65話 創作部の新たなあいさつ

 部室に入って扉を閉めると、いつも通り姫歌先輩が瞬時に私の眼前へ現れた。

 そして、お互いに顔を相手へと近寄せ、チュッと口付けを交わす。

 唇が触れ合っている時間は一秒にも満たないけど、キスはキス。平静を保つことはできず、二人そろって赤面してしまう。

 何日か前から、部室に入ってすぐのキスが新たなあいさつとして定着しつつある。


「うふふ❤ 今日もいい夢が見れそう❤」


「私もです」


 唇から全身へと、温かな感覚が伝播していく。まさしく幸せに包まれている気分だ。

 テーブル付近の床にカバンを置いてから、葵先輩たちの席に移動して短めのキスをする。


「ちょっと唇が重なっただけなのに、すごくドキドキするね!」


「し、幸せすぎて、気絶しそう」


「すでに何度か経験したけど、キスの刺激には一向に慣れないわね」


 姫歌先輩もそうだったように、葵先輩たちもほんのりと頬が赤らんでいる。

 先輩たちは意外なほどに純情な一面があり、慣れないキスに照れる様子がなんとも愛らしい。

 キスに照れてしまうのは私も同じだから、余裕を持って先輩たちの反応を楽しむことはできないけども。


「キスして顔が赤くなる先輩たち、すごくかわいいです」


 率直に本心を告げただけだった。

 他意はないにも関わらず、先輩たちの動きがピタリと止まり、無言で立ち上がって私を取り囲む。

 どうやら、先輩たちの年上としてのプライドを刺激してしまったらしい。

 この流れ、なんか既視感があるような……。


「あらあら❤ 悠理ったら、そんなにかわいがってほしいのかしらぁ❤」


「えっ、いや、確かにかわいがってもらえると嬉しいですけど、ちょっと待ってくださいっ」


「安心してよ悠理、とことんかわいがってあげるから!」


「す、すごく濃厚なキス、する」


「思い出すだけで悶絶するぐらいエッチなキス、味わわせてあげるわ」


 数分後、私は体に力が入らず、テーブルに突っ伏したまま動けない。

 唇には四人との濃厚極まりないキスの感触が残っていて、その刺激的な快感は脳にハッキリと刻まれた。

 さすがは先輩たち、まさに有言実行だ。

 ただ、先輩たちにも誤算があったらしい。

 私をこんな目に遭わせた張本人たちは、恍惚とした表情を浮かべて床にへたり込んでいる。

 あいさつ代わりの軽い口付けでも赤面を禁じ得ないのに、とても口には出せないエッチなキスをすれば、こうなるのも必然というもの。

 エッチなキスは、時と場合を選ぶ必要がありそうだ。

 キス初心者の私たちには、あまりにも刺激が強すぎる。

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