90話 予期せぬ流れ

 放課後。友達と話してから部室へ赴き、数時間ぶりに先輩たちと顔を合わせる。

 姫歌先輩に耳たぶを甘噛みされたり、葵先輩に胸やお尻を揉まれたり、アリス先輩にパンツを嗅がれたり、真里亜先輩に往復ビンタを要求されたり。

 同棲を始めたからといって変わることのない、創作部におけるいつもの光景だ。

 頑張って平静を装っているけど、先輩たちとのスキンシップによる感動と興奮はあまりにも強く、心臓が飛び出そうなほどに脈を打っている。


「今日の晩ごはんだけど、リクエストがあれば言ってちょうだい」


「オムライス!」


 真里亜先輩の言葉に、葵先輩が目の色を変えて反応する。


「い、勢い、すごいね」


「うふふ❤ よっぽど食べたいのねぇ❤」


「玉子って家にありましたっけ?」


「ええ、確かあったはずよ❤」


 夕飯について話すという、なんてことのないやり取り。

 特別感がないからこそ、一緒に暮らしているのだと強く実感できる。


「オムライスってことは、仕上げは悠理に任せることになるわね」


「えっ、私ですか!?」


 思いも寄らないタイミングで真里亜先輩に話を振られ、ビックリして声を荒げてしまう。


「そうだよ~、心を込めてケチャップで文字を書いてねっ」


 なるほど、そういうことか。

 よかった。もし調理関連だったら、真里亜先輩が手掛けた料理の仕上げなんて私には荷が重すぎる。


「あたしは『薄汚い雌豚』って書いてほしいわ」


「それはちょっと……」


 私にとっては清廉な女神だから、冗談でも書きたくないなぁ。

 そもそもケチャップでオムライスに書くには画数が多すぎる。


「『悠理は愛の言葉を囁きながら、姫歌の濡れそぼった秘所へと舌を伸ばした』って書いてもらおうかしら❤」


「長いですよ!」


 もはや文章だし、内容がなんかエッチだ。

 前に読ませてもらったR18版の小説を思い出した。


「だったら、あーしは悠理とキスしてるイラストでも描いてもらおうかな~」


「むしろ葵先輩に描いてほしいんですけど」


 私の画力では、まず誰にも伝わらない。

 というか文字を書くはずでは?


「あ、アリスは、悠理の脱ぎたてパンツを、と、トッピングしてほしい」


「食べ物を粗末にしちゃいけませんよ」


「あぅ……じゃ、じゃあ、別添えなら、ぱ、パンツ、くれる?」


「いや、それは――」


「わたしにはブラをお願い❤」


「あたしはスカートを貰うわ」


「それじゃ、あーしはブラウスを!」


 ダメだと答えるのを邪魔するように、姫歌先輩たちが各々の要望を告げる。


「まったく、冗談もほどほどにしてくださいよ。それだと裸靴下になっちゃうじゃないですか」


 私が呆れながらそう言うと、先輩たちはピタッと動きを止めた。


「裸靴下……なんて魅惑的な響きなのかしら❤ 想像するだけで興奮してきたわぁ❤」


 姫歌先輩が頬に手を添え、うっとりした表情を浮かべる。

 なにやら危ない流れになってきた。


「これはもう、帰ってすぐにでも試さないとね!」


「つ、ついでに、嗅がせてほしい」


「羞恥に耐えられなくなったら、迷わずあたしを蹴りなさい!」


 あー、これ、どうあがいても逃げられないやつだ。




 帰宅して間もなく、私は靴下だけを身に着けた姿を晒すこととなった。

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