第8話・海斗・告白


 僕が君を気になったのは。

もちろん君が魅力的だったのと。


しいて言うなら、亡くなった当時の妻と、君が同じ年齢だったから・・・なのかもしれない。


 仕事関係の一部の人間と、わずかな身内にしか話していないが。


 妻は、3年前に病気で亡くなった。


 君の事を知る前。


僕はあまりにも早すぎた妻との別れを、ようやく受け入れ始めた所だった。


 そして、いったん、仕事も、生きる事も辞めてしまおうと。


そういう準備をしている時だったのだ。


その時に、叔母の親戚のつてで、紹介されたのが、君だった。


君は、僕と同じ配偶者を無くした境遇なはずなのに、僕よりもずっと強く、逞しかった。


 妻と君を重ねて見てたわけではないけれど。


 君に、妻のぶんも、妻が重ねるはずだった年を、これからもずっと重ねていって欲しくて。


 君の夫が事故にあった事に関しての莫大な手続きを手伝っていくうち。


妻を幸せにできなかったぶん、君には幸せになってほしい。と思うようになっていった。


 僕の手を借りながらも、事故で亡くした翌月にはすぐに仕事に復帰し、現実を受け入れ、苦しみながらも僕に時折心境を話してくれる君に、不謹慎ながら僕は励まされた。


 妻が逝って、抜け殻だった僕を。


君は何も言わずに、ただ頼ってくれた。それに、僕は救われた。


こんなに誰かの為に何かしてあげたいと思えたのは久しぶりだった。頑張れたのは初めてだった。


「・・・・・。」


 ここまで、自分の打ったメールを見て、僕はため息をついていた。 



 通勤の帰りは、いつも車の中でPCを空けてメールをチェックする。なぜかPCの方が調子がいい時があるのだ。そして、最近は。この編集中の、君へのメールを広げていた。

 


あの時、君は僕を受け入れてくれた。


僕は夢中で、もう会えないと思い、必死で君を捕まえ、そして・・・君自信を求めた。


それを、指輪をしている僕を既婚者だと思っている君は。

君を誘ったことを、君はどう受け入れたのか。さよなら、と君は言ったが。


 君を想うと。

ものすごく怖くなった。


 PCを閉じ、車から出てきたとき。

見慣れた、顔があった。

・・・・君だった。


「・・・・。」

目を思わずほそめた。懐かしい。一週間会わなかっただけで、どうしてそう思うのだろう。何度も触れ合った、久しぶりに会った恋人みたいに、彼女は僕に近づいてきた。


「・・・個人情報もれてますよ。」


「え・・・?。」

何を言われているか分からなかった。僕は思わず、PCが入ったカバンを見た。


 君は手に、茶色い、封筒のようなものを持っていた。

差し出されたそれには、一枚のコピーが入っていた。


 君に送ろうとした、あのメールだ。


「伊藤さんの・・・同僚のかたが、これを偶然覗いてしまった事、謝ってました。その人から、私の身内へ。いろんな人経由で、私の所にこれが来ました。開封したのは私だけですけど。」


 どくんどくん・・・・と胸が高鳴る。なぜ・・・・メールの分を見てしまう。君がなぜよりによって・・・・。ぼくは、後ろの車にもたれ頭をかかえた。


 何だろう。

ばつが悪いような・・・、勝手に好きな女の子をばらされて顔を隠したい気持ちなような・・・・。

と言うより、君とはあの夜のあとだし、どんな顔をして君をみたらいいか分からなかった。


しかしそんな僕とは正反対で、君の口調は穏やかだった。


「私。あなたが好きです。」


「・・・・!。」


 君の顔をやっと見れた。


「この、あなたが私に送ろうとしてくれていたメール。いろんな人のつてで私の所に来ました。みんな、私と貴方の背中を押してくれています。」


 夕陽を背に立つ君は、なにか大きな事を宣言しているジャンヌダルクのようだった。その君の言葉はひとつ、ひとつ、僕の心にしみわたっていった。


 そして、僕の瞳から涙が溢れていた。

 

君に愛されていると実感しながら、僕もまた君に、今度こそ言葉で伝えたいと思った。

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