第7話

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結果から言えば、この作戦は彼女によく効いた。少なくとも、僕はそう思っている。やったことは少なかったが、それはそれで刺激的な日々だった。

 この頃になると、僕達は毎日会い、色んなことを話した。そして、毎回暑さを紛らわすためにアイスを一つ買い、ゴミを道ばたに捨てて帰路に着く。

 ある時、学校近くの高校で、カップルがいちゃついてるのを見た。そのカップルは、明らかに高校生だったが、スト缶をベンチに置いて、キスを繰り返す。

「不純異性交遊だ」

 そう言いながら、彼女はとても魅入っていた。なぜこれに、と思うが、彼女なりに感じる美しさがあったのかも知れないし、社会に〈不適合〉な高校生という不適合に取り憑かれた彼女が感じる同族意識があったのか。

 そのキスの瞬間は、一秒、三秒と伸びていく。

「帰ろう」

 僕は耐えきれなくて、彼女に促した。僕達はそういう関係じゃない。そう心の中で繰り返す。

 だけど、それが的確な「ダメなこと」だった。前にこういう話をしたことがあった。

 「ダメなこと」をしようと話して、最初に何をしようかとなったときの話だ。

「お酒と煙草、どっちからやる?」

 事も無げにそう言う彼女に、僕は彼女が汚れるんじゃ無いか、という危機感を持った。なぜ僕がそう感じたのか、わかんないが、彼女を「綺麗なままの少女」としたかったのかも知れない。

 僕は、酒と煙草のどちらかをとるか、という答えは出さなかった。

「定番のお酒と煙草、手を出さないっていう不良として失格のダメなことをしようよ」

 ふーん、と彼女はあんまり乗り気じゃないように見えたが、

「わかった。それで行こう」

 意外とあっさりこの二つは行わないことが決まった。

 

 半ば強引に彼女をその場から離し、僕達は別れた。家に帰ると、いつものように父親の置き手紙があった。昼と夜の飯のお金。

 母が死んでから、父とは話さなくなった。金銭的援助は続けてくれているが、基本放任主義だ。僕は、そんな家に帰るのがあまり好きでは無い。高校を受験するときも、特になにも言わなかった。言われなかった。

 すべて、母が死んだせいなのだ。


「家に行きたい」とメールで彼女から言われた時、まだあの光景を見てからそんなに時間が経っていなかった。

「いいよ」と僕は返した。

 ピロン、とすぐに返信がくる。今から行ける? と。

「何か大事な用?」

「別に」

「そう。来ても良いよ」

 彼女は、僕が片親なのを知っていた。それを利用しようとしたときもあったが、彼女は基本、何か言ってくることは無かった。


「やあ」

「よーぅ」

 来ると言っていた予定時刻よりちょっと早めに、彼女は来た。彼女は、珍しくドラッグストアで色々とお菓子を買ってきた。めずらしいこともあるもんだな、と思った。

 しばらく無言だった。そういう時間だったということはよく分かった。

「試したい。ダメなこと、とかそういうんじゃなくて」

 彼女は慎重に近づいてくる。

 視線が合う。

 絡む。

 オフショルのブラウスが僕の心をくすぐる。

 僕は、彼女の肩に手を乗せた。

 頬に掛かる息が生暖かくて、体が火照る。そして僅かにミントの匂いが漂う。

 その後、一瞬だけ目が合い、彼女は目を閉じる。

 一秒、十秒と時間が延びていく。

 無言の時間が増える。

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