53話 四限目にありがちなこと

 それは思い出すだけで顔が赤くなるほど恥ずかしく、なおかつ日常的に起こり得る出来事。

 もちろん例外もあるだろうけど、学生なら誰もが体験する可能性を秘めている。


「四限目にお腹が鳴っちゃって、死ぬほど恥ずかしい思いをしたんですよ」


 部活が始まって一時間ほど経った頃、雑談の中でそれとなく話を切り出す。

 お腹が鳴ったことを秘密にしておきたい乙女心より、誰かに話して楽になりたいという気持ちの方が強かった。


「あ~、あるある! 三限目が体育だったときとか、特に鳴りやすいよね!」


「そうなんです!」


 実際、今日は三限目が体育だった。しかも四限目が数学で、静寂に包まれた教室にお腹の音が響いたときの気まずさと言ったら……うん、深く考えてはいけない。


「うふふ❤ そう言えば、葵もたまに大きな音を響かせてるわねぇ❤」


 姫歌先輩がクスッと笑いながら、視線を葵先輩に向ける。


「だってお腹空くんだもん、グーグー鳴っちゃうのは仕方ないよ~」


「葵って見かけに反してけっこうな大食いよね。部活で食べる用のお菓子をつまみ食いしようとすることもあるし」


「え、それは聞き捨てなりませんね。真里亜先輩のお菓子を先に食べるなんて、ずるいですよ」


「待って悠理! 誤解だよ! 未遂! 未遂だから! ちゃんと思い留まってるから!」


 私が冗談半分で責めるようなジト目を向けると、葵先輩は慌てて弁解を始めた。


「た、確かに、じ、自分で自分の腕を掴んで、衝動を堪えてる、よね」


 テーブルの下で、アリス先輩がうんうんと頷く。例のごとく顔がパンツ付近にあるので、鼻先が敏感なところをかすめる。

 いろいろと話しているうちに、脳内から羞恥心の残滓がきれいに消えていった。

 先輩たちの教室での様子も少しだけ知れて、ちょっとお得な気分。

 お腹が鳴るのも、話のタネと考えればそれほど悪いことではないのかもしれない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る