第二章  Viola

Prologue  手紙

 お姉ちゃんへ



 あらたまってお手紙を書くのも、なんだか変な感じがします。


 暦を見たら、私が村を出てからもうすぐ一月になるというので、ちょうどいい区切りだと思って手紙を書くことにしました。


 冬になって、だいぶ寒くなりました。お元気ですか。お兄ちゃんたちや、村のみんなは変わりないですか。


 私は元気です。森にはそっちの村より早く雪が積もるそうで、今は冬越しの準備をしています。家の近くを流れる小さな川があるのですが、その川の水がとても冷たくなってきて、冬が来たんだなあと感じます。村の溜め池にもきっともうすぐ氷が張るのでしょうね。とても寒いけれど、この家の中はいつも暖かいです。


 今日この手紙を書いたのは、魔法使いさんたちのことをちゃんとお姉ちゃんに知ってほしかったからです。あの時は、あまりきちんと話せなかったから。


 私は今、魔法使いさんの家で助手をしています。「弟子」というには、まだ魔法も使えないし、雑用ばかりなので「助手」ということにしています。魔法を使うには精霊の力を借りなければならないんだけど、そのためには精霊たちと仲良くならなくてはいけなくて、仲良くなるために精霊たちの姿を見られるように、存在を感じられるようにならないといけないって魔法使いさんが言っていました。私はまだ精霊の存在も分からないので、ずいぶん時間がかかってしまいそうです。


 この家には私と魔法使いさんの他に、チコリちゃんという子と、あとは精霊たちが住んでいます。


 魔法使いさんのお名前はモナルダさんといって、きれいな赤い目と髪の、とても素敵な人です。夕焼けよりも赤い、ノイバラの実みたいな目なんて、お姉ちゃんは見たことありますか? 初めて見たときはびっくりして、ちょっと怖い気もしたけれど、モナルダさんはとても優しい人です。魔法を使えるだけじゃなくて、お料理も上手だし、繕い物もしているし、魔法や家事で使う道具まで自分で作ってしまうし、魔法のことも森の中のことも何でも知っている、何でも出来てしまうすごい人です。不器用な私は薪を集めたり、ちょこっとお手伝いをしたり、あとは朝の仕度をしてみんなを起こすくらいしかやることがありません。


 チコリちゃんは長い黒髪の、今度の春で六歳になる子です。可愛くて明るい、とても良い子で、魔法使いさんのお手伝いでは私より役に立つこともあるくらいです。モナルダさんとは親子ではないけど、ずっと一緒にいるんだと話してくれました。精霊たちとも仲良しだそうで、少し羨ましいです。目の色は黒ではなくて、明るくてきらきらした、宝石みたいなちょっと不思議な色。つやつやした真っ黒な髪も、モナルダさんの赤い目と髪も珍しいけど、こんな色の目は初めて見ました。どうしてここにはこんなに珍しくてきれいな色が揃っているんでしょう。


 あと、一緒に住んでいるのは、犬の姿をしたソホさんと、小鳥の姿のアイさん。どちらも精霊なんだけど「うつわ」を作ったんですって。ソホさんはチィちゃんが乗れるほど大きな茶色い犬で、低い男の人みたいな声で話すこともできます。もし普通の人だったら頼もしいお兄さんか、町の職人の親方さんみたいな感じがしそう。アイさんは喋らないけど、応援してくれたり、手伝ってくれたり、モナルダさんのお使いをすることも多いです。私が見るときはいつもモナルダさんと一緒にいて、「相棒」って感じです。


 モナルダさんは今日からお出掛けで、私たちはお留守番です。毎年季節ごとに薬を作って町に行くんだそうです。今年も雪が降る前にって、風邪薬をたくさん準備していました。特別に少し貰ったので、もし誰かが風邪を引いたら使ってください。魔法使いの薬はよく効くから。


 とっても長くなってしまったので、この辺りでおしまいにします。冬は忙しいからお返事はいりません。また春にはお手紙を書きます。


 お姉ちゃんも元気で冬を越してください。



             ダリア

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