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「連絡先交換したから、ライブが終わったらあの子とやり取りしようって話だったよな。それがなんであんな、いきなり連れ出したりして…しかも田口のライブの途中に」
「うん」
「お前はいいかもしれないけど、あの子がかわいそうだろ」
「調子に乗った。ごめん」
「僕に謝られてもなあ」
翌日、小川は僕の家にふらっとやってきた。さすがに自分でもやりすぎだと思ったらしい。珍しく反省しているみたいなので、僕が見てたからかっこつけたかったんだろとは言わないでおく。
「ユミちゃんにも謝った」
「もう名前で呼ぶ仲なのか。あの後あの子どうしたんだよ」
「や、なにもしてない。立ち話だけ。デートは次の土曜」
結局連絡先の交換どころかずいぶん話が進んでいる。どうして小川はこんなにあっけなく女の子に近づけるんだか意味がわからない。僕なんてまずよく知らない子に声をかけるのも無理だ。そもそもこんな顔だし、目つき悪いし背は低いし高校中退してるし。
「…小川はかっこいいからいいよな」
「ふふふ」
小川は変な笑いかたでニコニコする。親しみやすい柔らかな輪郭と優しい目は子供みたいに愛嬌があり、いかにもモテそうな顔。濃紺のセルフレームの眼鏡も、ちょっと長めにのばしたもさっとした髪も、たぶん女の子には受けがいいんだろう。普段はこんなに印象のいいやつなのに、女の子を「狙う」その一瞬だけいやらしく怖い目つきになるんだけど、それもきっと危ない魅力になっているのだ。
「あ、新曲の歌詞できた」
いきなりそんなことを言ってくしゃくしゃのルーズリーフを僕に放り投げる。
「村尾に最初に見せようと思って。採点してよ。上がっていい?」
「いいよ、まだ父さん帰ってないから…小川のほうが歌詞かくのうまいくせに、僕が採点なんか」
「俺は村尾のセンスを信頼してる」
なんだかんだ言っても憎めないやつなのだ。小川の後ろ姿を見ながら、さっきの嫉妬は忘れることにしようと思った。
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