第2話
「なぁ、ついでに去年のエアレースも載せとく?」
彼はタイムラインに、会場のはるか遠くから撮影した自慢の画像をあげた。
「おい、そんなもんあげたって関係ないだろ」
「お前だって工場夜景載せてるだろ」
電子制御部のトップ画は、俺が部長に就任して以来、俺の自慢の工場夜景の画像に変えた。
「前の戦争遺跡の塹壕後よりいいだろ!」
前の部長は一人で山奥に分け入り、苔に覆われたかつての塹壕後を撮影してまわるのが趣味の人だった。
電子制御部である。
「山岳部かワンゲルと間違えられてたんだぞ! 『うちの学校にもワンゲル部ってあったんですね』とか言われて。写真部からも紛らわしいって苦情がきたから変えたんじゃねぇか」
「どうせなら電子制御部らしい写真にしろって言ってんの」
携帯でチェックした画面には、肝心の新歓モデルロケットではなく、ジブコ・エッジ540が並ぶ。
「だから、打ち上げたモデルロケットを、とりあえず上げろって!」
「えーっと、画像、どこやったっけ」
山崎がパソコンの画像ファイルを探す。
オンラインゲームの、美少女キャラばかりのフォルダーだ。
「んなとこに入れておくから、分かんなくなるんだって」
「お前の携帯からこっち送って」
仕方なく自分の画像ファイルを探す。
俺の中に保存されているのは、モンスターを狩るゲームの、お気に入り最強モンスターの画像ばかりだった。
「あれ? どこやったっけ」
「おいおい部長、しっかりしてくれよ」
山崎が笑っている。
クソ、部員が二人しかいないんだから、副部長であるお前にだって、しっかりしてくれてないと困るんだよ。
発射に失敗してもいいようにと、前撮りした画像だ。
赤いロケットを真ん中に、顔出しが正義とばかりに、二人でにっこり笑って写真を撮った。
それを奥川に送ってもらって、どこに保存したのか……。
「ない」
「どうすんの?」
「もう一回、奥川に送ってもらうか」
携帯でそのまま連絡をいれる。
数分後には、画像が送られてくるはずだ。
奥川なら、それくらいのことはやってくれる。
画像はきっと彼女の携帯の中に保存されていると信じている。
それは間違いない。
制服のポケットに携帯を戻した。
ガラリと理科室の扉が開く。
「電子制御部って、ここですか?」
現れたのはスラリと背の高く、明らかに男前に分類されるタイプの奴だった。
この陰湿な理科室に場違いなこと、この上ない。
俺と山崎は顔を合わせた。
「え、何の用ですか?」
生徒会本部にこんなのいたっけ。
新歓のあとの片付けは、今回は各部活からの動員はなかったはずだ。
「えっと、見学に来たんですけど」
ここは理科実験室。
流しのついたテーブルの6台が床に固定されていて、同じように固定された椅子が並ぶ。
棚にはビーカーとか試験管なんかが置かれているが、普段は鍵がかかっていて開けることはできない。
電子制御部に許されているのは、準備室の棚一つと、理科室の棚一区画分だけだ。
部員は俺と山崎の二人のみ。
延長コードで繋がった、型落ちの古いノートパソコンの画面だけが、唯一光っている。
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