第7話
晩餐会後は、帝国内の主要施設の見学をさせてもらったりと、ランドリア帝国での数日間の公務を大きな失敗もなく終えることができた。有意義な時間も過ごすことができ、自身の見識を広げることができてとてもよかった。
「お嬢様、お疲れ様でございます」
「ありがとう、あなたもゆっくり休んでくださいね」
「ありがたきお言葉にございます」
帰国時には少し、皇太子殿下やイクセル様とお話をしてから出発した。わざわざ皇太子殿下とイクセル様がお見送りに立ってくれるなんて、光栄なことだ。ほかの招待客がどんな風に見送られているかは知らないので、何とも言えないけれどね。
また馬車に揺られてゆっくりと旅をしながら帰り、同伴してくれたメイドにお礼を述べる。彼女のおかげで今回も乗り切った。同伴してくれるメイドはいつも同じなのだが、彼女のメイク技術などは本当にすごいし、武術の心得もあるみたいで、護衛の面でも助かっている。
「はー……」
帰り際にそっと渡された、イクセル様からのお手紙。普段は郵便でのやり取りが多いが、こうして外交などで直接会う際には手渡しをしてくれる。
大きく息を吐いて、深呼吸をしてから丁寧にペーパーナイフで封を切る。ブロムストランド公爵家の家紋が入った封蝋でいつも届くそれを、楽しみにしているのは秘密だ。
「ふふ、そんなことがあったのですね」
数枚の直筆のお手紙、内容はクスっと笑えるものばかりで、荒んだ心の癒しだった。最近では王太子が熱を上げている恋人の存在を知っている王家、特に王妃からは王太子の心をつかめない私が悪いと責められる。
思ったよりもそれが心に来ているようで、お城へ向かうと胃が痛い。
「うん、私も何か面白い話を見つけておかないとね」
残念ながら、私は王城で楽しいことなんて見つけられないし、婚約者はお飾りと話題に苦しむレベルで見つからない。いつも、家族の話題や諸外国への外交時に見つけた植物や景色の話をしている。
「優しいなぁ、イクセル様は……」
『愚痴でもなんでも、聞かせてほしい。それから何かあったら、いつでも頼ってくれ。助けに行く』
私が抱えているものに気づいているような最後の文章。これは、手紙の最後に必ず書かれているもので、こちらを常に心配してくれているのがわかる。
「イクセル様のような方が、婚約者だったら……って、だめよ。私みたいなのには……それに、王太子の心をつかめない私が、イクセル様の心をつかめるわけがない……」
フルフルと、頭を振って自分の考えを強引に打ち消す。婚約者の心をつかめない私が、ほかの人の心をつかむなんて無理な話だ。
恐れ多すぎるし、そもそも私は恋なんてものをする暇はない。家族を助けるために、常に最善の選択をしなければならないのだから。
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