78話 スイカと言えば

「子どもの頃は、スイカの種を食べるとお腹の中で芽が出るって思ってました」


 真里亜先輩に切り分けてもらったスイカを食べながら、あるあるネタを話す。

 いまとなっては迷信だと理解しているけど、当時は本気で信じていた。


「うふふ❤ 幼い悠理を想像すると、いけない性癖に目覚めてしまいそうだわぁ❤」


「お馬さんごっことか最高よね。ムチで容赦なくビシバシ叩かれたいわ」


 姫歌先輩の言葉に、真里亜先輩が乗っかる。

 想定の範囲外にもほどがある反応だ。


「うんうんっ、めちゃくちゃ分かるよ~!」


「あ、アリスも、わ、分かる」


「やっぱり、先輩たちも信じてたんですね」


「ロリ悠理の妄想だけで何時間でも楽しめるよね!」


「ち、ちっちゃい悠理、た、たくさん、かわいがりたい」


 そっちかぁ……。

 気持ちは素直に嬉しいから、反応に困る。


「スイカの種って捨てるのが常識になってるけど、実は栄養豊富なのよ。天干ししたり乾煎りして塩を振ればおいしく安全に食べられるわ。生で食べるのは避けた方がいいわね」


 さすが真里亜先輩、食べ物に詳しい。

 私はもちろん姫歌先輩たちも、感嘆の声を上げる。


「せっかくだから、軽く一品作ろうかしら」


 そう言って立ち上がりつつ、私の手元にあるお皿を持ってシンクの方へ向かう。

 当然ながら、お皿には私が吐き出した種が散らばっている。

 嫌な予感がしたので、私も後を追う。


「ちょっと待ってください。もしかしてそれを使うんですか?」


「もちろん」


 真里亜先輩は即答しつつフライパンを取り出した。


「汚いからやめた方がいいですよ」


「なに寝ぼけたこと言ってるのよ。一度悠理の口に含まれた物が汚いわけないじゃない。浄化されてると言っても過言じゃないわ」


「悠理の唾液は、わたしたちにとっての万能薬よね❤」


「確かに、どんな病気にも効きそうだよね~」


「ゆ、悠理のよだれ、舐めたい」


 誰一人として汚いという意見を言わないばかりか、全員そろって好意的に受け入れてくれている。

 こうなってしまっては、私も引き下がらざるを得ない。

 しばらくして真里亜先輩が調理を終え、小皿に移したスイカの種をテーブルに運ぶ。

 ごま油と塩で味付けされたスイカの種は、カリッとした食感も相俟って想像以上においしかった。

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