第29話 トンネル
「あんた、バカじゃないの…」
ゴギョウの掘っていたトンネルに出るとその完成度にミナミはまた呆れている。
地面はほとんど平で、固められた土。天井は高く壁にも輝石が埋め込んであり遥か遠くに見える入り口までトンネル内を明るく照らしてくれてる。
穴を掘るだけなのでクラフトスキルのレベルは関係がないだろうが、これだけのトンネルを掘るのは相当な時間がかかるはずである。
「いや、まだ2日目だけど」
「おかしいでしょ…、石壁の村は知ってるけど街に行くには山を越えなきゃいけないからその山道も転位者が道を整備したらしいのよ。それもかなり時間がかかったって聞いてるけど…」
「でも、山道はあるけどモンスターとか多いし安全じゃないって聞いたよ。だから怖いし穴を掘ってみようかなって…」
ミナミは信じられないものを見る顔をして冷たい視線を送ってくる。
「あんた、もしかしてクラフトアドベンチャーの時、ずっと穴掘ってたの?」
「そうだなぁ、穴も掘ったらけど地面を平らにしたりもしたぞ。ほら、大きめの山とかが平地になるのってきもちいいよね!」
ミナミは喋るのをやめ、早足でトンネルを歩き始めた。
とりあえず、外はまだ明るいようだがじきに
日が暮れそうだと感じた。
ゴギョウは突然途切れた会話に不思議そうに首を傾げてあわててミナミを追いかけた。
地下へ続く入り口は再び材を使って閉じたので誰か間違って侵入することはないと思うが、あの黒ゴブリンのボッカはどこから外に出るのであろう。
ミナミのやってきた街への入り口は崩れてしまったと言うし、もしかしたら他にもそういう場所があるのかもしれない。
ボッカとミナミが話していたように見えるのはもしかしたら別の入り口についてなのかもしれない。
そういえば魚村へ向かったルッカはどうしているだろうか。
たった数時間地下に潜っていただけのはずだが、ずいぶんと前のように感じる。
ちょっと覗くつもりが敵らしい敵との戦闘のようなものもあった。
これまでは蛇やカエルなど、動物のようなモンスターばかりだったが、足で立ち腕を振り上げて攻撃をしてくる人型のモンスターと初めて出会いこれまでと違う恐怖に覚悟を決めたゴギョウであったが、やはり荒っぽいことよりのんびりと過ごしたい。
毒の沼地ではあったが転移してきたしばらく過ごした日々のような、スローライフを送りたいと思う。
自分の腕や、沼地の拠点にいるオームの足を治せる方法を探し終えたらまた沼地に戻り、拠点をさらに暮らしやすくしようと決める。
この後、この世界への転移についてミナミに教えてもらうのだが、ミナミ本人が知っているわけではなく、街にいる詳しくは調べている転位者のグループがいるらしい。
ミナミから聞くのは彼らに教えてもらったことのようだ。だから細かいことまで覚えていないらしいし、本人はこの世界で生きていくと決めたらしくあまり興味もないらしい。
この世界で生きると決めたということは、元の世界に帰る方法のようなものはまだわかっていないのかもしれない。
すでに何年か暮らしている人もいるようだし、期待はあまりできなさそうである。
もやもやと思案しながら歩いているとトンネルの出口が近づいてきた。
外へ出れば村まではすぐだ。もうすぐ夕暮れだろうか。
一応、明るいうちに戻ることができたのはルッカにも心配をかけないですみそうだし、良いことだろう。
石壁の村を目前に、宿にいるであろうルッカについてミナミに説明をする。もし、モンスターなんかと間違えたりなんてされたらルッカがかわいそうだと思ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます