89話 賑やかな登校

 全員で家を出て、学校に向かって住宅街の中を進む。

 実家からそれほど離れていないので、途中からは通い慣れた通学路を歩くことになる。

 先輩たちと一緒なら、なんてことのない景色が美しく映り、当たり前のように吸っている空気がおいしく感じる。

 ただの登校が、心躍るイベントと化していた。


「短縮授業って来週からでしたっけ?」


 私たちとしては同棲という新生活が始まったばかりだけど、学生的には夏休み目前の時期だ。

 先輩たちと一緒の登下校に慣れるよりも早く、長期休暇を迎えることになる。


「た、確か、今週末、だったはず」


「そう考えると、いよいよ夏休み間近って感じだね~」


「夏休みも部活ってあるんですか?」


 同棲が決まる前なら、先輩と会える時間に直結する重要極まりない死活問題だった。

 いまとなっては部活が休みでも一緒に過ごせるので、軽い気持ちで質問する。


「うーん……家でも活動できるわけだから、あえて部室に行く必要はないかもしれないわねぇ❤」


「でも姫歌、掃除のために何度か行った方がいいんじゃないかしら」


「確かに、それもそうね❤」


 真里亜先輩の意見に姫歌先輩が納得し、私もなるほどとうなずく。


「そ、掃除した後は、み、みんなでシャワー、浴びたい」


「分かる! あーしもアリスに賛成~!」


「私も賛成ですっ」


 姫歌先輩と真里亜先輩も当然のごとく賛同し、満場一致で掃除後のシャワーが決定する。

 シャワーのことや部室に置いてある私物のことなど、いろいろと話しているうちに気付けば校門をくぐっていた。

 距離的にはそこまで近いわけじゃないのに、家から学校に着くまでの時間がこんなに早いと感じたのは、生まれて初めてだ。

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