第3話

「入部届けの追加をもらいに来たんだよ」


奥川は出入り口付近の書類棚を開けると、そこの紙束を真っ直ぐに俺に押しつけた。


「はい。ちゃんと書いてもらいなさいよ」


「部外者は入室禁止!」


「お前にも入ってほしい。ずっと言ってるけど、そろそろ本気で考えてくれないか?」


彼女と目が合う。


俺は奥川とのつながりを、関係を、一つでも多く増やしておきたい。


「部外者は入室禁止だって!」


「考えとく」


くるりと背を向けようとする彼女に向かって、俺は手元にあった一枚の紙を差し出した。


「はい。じゃあこれ」


奥川は差し出されたそれを、じっと見下ろす。


彼女の手がそこに伸びるまでの数秒間が、とても長く感じられる。


「部外者は入室禁止!」


「早く行きなよ。みんな待ってるよ」


ややうつむき加減にそう言った彼女の表情が、なぜか胸に焼き付く。


もう少し一緒に居たかったけど、庭木はうるさいし、これ以上彼女のそばにいても、何も変わらないような気がした。


「じゃ、また」


俺は廊下に出ると、生徒会室の白いドアを閉めた。


俺の閉めたドアの、その何が気に入らなかったのか、庭木が顔を出す。


顔を出したかと思ったら、庭木はすぐにわざとらしい大きな音をたてて、乱暴にドアを閉め直した。


ホント、やな奴。


仕方なく理科室をのぞきに行くと、1年たちが鹿島を中心に何かをやっている。


それが俺にはなんだか別次元の出来事のように思えて、廊下から中へ向かって叫んだ。


「鹿島、鍵はあいつに返しといて」


精一杯の爽やかな笑顔を振りまいて、特に何の予定もないのに、何か特別な用事でも出来たかのような態度で手を振る。


鹿島は小さな声で「はい」と応えただけで、すぐにうつむいたまま、それ以上何も言わなかった。


行き場をなくした俺は、仕方なく2年の自分のクラスに戻った。

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