎだし――


「悪いな。時間ないんだわ」

 

  ■   


 気が付いた時には既に目を離せくなっていた。

 そこにいるのは一人で助けにきた人が、大立周りをしている姿である。

 どうして、助けにきたのか。

 彼女にとって彼は助けてもらった人であり、同時に憧れの人であった。

 もっとも一緒に暮らす中で憧れは薄れてきている。

 朝が弱く、だらしがないし。細かい事には気が付かないし。自分がどれだけの勇気を出して――もっともその理由は色々あるにせよ――ここまで来たのか分かってないし。

 不満という不満は挙げればきりがない。

 けれど彼との生活自体は楽しかった。事情があるとはいえ――この人を選んで良かったと思っている。

 だからこそ彼女はここまで助けに来てほしくなかった。

 彼が平和を望んでいるのは知っている。稼業に対してけして良い想いをしてない事も理解している。

 平和にいてほしいと思う。その為には自分の事にまきこむべきではない。

「私は――」

 ――けれど同時に、嬉しく思っている自分がいる。

 そんな彼が自分を助けにきてくれている。

 彼女はそれを見て、ぎゅっと手を握りしめた。

 私は……何をやっているのだろうか。

「――――いかなくちゃ」

 こんな所で泣いている場合ではない。

 せめて出来る事をやらなくてはならない。

 そうでなければ、彼に申し訳ない。


  ■


 流石にそれなりの奴はいたらしい。

 木っ端は別にどうでもいいのだが、それをまとめるのはそれ相応である。

 ――強いな。

 不味いという意識がある。

 今の自分では勝てない。このままでは負けるという客観的な視点がある。

 まして騒ぎを聞きつけた人が遠巻きとはいるのがまずい。

 この集まった人を守りながら、こいつを倒すのはほぼ不可能だ。

「もうちょっと真面目に練習しておけばよかったかな」

 今まで維持する程度の練習はしてきたが、それだとどうしても足りない。

 いやそれいったら僕に預けるなっていう話だし、さっさと助けよこせやっていう話なんだが、かといってそんなのを今の自分で叶えられリはずもない。

 ガラッと瓦礫をどかしながら現れた目の前の敵にはダメージは見えない。

「ちょっと頑丈すぎないか?」

「それが取り得でね」

「それ、どっかに捨ててきてくれませんか?」

 二カッと笑いながら、半裸の男がいった。

「しかし貴方もしつこいですね。しつこいのは嫌われますよ」

「その言葉、そっくりそのまま返す」

 ジリジリと間合いを詰めながら、軽口を返す。

 ジリ貧だった。

 こちらは人を守りながら、こいつを倒す必要がある。助けながらこの場を離れるというのも考えなかったが、ほおっておいた場合を考えるとこの場でどうしても倒す必要があるだろう。

 対して相手からしたら別に周りを気にする必要はないはずだ。

 つまり誰を殺してもいいし、気にしなくてもいい。

「……場所変えない?」

 相手は獣の様な笑みを浮かべ――踏み込み。

 だよな! やらないよな!

 俄然に迫る拳をさばき、そのまま拳を放つ。

「軽い!」

「お前は重すぎ!」

 だが僕の拳は通らない。

 単純に相手が強すぎるのだ。

「あんたみたいなのは嫌いだよ!」

 脚を生かしてその場から離脱。壁や電柱を利用してそのまま距離を取る。

 サブミッションでと思わないが、あそこまで硬いのであるならば自分では掛からない可能性の方が高い。

 下ではこちらを見て笑っている姿がみえる。

 

 ――轟!


 地面に亀裂を与えながらその身に宿る力を使った跳躍!


「――こいつ!」

「逃がしませんよ!」


 厄介すぎる!

 人目を気にしない上に、被害もどうでもいいとかどうすればいいんだ。

 目の前に迫る敵の姿――そのまま僕の身体に向かって突っ込んでくる!


