第68話空の思い

 T総合医療センター外科病棟ICUエリア担当看護師篠崎留美は引継ぎ事項も終わり、ICU患者の容態確認に空の病室に来ていた。


「空ちゃん意識が戻ってよかったわね・・・え?ベッドにいない!点滴も酸素チューブも外されている。どういう事?」


 篠崎はわけがわからずパニックになり辺りを捜すも空の姿はない。

 すぐにエリア中央のスタッフステーションに駆け込む。


「みんな大変です!ICUの瑞樹空ちゃんがいなくなりました。」


 スタッフテーションにいた10人ほどの看護師が驚き騒ぎ出す。


 看護師長の小紫がすぐにテキパキ指示を出す。


「安藤、浜端、飯田、楠木さんは至急付近を調べて!篠崎、斎藤、近藤さんは各棟のエレベーターで降りて1F付近の捜索、山口、岡山さんは残って業務を続けて、私は至急院長に報告してきます。」


 看護師があわただしく散っていく、ICU付近を探し回る看護師各階に伝達していく看護師1F付近を必死に探しまわる看護師たち


 その人数は次第に増えていき病院全体があわただしくなる。


 空が行方不明の知らせは当然警察にも知らされる。


 一条の行方を追っていた風香たち捜査本部にもその知らせが入る。


「安西警視大変です!一条彰が重傷を負わせた被害者が今朝病院からいなくなったそうです。現在病院の看護師たちが付近を捜索しているそうです。

 被害者は心肺機能が低下しているため酸素吸入機が必要なのですが、外されて移動したようだとのことです。」


 その報告を聞いた風香は茫然としてしまう。


『私の空がまだICUで治療が必要なのにいなくなった。噓でしょ・・・』


「・・・・し ・・・西警視 安西警視!しっかりしてください!」


 捜査本部が騒がしくなり一課長がいろいろテキパキ指示を出している。


 皆私が指示しなくても動いてくれている。


『しっかりしなきゃ』


 捜査本部に続報が入る。


「T総合病院付近で一条彰の目撃情報がありました。」


 一課長が激を飛ばす


「いいか!瑞樹空ちゃんに重傷を負わせた一条が彼女を連れ去った可能性が高い!絶対逃がすな!サイバー対策課、科学捜査班、頼める部署は全部使って絶対捕まえろ!」


 捜査員が返事をし飛び出して行く


 一課長が風香に話しかける


「安西警視私達はT総合病院に向かいましょう。瑞樹空ちゃんは早く見つけないと危険な状態です。3班の本山部下を連れてついてこい!T総合病院に向かう」


「「「はい!」」」



 風香たちはパトカーを走しらせ病院に向かう。


 病院では大勢の看護師たちが走り回って捜している


 病院長が風香たちの元に来て状況を説明する。


「瑞樹空ちゃんは30代の男にICU室から小さな医療用ケースに入れられ連れ去られたことが病院内の監視カメラの映像でわかりました。

 男は7時00分にICUの部屋に入り瑞樹空ちゃんを連れ去りその30分後に男は手ぶらで病院の夜間入り口から出て行っています。」


 一課長が確認する


「と言う事はまだ瑞樹空ちゃんは病院内にいる可能性が高いと言う事ですね。まず一安心か・・」


 風香は一課長が話している間に別動隊に指示をする。


「一条彰は7時30分にT総合病院を出て逃走ている。至急病院周辺の防犯カメラ映像を調べなさい!」


 病院長は一課長に怒鳴る


「何を言ってるんですか!ICUに入っていて自力で必要酸素を取り入れる事が出来ないんですよ!その空ちゃんが窮屈な状態で閉じ込められすでに3時間が経過しています。

 一刻を争います。警察の方も急ぎ病院内を捜索してください。」


 それを聞いて風香が走り出す。


『空が私の最愛の空が死んでしまう。』


 一課長も風香の後を追いかけるように走り出す。


「お前たちは屋上から探せ!俺と藤代は地下から探す!」


 風香は走りながら菫に電話を入れる。


「もしもし菫母さん風香です。急いで空の家族に電話してT総合病院に来てほしいと・・・空が攫われて・・今捜索中なの一人でも多く来てほしいの。もしかしたら最後になるかも・・お願いします。」


