第57話


 ヴァルがポーションを飲んだことによって、俺にも効果が発動したということか。

 それまで考えるようなそぶりを見せていたヴァルの意味が分かった。


 ヴァルは俺がポーションを飲んだ時に回復していたのだろう。

 それについて考え、実際に行動してくれた。

 のんびりパンを楽しんでいた俺とは違ってな。


 生肉を一つ用意してヴァルに食べさせると、美味しそうにかぶりつく。

 ヴァルがもっとも好きな食べ物だ。次に野菜を向けると、じっとオレを見てくる。


 食べたくないんだけど、食べなくてもいい?

 そんな目で訴えかけている。

 ドラゴンは雑食のものが多いので、俺は野菜も食べさせている。


 人間的考えだが、その方が健康的だと思っていた。

 食べなさい、と目に力をこめるととヴァルは渋々といった様子で食べた。


「ありがとなヴァルのおかげで、スキルの効果がわかったよ」

「ヴァルー」


 ……ただ、このスキルはつかいみちはあるのだろうか?

 俺のポーションによって、ゴブリンも回復してしまうのではないだろうか? 


 第一、回復ならヒールアタックのほうが使いやすい。

 あとは、状態異常にするポーションでも開発できれば、もしかしたら使えるかもしれない。


 事前に状態異常耐性ポーションを飲み、それからポーション範囲拡大のスキルがついたものを身に着ける。

 それから、各種状態異常になるポーションを飲めば、効果はあるかもしれないが。


 状態異常にするポーションがそもそもないんだよな。

 どうにか作れれば、もしかしたら意味があるかもしれない。

 それまでは、このスキルは温存しておいたほうがいいかもしれない。


「ヴァル。スキルの検証は終わったし、一度街に戻ろうか」

「ヴァールー」


 りょーかい! とばかりにヴァルは頷いて、俺のほうにパタパタと飛んできた。

 街に入るころには、ヴァルを抱える。

 俺はギルドカードを提示して街へと入った。


 街中を歩いていく。

 それからしばらくして、空が暗くなるのにあわせ、門が閉まっていく。

 響く門の音に合わせ、街の空気も変わっていく。

 

 多くの店が、陽が出るのに合わせ開店し、陽が沈むのに合わせ、閉店していく。

 そんな人々を眺めながら、俺も宿へと戻った。

 まだ仕事に入るまで時間がある。


 部屋に入った俺は、それから装備品を作成していくことにした。

 スキルの効果もわかったからな。できる限り、強くしておきたい。

 まずはサハルフシルバーソードからだ。


 Sランクの武器を作れれば、0/250となる。

 そのうち三枠は、基本的には筋力強化、敏捷強化、体力強化になる。

 残りの二枠は使う状況にもよるが……どうするかな。


 無難に行くのであれば、自動帰還、自動回復かな。

 自動帰還は投擲した後に戻せるし、自動回復は刃の刃こぼれも回復してくれる。

 あとは、筋力強化、敏捷強化、体力強化などを複数つけるのも良いだろう。


 その他のスキルは、指輪などにつけて使用しても問題ない。

 特にウェポンブレイクは、必要のない装備につけ、戦闘中に取り出して投擲して使用するほうが使い勝手が良い。

 

 なので、作成した武器には、これら五つのスキルを付与した。

 ……もっとスキルが欲しいものだ。


 今回、職人たちが自分でランダムにスキルを付与できるというのはわかった。

 ……俺の場合はそういうものはないのだろうか? 今のところ、それらが発見できたことはない。

 俺も、今後はスキルを自動で生み出せるようになればいいんだけどな。


 ……って、俺の武器はいいんだ。

 次はリニアルさんの武器を造らないとな。


 彼女のことを強く意識しながら、リニアルさんの武器を作成する。

 これで、大丈夫だろうか?


 できあがったSランクの武器を確認する。俺が握ってみるが……なんだろうか。少し合わない。

 俺が自分用に作成した剣と並べてみる。


 リニアルさんの剣は……刀身が少し細く、剣自体は短い。

 ……なるほど。リニアルさんの腕や身長に合わせて、僅かに剣が調節されているんだ。


 持ってみた感じ、リニアルさんの剣のほうが軽い。

 俺のほうはどちらかといえば断ち切る剣であるが、リニアルさんのは浅く斬って削る攻撃を得意としていそうだった。


 スキルは……敏捷強化を二つ、筋力強化を二つ、体力強化を一つにしようか。

 下手にスキルを付与して、この剣には〇〇というスキルがついているからーなんて説明するのもな。


 出来上がった剣を眺めた後、鞘にしまう。

 あとは、これをリニアルさんに渡すだけだ。

 それは、司教様と話したあとにすればいいだろう。


「ヴァル、何か食べたいものはある?」

「ヴァル!」


 なんでもいい、って感じだろうか?

 俺は皿を作った後、そこに肉をのせる。

 ヴァルがおいしそうに食べ始める。


 俺がその頭を撫でると、ヴァルは一度食べるのをやめ頭をこすりつけてきた。

 

「それじゃあヴァル。俺は仕事に行ってくるからね」

「ヴァル!」


 前足をあげたヴァルが、尻尾をぶんぶんと振っている。

 俺のベッドのほうに移動したヴァルがそこで横になる。


 ヴァルとの生活もすっかりとなれたものだ。

 

「何かあったら、控室にでも来ていいからな?」

「ヴァールー」


 宿の人たちにもヴァルは紹介している。誰かしらが俺に教えてくれるだろう。

 とはいえ、これまでにヴァルが何か問題があって来たことはない。

 そんな問題が発生したことがないのだ。


 階段を下りて、仕事へと向かう。

 俺の今日のシフトは、厨房の手伝いに入り、休憩回しをする。

 その後は給仕として仕事をするんだったな。


 厨房に向かうと、給仕をしていたリスティナさんと目が合った。


「あっ、レリウス先輩。おはようございまーす」

「おはようじゃないですよ。久しぶりですね」


 リスティナさんはここ数日、別の仕事があるため休みにするといっていた。

 今日からまたこちらの勤務に入るようだ。


「そうですね。先輩に会えなくて寂しかったんですよ!」

「そうですか」

「もう冷たいですね。泣いちゃいますよ!」

「仕事が終わった後にしてくださいよ」


 またいつもの適当な言葉だろう。

 リスティナさんの構ってーという視線を無視して、仕事へと向かった。

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