「ぐうぅぅぅ!」

「シィ――!」


 体当たり気味にきたそれを十字受けで受けるも、衝撃を消すことなんてできない。

 そしてそのまま腕をつかまれる。

 やばいと思った時にはもう遅かった。そのまま腕の力で円の軌道を描いて下に叩きつけられる。

「ーーッ! 離せ!」

掴まれた関節への蹴り。

だがするりと腕が抜け、代わりにやってきたの右の拳である。

それをもろに食らってしまい、地面を転がりながら吹き飛ぶ。

 意識が飛びそうになる。

 あちこちに痛みが走る。

 これは予想以上に不味い状態だった。


「所詮は末端。この程度ですか。いままでのと大して変わらないですね」コツコツと嗤いながらゆっくりと近づいてくる。「貴方も人と同じように所詮は家畜。餌としてくってあげますよ」


 嫌らしい笑みを浮かべながらこちらに近づいてくる。

 実に嫌らしい笑みだ。人を食い物としかみていない。


「……お前は人を食ったのか」

「ええ――それが何か?」


 食う――つまりはそういう事だろう。

 

「は……ははは」

「……まさか壊れましたか?」


 体を起こすも、血が足りないのか、体にはうまく力が入らない。

 でもそれでも……ここで倒れたままなのはどう考えても駄目だった。

 

「ああそうかい」


 他者に命を懸けるなんて馬鹿のやる事だ。

 それよりも自分の命が大切だと思うし、そんな事をして死んでしまえばただの無駄死にすぎない。

 

 ――返って来たのはナイフ一本だけ。


 かつてそれで死んだ兄貴は何も残してない。

 残ったのは泣いた家族とナイフだけだ。

 泣きはらした顔と別れの挨拶もできないままお父さんはという子供と。

 馬鹿だと思う。あんなのは御免だ。

 だからこそ、自分の命を懸けるのなんて嫌いだし、たとえどんな状態だろうともそんな事はしたくなかった。


「気に入らない……!」


 僕は――俺は大層な思想なんていらない。

 人を守りたいなんて思ってもいない。

 今でも家の価値観はくそくらえだと思っている。

 だが――


「お前のやった事――心底気に入らねぇよ!」


 ――人を殺して、それを誇っているその性根が気に入らねぇ!


 ガチリと意識が切り替わる。

 灰色が白に近づいて行く。

 人からより――妖魔に近づいていく。

 体内にある血を回す。ただ目の前にあるそれを殺すことに意識が切り替わる。内部が意志に従い燃え出し、それが自分の体にも変化をもたらし、ところどころが燃えだす。

 こちらの様子の変化をみた相手が脚をとめる。

 人の体でいられるのはもって5秒だろう。


「カグツチ――」


 ――1秒。

 

 自分を燃料として、人から神に近づく。

  

 ――2秒

 

 足元を爆発させながら前に。


 ――3秒


 相手が驚愕の顔を浮かべる。


 ――4秒


 そのまま踏み込みの力を体をひねり脚へ。


 ――5秒


「チィィィ――――ィィィヤァァァ!」


 そして相手の内部に力の全てを叩き込む!

 カグツチ――神の名前を借りたこの技は己の血をより活性化して妖魔になる技だ。

 ただし自分の中にある血に人である事を殺される諸刃の剣である。

 使いすぎれば待っているのは、獣と同じか、あるいはただの化け物か。

 解っているのはロクな事にはならないという事だ。 


「ぐぅぅ……! けれど耐えましたよ!」


 相手がニヤリとこちらを観る。

 そしてこちらに向かって歩こうとして歩みを止める。


「な、なん……これは……」

「カグツチ――俺の力をお前の内部に打ち込んだ」

「それは、あ、熱い、熱いあああぎぃああああ――!」

「お前は燃えて死ね」


 その燃え死ぬ様を観ながら、僕はバタリと体を倒した。


「ああ……やっとか。でもこっちも」


 失敗した。

 視界が元に戻らない。

 体がいつまでも熱を持ったままだった。

 このままならば自分も待っているのどうなるか分からない。

 

