第10話

 作成可能なのは確認済みだ。

 問題は、この睡眠妨害という文字についてだ。


 そういえば、聞いたことがある。

 魔道具には、特殊な能力――スキルが付与されたものがあるとか。

 冒険者はそうした魔道具、アクセサリーなどを身に着けることで、身体能力などを強化できるらしい。


 もしかしたら、この睡眠妨害も、そういった類のものなのかもしれない。

 呪われたアクセサリーもあり、知らずにそれを身に着けてしまうと自分に不利益をもたらすとか。


 けれど、これらの効果を知るすべはないとされていた。

 俺はどうやら、それが見えているようだ。


 フィーラが眠れなかった理由がこれなら納得できる。

 ただ、その場合、別のベッドで眠れば影響はないはずだ。


 ほかに何か理由があるのかもしれない。

 とにかく今は、このベッドを作り直すところからだ。


 一度破壊して、ベッドを回収する。

 それから、脳内で作り直す。


 Sランクのベッドが出来上がったところで、それを元の位置に設置しなおした。

 ついでに、布団や枕もSランクになるまで作り直す。


 布団や枕にも、睡眠妨害がついていたからだ。

 出来上がったベッドや布団には、睡眠妨害はついていない。


 作り直すことで、バッドスキルも消えるようだ。

 これなら、問題はないだろう。


 作業も終わったので、部屋の外に出る。

 廊下でこくこくと首を揺らしていたフィーラがいた。

 その隣では、心配そうに執事が見ていた。


「……あんた、終わったの?」

「ええ、まあ。とりあえず、軽く調整はしてみました。今夜一度眠ってみてください」

「ほんと!? 寝れるようになったの!?」

「わかりませんが……前とは色々と変わってはいると思います」

「わかったわ!」


 フィーラが部屋へと向かう。

 とりあえず、一緒に中へとついていく。

 彼女が布団にもぐった瞬間だった。


「な、なにこれ……っ! すごい柔らかい! それに、ベッドも……体を包むような柔らかさがあるわ……」


 フィーラの瞼が閉じていく。


「あ、ありがとうね。鍛冶師……凄いのね……」


 よかった。問題なく眠れそうだ。


 邪魔するわけにはいかないので、執事とともに部屋を出た。

 廊下に出ると、執事は驚いたようすでこちらを見ていた。


「……まさか、いまの一瞬でこうも変化するとは思いませんでした」

「少し、聞きたいんですけど」

「なんでしょうか?」

「フィーラさんは、他のベッドで眠ったりはしたのでしょうか?」

「そうですね。いくつか新しいベッドや、他の部屋のベッドも試してみましたが、一日か二日経つとダメでしたね。フィーラ様も、毎日ベッドが変わることでストレスを溜めてしまいましたので――」

「なるほど……フィーラさんは今どのくらい眠れていないんですか?」

「一ヶ月、ほどですかね」

「……そうですか。フィーラさんが眠った他のベッドがまだあれば、見させてもらってもいいですか?」

「わかりましたが、それで何かわかるものでしょうか?」

「まあ何か、参考になればと思いまして」


 執事は首を傾げていた。

 あのベッドだけに原因があるわけではないようだ。

 なら、他の可能性についても考えてみるしかない。


 例えば、フィーラを寝かさないために何者かがあの呪いをかけているのか、とかだ。

 執事とともに廊下を歩き、各部屋を回っていく。

 

 執事が紹介してくれたベッドは、すべて睡眠妨害が付与されていた。

 ただ、ランクはまばらだった。


 俺が今見ていたベッドのスキルは睡眠妨害 Fランクだ。

 フィーラが一週間前に使ったベッドだそうだ。

 ……いくつかの法則が見えてきた。


 フィーラが眠ってから時間が経ったものは、すべてランクが落ちているのだ。

 逆にフィーラが寝てから近いものは、すべて高ランクになっている。


 つまり原因は、フィーラにあるのではないだろうか?


「フィーラさんにここ一ヶ月で、何か変わったことはありますか?」

「……変わったこと、ですか? そうですね……私が見ている限りで別におかしなことはなかったと思いますが」

「そう、ですか」


 そうなると、これ以上考えようがないな。

 執事とともに、フィーラの部屋へと戻ってきた。

 すっと、執事がゆっくりと扉を開けると、熟睡しているフィーラがいた。


「……おぉ、眠っています!」

「ですが、たぶん今日だけだと思います」

「何か、原因がわかったんですか?」

「フィーラさんが眠ったベッドはすべて、なんかこう禍々しい気配が感じられました」

「禍々しい……まさか、呪われている、とでもいうのですか!?」

「そう、かもしれません」

「というか、レリウス様はそれがわかるのですか!?」

「うっすら、という感じですけど」


 さすがにはっきりとわかるというのはやめた方がいいだろう。

 執事が驚いたようにこちらを見ていた。


「……なるほど。確かにそれならば、眠れなくなってしまった理由としては納得できますね」

「はい。ですから、この一ヶ月の間で何か変わったことがあれば、それが原因の可能性があります」

「うーん……どうでしょうか? 直接フィーラ様に聞いてみるしかないかもしれませんね」

「そうですか。わかりました。それでは、また明日にしましょうか」

「はい。レリウス様、夕食の準備はしてありますので、食堂のほうに案内します」

「あ、はい」


 貴族の食事かぁ。

 普段食べているものとは大きく違うだろう。

 特に俺なんて、貧乏舌だから口に合うかどうか。



 〇



 夕食を食べた後、俺は客室に案内された。

 ……客室、ね。

 俺が普段使っている部屋よりも一回り大きい。


 揃えられている家具はどれも豪華なものばかりだ。

 さすが貴族だ。

 俺は部屋にあった家具を見ていく。


 俺が作製できる家具は、一度破壊したものに限る。

 作製できるものは増やしておいたほうがいいだろう。


 地道に一つずつ破壊と作製を繰り返していった。

 それが終わったところで、俺も眠りについた。



 〇



「……ね、ねぇ。起きなさいよ」


 体が揺さぶられる。

 ゆっくりと目をあけると、そこにはフィーラがいた。

 簡素な服に身を包んでいたため、暗闇の中でも彼女の体のラインがはっきりと見えた。


 不安そうな表情が可愛らしい。

 ……ど、どうしたんだ一体。


「また、寝られなくなっちゃったのよ」


 なるほど、な。

 ちょっと浮かんだ妄想を払いながら体を起こした。



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