 菫はショックを受け暫く固まる。


 秘書の栗岡に呼びかけられ慌て出す。


「栗岡さん今日の予定はどうなってますか?」


 栗岡はタブレットで予定を確認し伝えていく。


「その予定全てキャンセルしてくれるかしら、妖精が本当に帰っちゃうかもしれません・・」


 栗岡はそれを聞いて理解しすぐに関係部署に連絡代理で対応するように指示し、すぐに車を回すように連絡を入れる。



 菫は梨香と楓に連絡し自身は秘書の用意した車に乗り込み病院に急がせる


『私達の希望の空・・・死なないでお願い・・』


 菫から連絡を受けた梨香も同じようにショックを受ける


 酸素吸入器も外された空が連れ去られたと。それは何を意味するか分かっていた。


 梨香は真帆たちに連絡し真帆たちもショックを受け静かに返事を返してきた。


「わかりました。予定をキャンセルしてすぐに向かいます。」


 楓も連絡を受け項垂れぼそりと返事をしすぐに学校に連絡美空を迎えに行かせ、恵美理とキャサリンに連絡をする。


 皆ショックを受け静かに病院に向かう中、美空だけは希望を捨てていなかった。


 楓たち全員が病院に到着したのは昼過ぎだった。


 風香が皆を玄関で待っていた。


「待っていました。空が眠っている病室に行きましょ。」


 誰も空の事を聞こうとせず皆静かに風香の後をついて行く。


 着いたのはICUの部屋ではなく外科病棟の個室部屋だった。


 この時点で皆もう目には涙が溢れ項垂れている


「私は信じませんパパはこれから私と一緒に暮らしてくれるんだから!絶対死んだりしないんだから!」


 そう言って病室の扉を開けて中に入って行く。


 菫も梨香も皆美空の行動を見守る


 風香だけは驚いていた。


『私は状況を聞いた時点で諦めていたのにあの子は信じてた・・やっぱり空の子供ねフフフ』


 菫たちも後に続いて入る


 するとそこには酸素吸入器をつけた空が眠っていた。


 それを見た菫たちは全員が泣き崩れる


「よがった・・・グスン私の生きる希望空がぁ生きてたぁ・・」

「真帆よがった私達の空が生きててくれて・・・グスン」


「ダーリン生きててくれてありがとうグスン・・」


 皆が思い思いの言葉をそらの手を握り話していくのを見て風香は静かに語る


「担当医が言ううには奇跡だそうです。空は医薬品用キャリーケースに入れられ、地下の冷蔵庫の中で見つかりました。


 見つけた者がすぐ応急処置をしようとケースを開けて驚いたそうです。」



 皆風香の言葉を聞きながら空を見つめる


「ケースを開けた時空の身体に薬品の破損を防ぐためのプチプチシートと薬品の温度が上がらないようにする銀色のシートが巻いてあったそうです。


空のあの状態で庫内温度3℃の冷蔵庫の中で4時間以上いたら死んでいたそうです。


空の身体が小さくケースに閉じ込められた状態でシートを巻くことが出来た事。

犯人がケースごと冷蔵庫に閉じ込めた事。

これらが今回の奇跡に繋がったそうです。」


風香は最後に涙ながら話す


「発見した医師は一番大きかったのは空が絶対生きると言う強い意志で、狭いケースの中で身体を傷つけながら必死にシートを巻いたからではないかと… 


私は状況を聞かされ空は死んでしまった。と諦めました。

でも空は… 私達の空は必死に生きるために頑張ってくれたんです。うわーん」


風香の話を聞いて菫や梨香達も諦めてここまで来たと話す。


楓は娘を見ながら話す


「でも美空だけは空は生きてるって思ってたみたいだけど…」


その美空は嬉しそうに空に抱きついて空に話しかけている


「パパ生きててくれてありがとう…私ね。パパが私達のために頑張ってるの感じたよ。

よく頑張ったねパパ。」


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