先生は殺人鬼に性的に食われています

桜さくや

プロローグ

本物の恐怖は、声を出すことすら許さない。僕はそれを身を以て実感していた。


街灯もまばらな夜道。

光る脂ぎったナイフ。刃先から滴る血。

見上げる僕。見下ろす大男。

その後ろには肉塊となった元人間が無残に転がっている。


大男が一歩僕に近づく。

腰を抜かして地面に尻をついている僕にできることは何もない。手の力だけで逃げようとすれどガードレールに阻まれる。


「嫌だ・・・・やめろ・・・来るな・・・・!!!」


絶叫したつもりだが情けない空気の音しか出ない。

嫌だ。死にたくない。助けてくれ。誰か、助けてくれ!!!


祈りもむなしく大男は僕に手を伸ばした。手は僕の胸ぐらを鷲掴む。

僕の体は宙に浮いた。


ああ、もう終わりだ。僕はここで死ぬんだ。メッタ刺しにされて、もしくは首をゴキっと一捻りで・・・。

僕はぎゅっと目をつぶった。もうこれ以上の恐怖はごめんだった。なるべく自分の最後を感じないようにしたかった。


しかし、次に僕を襲ったのは体を破壊される恐ろしい苦痛ではなく、ふわりと地面に下される優しい感覚だった。


「・・・・え??」


僕を置いて手を離した大男を、僕は間抜け面で見つめる。

僕はガードレールの向こう側の草むらに下されていた。


「寝るならそこがいい。車道じゃあ轢かれるから」


彼の声は、背後に転がる死体にあまりに似合わない、柔らかい音だった。

あっけにとられる僕を背に、彼は歩き去って行った。

タオルに包んだナイフを小脇に抱え、ポケットに手を突っ込み、まるでコンビニから家に帰るだけかのような様子で。


夜風が、吐き気を催すほど濃い血の臭いを運んできた。

死の、臭い。


「ああああああああ!!!!!!!」


僕は今度こそ闇をつんざく絶叫を上げ、気を失った。

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