第3話
王太子の婚約者に選ばれてから、王城へ赴いて厳しい妃教育を施される日々が始まった。少しでもできなければ指示棒で叩かれ、容赦なくしごかれる、そんな教育。
しかし、私はループ十二回目でこの妃教育を受けるのも十二回目。できないことはないと言って良い。何もかもを完璧にこなして見せ、教師も王妃殿下も驚かせてやった。そんな私にとっては寝ながらだってできるような内容も手を抜かずにしっかりと身に着けて数年が経った。
「フェリシア、とても頑張っていると聞いているわ。無理だけはしないでね」
「お母さま……」
母の元へも私の頑張りは届いているらしく、鼻が高いと褒めてくれる。そして私は完璧な公爵令嬢として、王太子を支えるにふさわしいと、自らの価値を示すことができるようになった。王太子は相変わらず、私のことは歓迎していないようで、事あるごとに嫌味をぶつけてきたりと、家族が知ればブチ切れ確定のことをしでかす。
もちろん、それの尻拭いと性格矯正も私の仕事であるが。
「フェリシア、困ったことや辛いことはいつでも言いなさい」
「ありがとうございます、お父さま」
父の耳には、王太子が女遊びを繰り返していることも入っているようで、婚約者を辞めてもいいと言外に伝えられる。けれど、婚約者を辞めていつ没落するかはわからない。今のところは我慢するべきだ。
王太子のことは私にとっては、はっきり言うと眼中にない。恋心どころか興味すらないので、彼のしでかしていることの後始末は大変だけれど、どうでもいい。
だから、彼が最近熱を上げている新しい恋人と、公務を放り出して遊び惚けていても気にならない。
「姉上、またお一人で行かれるのですか?」
「クライヴ……心配するようなことはないわ。私は、ベレスフォード公爵令嬢なのだから」
王立学園へ入学した弟が、私がまた一人で外交に参加するのを心配してくれているようで、表情が曇っている。ベレスフォード公爵令嬢、と言えば今では諸外国にその名をとどろかせるほどの、有名さ。そこまで自分の価値を示すのは大変だったけれど、頑張っただけはある。
その有名な公爵令嬢に何かしようなんていうアホもバカも諸外国にはいない。
「お気をつけていってらっしゃいませ、姉上」
「ありがとう、クライヴ」
遊び惚けている王太子の代わりに、隣国のランドリア帝国で開かれる外交に参加するために、朝早くから隣国へ出立する。通常であれば王家の馬車なのだが、なぜかベレスフォード公爵家の馬車で向かうことになっている。
「それでは、行ってまいります」
見送りに出ている家族や使用人たちに挨拶をして馬車に乗り込み、数時間ほどの旅をいかに有意義に過ごすかを考える。何もしない、というのもありだが、今回の外交は政治的な話が多く交わされると、招待客で予想ができる。
そうなると、事前に情報収集はしているものの、もう一度、各国の情勢などをおさらいをしていた方がよさそうだ。
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