64話 暑い日は特に気になる

「アリス先輩、聞きにくいことなんですけど……私のパンツって、臭いですか?」


 普通の日常生活では、まず口から出ないような質問だった。

 ただ、アリス先輩は私のパンツを毎日必ず嗅いでいる。生理中はさすがに遠慮してもらっているけど、それ以外は一日として欠かしていない。

 すっかり日常に浸透した行為とはいえ、蒸し暑い日はどうしても気になる。

 これまでにも何度か同様の質問をぶつけた。きっとこれからも定期的に訊ねることになるだろう。永続的に楽観視できるような問題でもないので、こればかりは仕方ない。


「う、ううん、全然、臭くない。い、いい匂い、だよ」


「本当ですか? 気を遣わなくていいんですよ?」


「本当に、いい匂い。ほ、ほのかに甘くて、悠理のことを感じられる、あ、アリスの、大好きな、匂い」


「アリス先輩……」


 恋人に自分の匂いを褒められたら、嬉しくないわけがない。

 アリス先輩の返答によって、安心以上のものを得られた。

 臭くても嬉々として嗅ぐから、そういうときは複雑な気分になるけど。


「うふふ❤ 悠理もすっかり一人前の変態さんねぇ❤」


「あーしたちと同じで、引き返せないところまで来ちゃってるよね~」


「最初は諦めて受け入れているだけだったけど、いまとなってはある種の余裕すら感じさせるわ」


 臭いは気にしても、パンツを嗅がれること自体は平然と受け入れている。そんな私を見て、姫歌先輩たちがしみじみとつぶやく。

 いやいや、変態とか引き返せないとか余裕とか、さすがに言いすぎ……うーん…………。

 うん、あまり深く考えないようにしよう。

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