第2話

「おはよう、フェリシア」


「おはようございます、お母さま」


顔を洗って身支度を整えた私は、ダイニングに集まって食事を摂る。すでに先に来ていたお母さまとお父さまに挨拶をし、席に座る。


「誕生日おめでとう、フェリシア」


「ありがとうございます、お父さま」


「フェリシア、王太子殿下の婚約者として選ばれた。嫌なら断ることもできるが、どうする?」


「お父さま、慎んでお受けいたします」


「そうか、わかった」


食事が始まってすぐ、家族みんなが誕生日を祝ってくれて、嬉しい気持ちになるのと同時に悲しい気持ちにもなる。王太子との婚約も決まったと伝えられれば尚更。


「姉上、おめでとうございます」


「ありがとう、クライヴ」


パアっと華やぐように笑顔を浮かべる弟にも、お礼を述べる。まだ幼いながらにしっかりとした受け答えができ聡明でもある二つ下の、自慢の弟。


「苦しいこともあると思うけれど、応援しているわ。あなたなら、できる」


「はい、お母さま」


母は身分が男爵と低い家格の出身で、公爵家の父とは結婚した際にかなり苦労したと聞いている。そのことを思い起こさせるのか、悔しいことなどがあっても、大丈夫だと励ましてくれる。


「僕も、姉上の弟として相応しい者になります」


「クライヴも、頑張りなさい」


「はいっ」


一家団欒の、穏やかな日。これが数年後には崩れ去ってしまうだなんて、思いたくない。私の家が王家と同じくらい古くから公爵家で、私がそこの娘でなければ、婚約者に選ばれることはなかっただろうに。そうすれば、私たちが苦しむことはなかったのに。


朝食を終え、父と一緒に王城へ向かう準備をする。今日、婚約者として国王陛下ならびに王妃殿下、王太子殿下にご挨拶をするのだ。


「フェリシア、行けそうかな」


「大丈夫です、お父さま」


「わかった。では、行こう」


「はい」


王城へ向かう道も、これから起こる謁見も全て、何度も何度も繰り返している光景。見飽きたと言いたいほどに繰り返した。


「フェリシア・ベレスフォード公爵令嬢、王太子の婚約者として頼んだぞ」


「はい、国王陛下」


父に問われたときと同じ言葉を返し、満足げに頷く国王陛下に微笑む。この顔も、何度も作った顔だ。王妃殿下と王太子殿下も謁見の間におり、王太子殿下は不満そうな顔だった。王妃殿下は国王と同じように満足そうな表情と、対照的。


「フェリシア……」


「お父さま……?」


「いいや、お前の選択だ。口を出すのはよそう」


「……お父さま……」


王城からの帰り道、王太子の顔を見ていたからか、王太子には歓迎されていないのを知って、それでいいのか、と暗に問われる。それでも、選んだのは私だからと尊重してくれるお父さま。


今度こそ、失敗しないように……生き残るために、私は常に選択し続けなければならない。間違いではなく、正しい選択を。


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