21話 無人島に持って行くなら

 部活が始まってから一時間ほど経ち、みんな一旦手を止めて雑談に意識を向けていた。

 どういう流れからつながったのかは忘れたけど、いまの話題は『無人島に一つだけ持って行くなら』。

 トークテーマとしてはベタでも、人によって驚くような意見が出たりするので、実に興味深い。


「私は大きめのペットボトルですね。専門知識はないですけど、なにかと用途が多そうですから」


 ナイフも便利そうだけど、上手く扱える自信がない。刃物だから、使い方を誤れば自分を傷付けてしまうという難点もある。

 ペットボトルならよほどのことがない限り安全だし、曖昧ながら使い道はいくつか思い付く。

 先輩たちにも納得してもらえたようで、みんなうんうんと頷いている。アリス先輩はテーブルの下にいるから姿が見えないけど、首を縦に振る感触が下腹部を通じて伝わってきた。


「わたしは悠理❤ 悠理と一緒ならどんな困難も乗り越えられると信じているし、仮に脱出できなくても悔いはないわぁ❤」


「そういう趣旨の話題じゃありませんよ」


 選んでもらえて嬉しいと思いつつも、正論を突き付ける。

 でも確かに、姫歌先輩と一緒なら無人島でも上手くやっていけそうだ。


「あーしも悠理がいい! 性欲を満たすのって食事とか睡眠と同じぐらい大事だと思うし、悠理がいれば絶対楽しいもん!」


 私が葵先輩の欲求不満解消に協力することが前提となっている気がする。

 まんざらでもない、かも。


「あ、アリスも、悠理。ゆ、悠理の汗とか、排泄物で、飢えと渇きが凌げる」


 なかなかコメントに困る発想だ。

 飲尿療法というのもあるらしいし、サバイバルではおしっこも重要な水分だと聞いたことがある。ただ、大きい方は絶対にダメだと思う。


「あたしだって悠理一択よ。自生している植物や果物を使って食事を用意して、ご褒美として吐くまでボコボコにしてほしいわ」


 食材に関する知識に明るい真里亜先輩は、食べれる野草や毒性のある植物の見分け方なども多少は心得ていると以前聞いたことがる。

 ご飯を作ってもらって暴力を振るうなんて、天罰として雷が私に直撃してもなんら不思議ではない。


「そろいもそろって私ですか。便利な道具を差し置いて指名してもらえるのは素直に嬉しいですけど、なにも役に立てないからきっと後悔しますよ」


「むしろ逆よぉ❤ なにか一つと言われて悠理を選ばなかったら、永遠に後悔することになるもの❤」


「もちろん、悠理のことはちゃんと守るから安心してよ!」


「ゆ、悠理がいてくれるなら、べ、便利な道具なんて、いらない」


「たとえ殴ってもらえなくても、悠理が一番だって想いは揺るがないわ」


 だからそういう問題じゃないとツッコむべきなんだろうけど、いまは無理だ。

 四人とも迷う素振りすらなく、私なんかを求めてくれて……。

 自分にはもったいないほどの言葉をかけてくれて……さも当然のような口ぶりだから、本心だってこともちゃんと伝わってきて……。

 なんか、もう……。


「あぅっ、うぅ、ぐすっ」


 情緒不安定だと思われても、文句は言えない。

 他愛ない雑談で泣くなんてすごく恥ずかしいのに、どうしても涙が止められなかった。

 不意打ちで感動させるなんて、反則ですよ……。

 感極まって頭の中がぐちゃぐちゃで、そもそも嗚咽で言葉が上手く出ない。

 落ち着いたら、照れ隠しで悪態をついたりせず、開口一番に感謝を伝えることにしよう。

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