第67話 皇宮修道院
「ほう~そうですか。
わざわざテルミス中央修道院からお越しで。まさしく稀人(まれびと)でありますな。
しかし、誓書編纂者で高名なフェルミ殿や神学の大家であるフィオレンツィ殿の下に居て、それ以上の学問をここで授けられましょうか、いささか不安でありますな。」
そこで、そもそもこの巡礼旅行はフェルミ女史が勧めてくれたこと、特に各地に置いてあるグリモワールを見聞してこいと言われたこと、フィオレンツィ師は直接何かを教えてくれたりはしなかったし、特に神学については『それを必要と感じた時まで学ぶべきではない』と言われただけで、なにも教えてくれなかったことを伝える。
そう、まさしく、この旅行は私自身がどう生きていくか探すためというものに違いないのだ。
「なるほど、かわいい子には旅をさせろというわけですな。そういう事であれば、いささか貧相ではありますが、それなりにご教授いたしましょう。」
と言うことで、滞在許可が得られた。
皇宮修道院の図書館と言ってもテルミス王国のそれと比べて規模は半分以下であろう、蔵書の数はもっと少ない。
ただ、導師としてついてくれたのが、修道院で学識第一等であるこのリュンガー老師であった。老師は年少より学問の俊英として認められ、いまではヴォルカニック皇国に並びない碩学として聞こえている。もっとも平民出身なので教会階位はなく平の修道士のままであるが・・・。しかし、その実力による影響力は皇室内でも認められているとの事である。
「さてさて、あなたはテルミスで学ばれ、種々の学問について既に博覧強記なのだが・・・。そう、もしよければ神学を読書してみますかな。」
「ぜひよろしく。」
「今世の神学の大樹と言えばフィオレンツィ殿が並びないので、この人の著作から読むのが定石なのだが、でもご本人からはご教授いただけなかったとか。
やはり、自分の著作を読ませるのはやりにくかったのでしょうな。
ならば、こちらでフィオレンツィ殿の著書を読んで、解からぬところは帰ってからお聞きになるとよろしかろう。」
そう言ってフィオレンツィ師の著作『理不尽』をすすめられた。
さほど分厚い書物ではない。また、貴重本でもないらしく、鎖でつながれてもいない。装丁も簡素である。結構な数が出版されているので、豪華本にはならないらしい。
書架から抜き出し、ごつい木の読書机に陣取り、本を開く。
"人は等しく神の元から生れ出て、この世界を生きている。しかるに、富める者・才能ある者・幸運な者・美しい者がおり、そうでない者がいる。何故に、神は等しく人を作らないのか・・・。"
こう問題提起がはじまる。いろいろな人の人生を例に挙げて、それを分析し、
"・・・しかし、富む者が・才能ある者が・幸運な者が・美しい者が、人生をよく全うしたのであろうか?
富むことにより、才能あることにより、幸運に恵まれたことにより、美しいがゆえに、己の人生を全うすることができなかった。つまり信仰(真の意思)が欠けている者は自己を全うできずに終わるのではないか・・・。"
こう議論がすすみ、では人生の本質である信仰とは?と、進んでいく。
"・・・しかし、神は沈黙のままに見つめておられるばかりである。迷える我らに、その言葉が直接与えられることはない・・・。"
少し、議論が込み入ってくる。
"・・・我らは理性の手探りのままに、進むより他ないのであろうか。その信仰の正邪を正す言葉は無いのであろうか・・・。"
何やらもう、ボロボロである。
"・・・しかし世界の摂理、これは確かに神の手によるものであるから、これを光としてその導きを拠り所とするより他ないのである。"
う~ん・・・強引な結論の様にも思える。
3日かけてこの書を読み、リュンガー老師との議論に臨んだ。
「この著作は皇国では必須の読書として広く読まれていまして、ひとかどの人物はすべてこの本の洗礼を受けていると言っても過言ではありません。
で、どうでしたかな?」
「何と言うか、疑問ばかり目立って、結論にはあまり納得できない、モヤモヤしたものが残っています。」
「ほっほっほぅ、そうですか。
しかし、優れた疑問こそが既に答えでもあるのです。疑問を梃にして、自身を見つめ直すと真実が見えてくる。
そう思いませんか?。
それに、この疑問には結局の所、答えなんぞありはしない。
そう、”理性でもって手探りで進むほかない”と書かれてあるでしょう。私の一番感動する箇所ですが。」
「し、しかしですね、富める者・才能ある者・・・について議論をしていますが、その逆、貧困のどん底にある者・救いようのない愚かな者・とんでもなく不幸な者・不細工の極みにある者の悲惨さについては書かれていません。そんな人たちについて、どう考えているのか議論がないじゃありませんか。」
