第2話

「はいそこ、邪魔なんですけど」


そんな俺の背後から、ムカツク野郎の声が響いた。


生徒会長の庭木佐久馬だ。


いかにも真面目ですっていうような堅物で、背はそれほど高くはないけど、ガタイはいい。


奥川のまわりをいつもちょろちょろしている、ウザイ奴だ。


「お前、部長になったんだろ? ちゃんと自覚持ってしっかりやれよ。画像送れってメッセ来た時、俺の隣で奥川がキレてたぞ」


色々とカチンと来るセリフだが、ここは大人の俺が華麗にスルーしておく。


こういうのは、相手にした方が負けだ。


「まぁそれでも、なんだかんだ言ってちゃんと保存しておいてくれてるところが、アイツらしいけどな。普通とっとかないだろ、そんな写真」


俺と奥川は小学校からの幼なじみで、親も公認の仲だ。


母親同士も仲がいいから、小さい時はしょっちゅう一緒に遊んでいた。


「そんなの、偶然に決まってるだろ。消すの忘れてたか、それ以上に、別に何にも意識してなかっただけじゃないのか」


「後でまた、お礼言っとかないとな~!」


ワザと奥川にも聞こえるような大声を出す。


庭木の顔が、ムッとゆがんだ。


「じゃ、そういうことで」


何がそういうことなのかは、言った俺にも分かってないけど、庭木が不愉快に思ったのなら、それで俺の勝ちだ。


意気揚々と自分の教室に戻る。


自分の席に座って、全身の空気を吐き出した。


奥川とクラスが離れたことは残念だけど、こういう緊張から解放される瞬間があるのは、ありがたい。


俺の今日の1日は、もうこれで終わったようなもんだ。


本日最大のミッションをやりとげた俺にとって、残りの時間は部活の始まる放課後までの、暇潰しに過ぎない。


やっぱり奥川には、今年こそ、今度こそ、入部してもらおう。


名前だけでもいいから、何でもいいから、彼女とつながりを持っておきたかった。


そうすればまたすぐに、こうやって話しかける口実が出来る。


全くの心配とか不安とかはないけど、庭木の存在は気になる。


もう一度ため息をつく。


顔を上げたら、のんきな顔をした山崎が、遅刻寸前で教室に入ってきた。


俺はそんな彼の存在にほっとすると、そこに駆け寄った。

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