11話 素朴な疑問

「あ、そうだ。昨日のことなんですけど、アリス先輩って罰ゲームのときにスラスラ発音できてましたよね?」


 部活中。アリス先輩がテーブルに潜ろうとするのを察し、それを妨げるために疑問を投げてみる。

 日常的な行為として受け入れてはいるけど、やっぱり股間に顔を埋められるのは可能な限り避けたい。

 それに、気になっているのも事実だ。


「あ、あれは、短い単語だったから、悠理のぱ、パンツの匂いを思い出して、頑張った。その後に、む、報われたから、頑張ってよかった」


「へぇ」


 どうしよう。もしかしたら努力を称えるべき美談なのかもしれないけど、内容が内容なだけに、自分でも驚くほど感情が冷めてしまった。

 アリス先輩は答えるや否や第二の定位置へと移動し、相変わらずの変態行為を開始する。

 私みたいな凡人を求めてくれて嬉しいものの、どうしても喜べない。とりあえず、今日は汗をかいてなくてよかったと安心する。


「昨日のことで言えば、姫歌先輩もですよ」


 話の矛先を変えつつ視線を向けると、心当たりがないのか本人はキョトンとしている。

 あどけない表情に思わずドキッとしてしまったのは胸の内に秘めておくとして。


「盗撮って言ってましたよね。どこにカメラを仕掛けてるのか知りませんけど、今日中に取り払ってください」


 そもそも私は姫歌先輩を部屋に上げたことがないんだけど、彼女を語る上では些細な問題だ。いまさらそんなことを気にしていては、時間がいくらあっても足りない。

 盗撮さえやめてくれれば、細かい部分には目をつむろう。


「うふふ、悠理は寝顔もかわいいのよねぇ❤」


「ありがとうございます。で、カメラは撤去してくれるんですよね?」


「それにしても、アリスが羨ましい。ねぇ悠理、わたしにも脱ぎたてパンツを恵んでもらえないかしらぁ❤」


「盗撮をやめると約束してくれるなら、考えてもいいです」


「強引に奪うのも、なかなかそそるわね❤」


 ダメだ。聞き入れてもらえそうにない。


「説得が無駄なら、もう諦めますよ。ただ、悪用だけはしないと約束してください」


「もちろんよ❤ エッチな目的には使うけど、わたし以外の目には絶対に触れさせないと誓うわ❤」


 根本的な解決にはならなくとも、最低限の安心は得られた。

 姫歌先輩は控え目に言って非常識だけど、悪い人ではない。後輩として、それは心から信じられる。


「ちょっと待った! あーしもなにか欲しい!」


 葵先輩が勢いよく挙手し、力強く発言する。

 便乗するように、真里亜先輩も「あたしも同感よ」と声を上げた。

 なにか欲しいと言われても、なにも思い浮かばない。


「たとえば、どんな物がいいですか?」


 サプライズ性が重要なプレゼントでもないし、私ごときの想像なんて軽く飛び越える人達だ。あれこれ考えるより、意見を求めた方が手っ取り早い。


「生でおっぱい揉んだり、お尻に頬ずりしたり、お腹触ったり、太ももぷにぷにしたり、とにかく体を好きにしたい!」


「あたしは、そうね。血反吐をぶちまけるまでボコボコにしてほしいわ。親に心配かけたくないから、顔は勘弁してちょうだい」


 あぁ、そうだった。直球で訊ねたところで、参考にならないんだ。

 両方とも却下なのは当然として、真里亜先輩がエグすぎて葵先輩の要求が軽く思えてくるから怖い。

 質問しておいて悪いけど、適当に流させてもらうとしよう。

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