「なっ、なんと、いや、確かにそうであるが・・・。」
「フィオレンツィ師は、決してそんな人たちを知らないはずはないのです。何しろテルミス王国では、そんな人たちばかりを相手にしていましたから。」
「ほおっほおう・・・、そうなんですか。」
「ええ、ご存知の通り、王国では奴隷制度がありますよね。
実際の奴隷と言うのは、世の中から落伍してしまった人たちなのですが、ヴォルカニック皇国ではちょうど”はぐれ者”にあたる人たちです。
師はそんな人たちを相手に、社会復帰できる様に頑張っているのです。そんなことばっかりしているのですよ。」
「ほう~~~」
「師は奴隷制という制度を利用して、落伍した人たちを世間に更生させる、そんなことに努力しているのです。だから、知らないはずはないんです。
そしてですね、あまりにもそちらばっかり目を向けているものですから、マルロー大司教から他の事も考えるべきだと小言を言われたりしているんです。」
「ほぅ~、そうなんですか・・・。」
「でもですね、フィオレンツィ師ときたら、”それは、私の信仰上の問題なんだ”とか言って、取り合わないんですよ。」
「なっ、なるほど・・・。つまり、フィオレンツィ殿は、恵まれない者の悲惨さについて追求し、新たな神学上の所説を打ち立てようとしている、と・・・。」
「そう、人として生まれたからには『たとえ一握りの幸福であろうと、それを追い求める資格がある。人々はそれをあたえるために努力しなければいけない』と。」
「ふ~~、・・・、・・・。
しかし、はぐれ者の救済ですか・・・。
そこは、ヴォルカニックでは・・・、なかなか難しいですな。
・・・もしかしたら、フィオレンツィ殿は皇国とは相いれない思想の持ち主かもしれない・・・。」
そこで、議論は終わってしまった。それ以降、フィオレンツィ師について話題に上ることはなくなった。
結局の所、ヴォルカニック皇国とは、窮屈な封建主義に凝り固まり、そこからはみ出す者を排斥してしまう、そしてそこから変わろうとしない、そんな頑固な国だ"、そう結論付けるより他ない。碩学のリュンガー師も例外とは言えない。
もうこれ以上この国に居ても得るものは無いだろう、ヴォルカニック皇国に長居する意味はない。
この一件のあと、旅立とうと用意していたのだが・・・。
「エリーセ殿、あなたは治癒師として相当な腕前をお持ちだとか。そう聞いておるのですが。」
ある日、皇宮の役人がやってきて、こう尋ねる。
「いえ、ご覧の通り若造ですから、決して経験豊かな治癒師と言うわけではありません。ですが、それに関する魔法は一通り習得しております。」
「で、ありますか。どなたと名は申せませんが、さる貴婦人が重い病状で苦しんでおられまして。病名は”胆の石”とわかっておるのですが。手を出せる治癒師がおらないのです。」
”胆の石”、胆石症である。中世のこの世界では”結石”と言う病は、我々にとって”癌”と同じくらいに不治の病である。
しかし、魔法でもって”胆石”を"抽出"できるなら、なんとかなるかもしれない。患者の事はともかく、この病名から、試しにやってみたいと気持ちが少しそそられる。
「治癒できるかどうかは確答しかねますが、試して見る価値はあるかもしれません。」
そう言うと、是非来てくれと、そのまま皇宮に引っ張って行かれた。
連れていかれたのは、宮城(きゅうじょう)の奥の院で、病人は60歳前後の婦人であった。
黄疸がでて皮膚も目も黄色く染まり、腹痛と高熱に苦しんでいて、医師と看護師が付きっきりで看護している。
「旅の治癒師殿、無理を言いました・・・。
万が一にもとすがる気持ちで、このようなわがままを通してしまいました。
しっかりしているときならば、決してこのような事は言わないのですが・・・、苦しさのあまり気が弱ってしまい・・・。
直らぬものならば、無理は言いません、そうと言ってください・・・。」
「精一杯の事は、させていただきます。」
そう言って、まず浄化とキュアーを掛けてやる。これで一時の安楽は得られるはずである。
次に右上腹部を魔眼でもって透視する。やはり総胆管結石だ。4個の石が胆管内に並び、その一番端っこの一つが胆管の出口をふさいでいる。
さて、どうしたものか。胆管内の胆石を抽出できるだろうか。生体内は生命力の問題から魔法ははじかれる。しかし、組織の中でなく、胃腸の中などの様に管腔内ならば魔法を及ぼすことはできるのだ。やってみる価値はある。
手の平を右わき腹の前に広げて魔力を展開し、胆管内の石を"抽出"していく。
ゆっくりとゆっくりと。
石が砕けてゆき、やがて一つの石がバラバラになった。
