第18話 埋もれた坑道


 宿に戻るとルッカは水浴びを済ませ、食事も先に食べてしまったようだ。


「先に食べるなんて冷たいじゃないか」


「申し訳ありません!ですが、今日のゴギョウ殿の穴掘りについていくのはかなり疲れるのですよ!」


「まぁいいけど…。テトさん、僕の食事はまだありますか?」


「ありますよ、スープとパンですけど」


「ありがとうございます。ところで、宿賃っていくらなんですか?」


「いえ、壁の補修が代金の代わりなので大丈夫ですよ」


「もう少しここに泊まることになりそうなんです、エルフのおかみさんのお店で鉱石とか買い取ってもらえるようなので」


「うーん、そういうことなら…でも明日まではお代は結構です。それより長くなるようでしたら一泊銅貨6枚でお願いします」




 その後は簡単な食事をもらい、タライに湯を持って部屋に戻って体を拭いてベッドに潜り込む。

 ルッカも同じ部屋で寝息を立てている。


 

 翌朝、昼飯をもらい掘りかけのトンネルへ向かう。

 昨日購入した輝石を革のベルトに固定して頭に装備する。

 ゴギョウのモジャモジャ頭は締め付けられ瓢箪のような形になる。ルッカが笑うのを我慢している。

 ゴギョウが歩く度にぽよぽよと揺れる。

 ルッカにも輝石を固定した帽子を被ってもらい道中を照らす。


 この日もトンネルを掘り進むゴギョウ。相変わらず無言である。

 黙々と同じ作業を繰り返しルッカも引いてはいるがだんだん慣れてきていた。


 時々横道を掘りチェストボックスを設置、必要のない土だけを放り込む。


 朝から掘り続け昼頃になる。と言ってもトンネルの中では太陽も見えずゴギョウたちには時間の感覚はあまりないのだが。

 探知魔法を使って距離などを測っていたルッカぎピタリと立ち止まる。


「ゴギョウ殿!」


 つるはしを止め、振り返るゴギョウ。


「ん?どうしたのルッカ」


「この先になにか、通路のようなものが…ありますね…」


 顔を参考方向とは違う壁に向け照らす。

 CAWOでは洞窟や地下空洞などはあったが、ルッカの言った「通路」となるとようわからない。洞窟だろうか。

 どちらにしろそういうものはゴギョウも大好物である。地下空間を見てみたい。


「よし、掘ってみよう!」


 いそいそとつるはしを振り下ろし、ルッカの示す方向へ進んでいく。


 しばらく掘り進めると地層の様子が変わる。

 これまでは土や石、鉱石などを含んでいたのだがほとんどが岩になる。

 おそらくこの辺りから空洞があったのだろうが、岩盤が崩れたのか、岩石だらけになった。


 一際大きな岩を崩すと、果たしてそこにはがらんとした空間があった。

 4メートル四方ほどの通路のようだ。どこまで続いているのかは見えない。

 床はしっかりと踏み固められ、落盤防止だろうか所々に木枠で補強してある。


「坑道みたいだな…」


「そうですね、ずいぶん古いものに見えます」


「注意して進んでみよう」


「はい!」




 身に付けた輝石だけのおかげではなく、所々に青く光る鉱石がある。全てをとってしまうと暗くなりすぎるため、少しだけ採掘をしてゴギョウのアイテムストレージやルッカの小さなカバンにもいくつか入れておいた。

 何事もなくうっすらと青く照らされた坑道のような道をしばらく進む。

 崩れた木枠も木材として回収しておいた。ちなみにトンネル採掘で得た石材や土はほとんどをここへ入る前に作成したチェストボックスに入れておいた。

 

 急に道が開け、10メートルくらいの空間に出た。四角い空間の中央には3メートル四方くらいの穴が2つ開いて、天井に設置された金属と木材を組み合わせたような箱からそれぞれ太い鎖が2本ずつ垂れていた。

 底は…全く見えない。完全な暗闇だった。とてもじゃないが鎖を伝ったところで降りられそうな気はしない。

 壁を見ていると大きなレバーのようなものが生えていた。


 ゴギョウはルッカと目を合わせ、小さく頷いてお互いに合図をする。

 ゴギョウが右手でレバーを掴み、体重をかけて下に向け倒した。



 ガガッ、ド派手な音がして右側の穴の鎖が動き出す。ギャリギャリギャリとけたたましくなりながらしばらく何も変わらない。


 ギギギギ…と音が大人しくなると下の方から床のようなものが迫り上がってきた。

 木製の床に金属の、籠のようになった箱であった。

 


 ガシャンッ!


 横に鉄枠がスライドし、入口が開いた。



「ゴギョウ殿!!!」



 ゴギョウはビクッとしたが、すぐにショートソードを抜き放つ。

 何か来る!


『ゴアアアアッッッ!』


「ひっ!」


 スキルの壁を前面に展開してショートソードを片手で構える。

 中から出てきたのは異形の化け物だった。


 白くぶよぶよした体。腕が脚に比べて異様に大きく、手足には濁った白のような色の爪。

 頭が在るべき位置は大きく盛り上がり目や耳などはなく、無数の牙が生える口だけがある。

 随分前傾した姿勢だがそれでも人の大人ほどの大きさがある。

 恐ろしい呻き声は確実に敵意が含まれていた。


 白い生物が腕を振り上げてゴギョウに向かって走ってきた。

 ゴギョウは頭上から振り下ろされる爪を後ろに飛んで躱すと、強く地面を蹴って距離を詰め空振りした腕にショートソードで切り掛かった。


 刃は化物の白い肌をたやすく切り裂き、即座に毒に染めていく。

 グオオ、と呻き声を上げてわかりやすく動きが鈍る。


 ゴギョウは返す剣で腕、脚、頭、胴体と何度も切りつけたのだった。


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