「せめて、どうにか人でいたいけど、無理かな」


 頭の中では良く分からない衝動が起こっている。

 暴走しそうな何か――これが本能に身を任せようとしている。

 一刻も早くこの場から離れないといけないと思うが……困ったことにそれをするだけの力が湧かない。


「……護さん」

「……くるんじゃない」


 そう思っていると、彼女が近くに。

 できれば一番近くに来てほしくなかった人だ。

 彼女は僕の言葉を無視して、こちらに寄り添う。 


「どうして来た……今すぐに逃げろ」

「……大丈夫」

「触るんじゃない。僕は――俺はお前を」


 不意だった。言い切る前に口をふさがれる。

 何秒だろうか。それと同時自分の中で暴れようとしていたのが収まってい苦のが分かる。


「これは……」

「これが……私の力です。鎮め、封印するのが私の役割」


 ――これが彼女の力か。

 だからこそ狙われた。

 確かにこれならば狙われるのも分かる。

 何せ一度暴走したならば、それを抑える方法なんてない。

 基本的にはそのまま堕ちるのが定石であり、人に戻るなんてない。

 彼女に体を起こすのを手伝ってもらいながら体を起こす。

 そうしていると、遠くからは多くの車の音とサイレンの音が聞こえてくる。

  

「大変な事になっちゃったなぁ……」

「そうですね」

「全くだ。馬鹿者」


 裏から声が降ってくる。

 声の方向に顔を向ければ見知った顔。自分の姉の姿だった。


「……おせーよ」

「これでも急いできたんだ」

「もっと早く欲しかったわ」

「それについてはすまない」


 スーツ姿でタバコを吸いながら、凛とした声で姉が言った。

 全く悪いなんて思ってない様子だが、こう見えて顔にでないだけの人だ。きっと内心では後悔してるのだろう。


「いいよ。もう終わったし」

「ああ。……よくやった」紫煙を吐き出しながら「後は私達にまかせろ」

「そうするよ」


  ■


 あの戦いから一週間が経った。

 結局のところ、あの後色々とゴタゴタがあり、どうにもこうにも元の家にはいられなくなってしまった僕たちは、田舎に避難することになった。

 何せあれだけの大立周りだ。どうやっても色々と人目にはついたし、彼女の事を考えると同じ場所にいる事なんてできなかったのだ。


「とはいえ……結局まだ解決はしてないんだよな」


 結局は彼女の問題が片付いたわけではない。

 彼女を襲ったのがどこの誰なのかも分かってないし、何故狙われたのかもわかってない。

 一応の推測はあっても、だからといってすぐさまそれが解決に向かう問題でもなかった。

 むしろこれは一生ついて回る問題で、どうにもならないといってもいい。

 そうして益体もない考えをしてながら外を歩いていると、その彼女の姿が縁側でみえる。


「あ、おはようございます」

「ああ、うん、おはよう」

「隣、座ったらどうですか?」

「……じゃあ、失礼して」


 言われるままに座り、一緒に外を眺める。

 隣をみれば微笑んだ彼女の姿。

 ……こうした姿を観れるのならばあれだけの事をやって良かったと思う。


「あの……」

「ん?」

「怪我、どうですか?」

「怪我は大丈夫だよ。なんだかんだで頑丈だからね」

「良かった」


 おどけるように腕をぐるぐる回していう。

 それに対して彼女はほころぶ。


「そういえば……聞きたかったんだけど」

「はい。なんでしょうか?」

「どうして僕だったんだ?」

「それは……」言いずらそうに一度彼女は言葉を貯めてから「昔、約束したの覚えてないですか?」


 ――約束。

 それはあれだろう。次も助けるといったあの。


「覚えてたのか……」

「はい……ずっと覚えてました」

「そっか」


 ずっと昔の約束だ。それこそ忘れてていい小さなころの約束である。

 

「じゃあさ……また約束しないか?」

「え……」

「ほら、小指だして」


 おずおずと彼女が小指をだす。

 それに僕は自分の小指をからめる。


「――ずっと君を守る」

「――」

「ちょ、な、なんで泣く!」

「だ、だって……」

「あーその……」

「はい……」

「約束は、その、守るから」

「うん……」

「これからもよろしく」

「こ、こちらこそお願いします」

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