そして、次の石。
半時間ほどもかけ、順々に石を砕いていく。そして最後の石を砕いた時、胆管内にたまっていた泥状のものや石の破片が、腸の中へと一気に流れ出した。
と同時に、"ホッ"としたためいきと”痛みが急に楽になった”との声がして、”治ったのですか?”と尋ねられる。
「はい何とか。でも、今あった石は取れたのですが、石のできやすい体質までは変わりはしません。熊の胆(くまのい)を常用していただきたいと思います。」
熊の胆は、利胆作用があるのだ。ただし、恐ろしく苦い。
「やはり服用せねばなりませんか?」
「はい、残念ながら。」
そう言って、おつきの皇室付きの医師と看護師の方を見る。
医師は、ゆっくりとうなずき、病床の夫人の方を見つめる・・・。
「ふ~~、仕方ないですね。こんな目に合うぐらいなら・・・、あの苦い薬も我慢せねば、と言う事ですね。」
治療をうまく終えて、部屋の中の時間の流れはすでに緩くなっていて、気楽な会話が続く。
2~3分ほどもそんな雰囲気の中にいたが、先程の役人がやってきて、
「皇帝陛下がおこしになられました。」
と。
驚いて後ろを振り向くと、痩身で立派な髭を生やした中年の紳士が部屋の戸口に立っている。
この人が皇帝なのか。
あわてて横に退き、直立して頭を下げる。
「いや治癒師殿、お気軽にお気軽に。母の事が心配で、つい今しがたまで前の廊下で窺っていたんだが・・・、うまくいった様子が聞こえてきて、居てもたってもいられず入ってきてしまったよ。
ありがとう、本当にありがとう。」
そう言って病床の傍に寄り、母親の手を取っている。
「そうだ、今日の晩餐をごちそういたしましょう。
・・・
なに?リュンガー老師の下で学んでいる?
では、久しぶり老師も招いての晩餐になるな。」
しかし・・・である、巡礼の途上にある身で、ろくな衣装もない、宮中で皇帝からのもてなしを受けるというはさすがに失礼とも思えて・・・気が引ける。
「何を言っている!
ヴォルカニックでは全て者があるがままに、と言うのが礼なのだ。
巡礼者は巡礼者の姿のままに来られたらよいのだ。
招く側とて、それを咎めたり、それで恥をかかせるような無粋な真似はしない!。」
却って、そのように言われてしまう。
この日はそのまま、晩餐まで皇宮内で過ごし、リュンガー老師と共に皇帝の晩餐に”挑む”ことになる。
・・・・・・
「宜しいですか!、
万物は変転いたします。まして人の作るものなどに完全無欠のものなどないのです。ですから、皇国も常に改革し続けなければなりません。ここは王国楽土であるからと言え、変化を恐れて惰眠を貪っていてはならないのです。」
皇帝とそのいとこの宰相が同席している晩餐の席で、ちょうどいい機会だとばかりにリュンガー老師は説教を垂れはじめた。
皇帝は素直な顔で聞いているが、宰相はうるさいと言わんばかりに顔をしかめている。
もう一人、皇帝の母たる老婦人も車いすに座って、テーブルの端に陣取って、嬉しそうな顔で、話を聞いている。
病み上がりでごちそうは食べないが、もてなしには参加せねばとここにおられるわけである。
「おやおや、皇国の2巨頭が、昔の子供の時の様に老師からおしかりを受けているわけですね。ホッホッホッ。」
「でありますが、今日の主客は、巡礼中のエリーセ殿。
老師の箴言もそろそろお許し頂かねば。」
うるさ方のリュンガー老師も皇帝にそう言われると引かざる得ない。
ここぞとばかりに宰相は話を振ってきて、リュンガー老師の話を逸らせてしまった。
「そう言えばエリーセ殿はハイエルフとか、そのような種族には初めてお目にかかる!」
そのように言われたので、右手の甲を差し出す。鑑定をさせるために。
宰相は手を重ね、
「ほぅ~~、これはこれは、」
と感心している。
するとテーブルの向いでは皇帝がもじもじとこちらを見ていたので、席を立ち、食卓をぐるっと回って側に行き、右手の甲を差し出して鑑定させる。
「なるほどなるほど、これは素晴らしい。」
自分の席に帰る途中で、皇帝の御母堂に鑑定させる。
食卓の周囲を歩きまわすのは、いささかマナーに反した行動だが、それを許す親し気な雰囲気に包まれていたから・・・。
「はてさて、ハイエルフ殿とは、いったいどのようにして・・・、差し支えなかったら物語りをお聞きしたいですな。」
宰相殿に問われたので、ゴムラの奴隷商に売り飛ばされてテルミス王室に保護された事、修道院ですごし巡礼に出たことを話す。そしてその前の前半生の記憶を失ってしまったのだと。
ゴムラの話を聞くと、顔をしかめて、
「ウェルシ!、全くあれが諸悪の根源と言える。しかしテルミスもテルミスだ。目の前の悪行を黙ってみているとは!ヴォルカニックでは絶対ありえんことだ。直ちに騎士を派遣して制圧しているであろう。」
