3 遥花のおっぱい

 今日は少し早めに起きた。


「あら、幸雄。どうしたの、珍しい?」


 キッチンで朝食の準備をしていた母親が言う。


「うん、ちょっとランニングでもしようと思って」


「どうしたの、急に?」


「まあ、ちょっとね……」


 僕は曖昧に誤魔化して、ジャージ姿で外に出た。


 春の朝方はまだ冷える。


 けれども、かすかに白い吐息を吐きながら走っていると、次第に体が温まって来た。


 1日でも早く、遥花にふさわしい男になりたい。


 そして、告白して付き合ってもらうんだ。


 その想いを胸にひた走る。




      ◇




 朝早くに起きて走ったせいで眠く疲れるかと思ったけど。


 むしろ、いつもより頭が冴えていた。


「X2乗です」


「おお、やるな黒田」


 先生が褒めてくれて、僕は少し照れながら座る。


 すると、隣の席からちょいちょい、と小脇を突かれた。


 振り向くと、遥花がにししと笑っていた。


「素敵よ、ダーリン♡」


 小声でそう囁いた。


 僕は瞬間的に頬が赤く染まってしまう。


「あ、ありがと」


 そのまま遥花から顔を背けてしまう。


 というか、ダーリンって。


 僕らはまだ付き合っている訳じゃないのに……




      ◇




 授業間の休み時間。


 秀彦とトイレに行きがてら喋っていた。


「今日のお前、何か冴えてるじゃん」


「うん。朝にランニングをした効果だよ」


「えっ、お前そんなことしてんの? 何で?」


「まあ、色々とあってね」


「色々ねぇ……ハッ、まさか」


「なに?」


「橘遥花に『今度、近くの高校に殴り込みに行くから、体鍛えとけよ?』とか言われたんだろ?」


「言われてないから」


「て言うか、いつまであいつの舎弟を続けるつもりだ? 席替えまでまだ当分あるだろうし」


 だから、舎弟じゃないっての。


 むしろ、俺は遥花の……いや、やめておこう。


 まだ実現していないから。


 晴れて遥花と付き合うことになったら、堂々と宣言してやる。


『この最高にイイ女は僕だけのモノだ!』


 ……ってね。


 みんなから恐れられている遥花は、本当は性格が良くて料理も上手でおまけにおっぱいもデカいんだぜ?




      ◇




 昼休み。


 僕は例のごとく、遥花と屋上に来ていた。


「え、ランニング?」


「そう。自分を鍛えようと思って」


「偉いな、幸雄は」


 遥花はニコリと笑う。


「だったら、あたしも一緒に朝走ろうかな」


「え?」


 僕は遥花と並んで走る風景を思い浮かべた。


 それはきっと仲睦まじく、楽しいものだろう。


 そして、何よりも大きなおっぱいが揺れて……


「……幸雄のエッチ♡」


「えっ?」


「だって今、エッチなことを考えてたでしょ? あたしの胸に目が行っていたし」


「うっ……ごめんなさい」


 僕は情けなく思ってうなだれてしまう。


「そんなにジロジロ見るなら、スポブラ付けて目立たなくしようかなぁ」


「あ、それは良いかもね……」


 僕が少しガッカリしながら言うと、


「なんて冗談だよ。あたしは幸雄に見られるなら、いくらでも見て欲しいな♡」


 遥花は少しいたずらな笑顔を浮かべる。


 僕は軽く見惚れつつも、


「あ、でも他の男子に見られたくないから。やっぱりスポブラしてもらった方が良いかも」


「え~、なになに~? 幸雄って、実は独占欲が強いの?」


「うん……というか、僕が遥花にふさわしい男になる前に、他のもっと良い男に奪われたりしたら悲しいなって思って……」


 ああ、また情けないことを言ってしまっている。


「もう、幸雄って本当に可愛いなぁ」


 顔を上げると、遥花がにんまり笑っている。


「か、可愛い? 男子としては、カッコイイって言われたいな」


「カッコイイよ、幸雄」


 笑顔のままストレートに言われて、僕は息を呑んだ。


「少し勇気を出して手を伸ばせば、いつだって届くんだよ?……このおっぱいにもね」


「あの、いい加減におっぱいから離れませんか?」


 僕が赤面しながら言うと、遥花は笑う。


「じゃあ、次からあたしのおっぱいチラ見するごとに罰金ね♡」


「え、いくらですか?」


「1チラ見10円だよ」


「安っ! それなら、いくらでもチラ見して……あっ」


 口を押える僕に対して、遥花はニヤニヤしている。


「変態くん♡」


 物凄い笑顔で言われて僕はガクリとした。


「ほら、元気出して。あたしのお弁当あげるから」


「う、うん」


 パクリと食べる遥花お手製の弁当は、やはり美味しかった。







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