60話 みんなと同時にする方法①

「先輩たちは、その……キス、したいですか?」


 ある日の部活中、唐突に質問を放った。

 ともすれば自意識過剰にも思える内容に若干の心苦しさを覚えつつも、発言を訂正したりはしない。

 真面目な話として、改めて確認しておきたい。


「もちろん」


 四人の声がわずかな誤差もなく完璧に重なる。

 ついでに、コクコクと超高速でうなずく動きも見事にシンクロしていた。

 息の合い様に驚きと感動を覚え、望んでいた答えをもらえて安堵する。

 まだ心の準備ができているとは言えないけど、やっぱり早い方がいいのだろうか。

 先輩たちと付き合うまで恋愛経験が皆無だったから、マナーやセオリーのようなものが曖昧にしか分からない。


「焦る必要はないけど、方法は相談しておくべきかもしれないわねぇ❤」


 私の心を読んだかのような姫歌先輩の言葉にホッとしつつ、『方法』という点に引っかかる。


「悠理とあーしたち四人が同時にキスする方法、ってことだよね?」


「その通りよ❤ ファーストキスが特別なのは言うまでもないわ❤ 誰か一人が抜け駆けする形になればどうなるか……想像も及ばないほど恐ろしい事態になるんじゃないかしら❤」


「た、確かに、う、運がよくても、瀕死は免れない」


「下手すれば死ぬ以上の恐怖と苦痛を味わう羽目になるわね」


 先輩たちのやり取りで疑問が解消されたかと思えば、新たに不安の種が生じる。

 創作部の雰囲気に似合わない物騒な内容を聞き、背筋にゾクッとしたものを感じた。

 もしもの話とはいえ、決して冗談ではないらしい。

 四人と同時にキスをする方法、なんとしてでも見つけ出さないと。

 うーん……………………………………閃いた!


「名案が浮かびました!」


 自信に満ち溢れた大きな声が、部室中に響き渡った。

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