第695話 クサーヴァーの裏切り
「キトリー嬢、どうか息子を悪く思わないでやってくれないか。あれは魔王を二度と復活させぬために、あえて自身の望まぬ事を、父親命令で行っていたのだ。」
キトリーの怒りにミロスラーフが割って入る。
「何よ!あんたが元凶か!あんた実の息子にこんな非道な事をよくもまあ平気な顔してさせてたな!」
ああこれは駄目なパターンだな。ミロスラーフの言葉に怒りしか感じていないなあのお嬢さん。いやもうお嬢さんって年じゃないけどね。
「父さんもう今更さ。ここのメンバーに理解してもらおうとは思っていないし、言い訳もしない。」
そういうクサーヴァーの顔は、苦しそうなんだよね。
それもそのはず。クサーヴァーは勇者パーティを裏切るのに物凄い抵抗があったようなんだよね。
しかし、自身と父親の目的の前にはそんな事は些細な事。
魔王城で魔王が討伐される、そう思ったまさにその時クサーヴァーは裏切り、魔王の配下となったのだから。
しかもあらかじめヨーリスが持っているゲートをヨーリスから借り、密かに解析・複製を行い、今回の準備を進めていたのだからその心中たるや・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「危ない所だったが、まさか本当に裏切ってくれるとはな!」
ここは魔王城。勇者パーティを裏切り、徹底的に追い詰めたのがクサーヴァーだ。
目の前には魔王と側近たちの姿が。
そして魔王と対峙しているのは、クサーヴァーだ。
「事前に話してたと思うんだけど?俺はあいつらがずっと気に食わなかったんだ!だから土壇場で裏切って、絶望感をたっぷりと味わいさせたかったんだ!」
「まあそれはわかっておる。しかし今は何もできぬぞ?我は数多の魔法を扱えるが、聖魔法だけは駄目なのだ。唱える事も出来ぬし、受け付けぬ。故に深手を負えば自然に治るのを待たねばならぬのだ。」
その強大な力と魔力で魔王は魔族を従えているが、その力ゆえに滅多な事では怪我をしない。
そんな魔王にも唯一の欠点がある。
聖魔法のみ扱えない。しかも自身の体が聖魔法を受け付けない。
つまり魔法での回復ができないのだ。
しかもあらゆる耐性を持っているがゆえに、一切のポーションは魔王に対しその効果を発揮する事はない。
従って怪我をした場合はじっとしている他ないのだ。
そして魔王が居城としている魔王城。
ここは魔王にとって自身の力をより発揮できる場所。
故に勇者と争わねばならない時は、自身が最も有利になる魔王城へと誘い込み、仕留める。
今回もそうなるはずだったのだが、勇者達の装備が思いのほか強力で、あわやとどめを刺されるところまで追い込まれたのだ。
「実は勇者を殺す機会がありまして、魔王様は赤の空をご存知でしょうか?」
「ぬ?あの5年に一度の現象の事か?」
「はい。あの現象が発生した折、勇者にとって一番不利になる時と場所がございまして、そこに誘い込みます。その折は魔王様自ら出向いていただければ、憎き勇者を打ち滅ぼせますよ。」
「それはまことか?今我はこのざまだ。またこのようになるのではないか?」
「いえ、間違いなく勇者はその力の大部分を一時的に失う時があります。その時に魔王様が勇者に挑めば勇者は死に、復活はしないでしょう。」
「それはいいな!まあそれまで我は休む。側近、後は頼むぞ。」
「は!」
【父上成功しましたよ。魔王にこびへつらうなんて屈辱以外のなにものでもないですが、このような些細な事で本来の目的を忘れる事はないですが。】
そう独り言つクサーヴァーだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます