79話 元ネタはエッチな夢

 今日はいつにも増して、姫歌先輩の執筆が捗っている。

 活き活きとした表情でひたすらに指を動かし続け、キーボードを打つ軽快な音が絶え間なく響く。


「うふふ❤ 完成したらみんなに読んでほしいわぁ❤」


「ぜひ読ませてください」


 私は一人のファンとして、即座に返答した。


「めちゃくちゃ捗ってるね~」


「実は、とてもエッチな夢を見たの❤」


「それをネタに小説を書いてるってわけね」


「よ、読むの、楽しみ」


 こうして会話しながらも、姫歌先輩の手は止まらない。

 部活が終わる数分前に、読み切りの短編小説が完成。


「R18だから投稿はしないけど、ここ最近では一番の自信作よ❤」


 姫歌先輩がここまで言うのだから、期待感は際限なく高まっていく。

 姫歌先輩の席に集まり、ディスプレイに表示された文章を全員で読み進める。

 とてもエッチと称するだけあって、内容は実に刺激的かつ卑猥なものだった。

 創作部が舞台となっていて登場人物も私たちをモチーフとしているので、臨場感も半端ない。

 続きが気になりどんどん読み進めたくなる展開と、分かりやすく読みやすい文章。小説の完成度は抜群に高く、短編ながらこのまま書籍化してもなんら不思議ではない。

 ただ……どうしようもないほどエッチな気分になってしまうことだけが、難点として挙げられる。

 いますぐにでも自分を慰めたくなるほど、脳内がピンク一色に染まってしまった。


「もしよかったら、オカズとして使ってね❤」


 不意に、姫歌先輩が耳元で囁く。


「か、考えておきます」


 照れ隠しでそう返したものの、私の答えはすでに決まっている。

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