そのように頼もしい事を言われて、
「フィオレンツィ師も申しておりました。王室がこの問題にもっと関心を持ってくれたら・・・、と。」
「皇国は言葉だけではありませんぞ。
いま、ウェルシの悪行を糺すために騎士団を派遣しておる。ウェルシの掣肘を力でもって実行しておるところなのです。」
「えっ?戦争なのですか?」
「いやいや、戦争ではない。軍事力による圧迫です。直接戦闘はしていないが、外交の力で、ウェルシに皇国の武力が国内に入る事を認めさせた。あとは圧力をかけ、ウェルシをまともにしてやる。強制的にね。
・・・
しかしそれはそれで、問題がありますな、エリーセ殿の帰り道が・・・。
戦争でないとは言え、今のウェルシは平穏とは程遠い状況ですからな。
一つは、西に大きく戻りエイドラ山地を横切って帰る、一つは、このまま東に行き選帝侯国からサムエル公国を通って帰る、一つは、このまま情勢が落ち着くまでヴォルカニックに残る。
さてどうしたものか・・・。」
「ウェルシを通って帰りたいと思います。」
「なに!何故?」
「リュンガー老師に神学の読書を指導していただいたのですが、フィオレンツィ師に一刻も早く問いただしたい疑問ができた事。
それと、あのややこしい地域、あそこに私の前半生の記憶が残されているのは確かなんです。それを取り戻す手がかりが何としても欲しいのです。」
「失われた記憶の手がかりですか・・・、やれやれ・・・。
諦めろ、とも言いにくいですな・・・。」
宰相はあきれている。
「宰相殿、エリーセ殿は母の恩人であり、と言う事は私の恩人ともいえる。何とかなりませんか?」
皇帝の口添えがあり、
「陛下の仰せとあらば、仕方ありませんな。騎士の護衛をつけましょう。しかし途中までです。我々とて、ウェルシの全てを把握できているわけではないので。」
「こう見えても、わたしは結構強いのですよ。」
そう言ってバルディ大迷宮での話をした。そしてイヤリル神社では、試練を受けて巫女の資格を与えられたことも。
宰相は両手を脇に広げ、あきれ果てた表情で、
「そこまでおっしゃるならば、止めるわけにもいかない・・・」
こうしてヴォルカニック皇国からテルミス王国への帰り道は紛争中のウェルシ公国を突っ切って戻る事となったのである。
修道院に戻って次の日、旅の用意をしていたら、リュンガー老師に呼び出される。
「いかがでした、ヴォルカニック皇国は。」
「はい?」
「あなたはテルミス王国の王室の中で過ごし、修道院で過ごし、巡礼で各地を巡られた。その目で見てヴォルカニック皇国はどう見えましたか?」
「はい、思っていたのとはだいぶん違っていました。」
「ほほう」
「身分がはっきりと定まっている国であり、もっと窮屈なのかと思っていました。でも、皆さんのびのびと生きておられる。」
「なるほど。社会的地位がよく変動する世間でもって立身出世を求めて生きていると、上に昇る期待もありますが、下に落ちる恐れもありますから、葛藤することも多い。
ですが、生まれた時からもうすべてが定まっているこの国では、そんな緊張はないのかもしれませんな。
ただ、そう言う風に国を作り上げるには一つ条件があります。
上に居る者はその権力を乱用せず自制することに勤め、下に居る者ものは与えられた物に満足し感謝の念を持ってそれ以上の欲を膨らまさないことです。
それを為さしめるために、教会がうるさく教導しておるわけで、この努力があって初めて成り立って居るわけであります。
私はこの状態を”王国楽土”と呼んでおります。」
「はい。確かに王国楽土ですが・・・。でも、変化のない世界が本当に良いのでしょうか。はぐれ者の問題は・・・、あれでいいのでしょうか。」
「"万物は変転する"これは真実でありましょう。皇国はこの点で不自然で恣意的である、無理がある、そう批判されて当然であります。皇帝殿下・宰相閣下に箴言いたしましたように・・・。
しかしながら、王国楽土はうまくいっている。だから、敢えてこれを変えようとする者はいない・・・、と言う訳であります。
特に"はぐれ者"の問題、・・・、おっしゃる通り、あれは皇国の宿痾ですな。
以前私のいた教区では、成人の祝福を年間30人ほどしておりました。そして教会の記録を見ると、10年間で1人が村から追放されてはぐれ者になっておりました。つまり、皇国では300人に一人ぐらいがはぐれ者として棄てられているといえる。
反面、村で犯罪を犯す者はほとんどおりません。はぐれ者の存在が見せしめとなるので、萎縮して窮屈に生きているのかもしれませんが。
300人に一人をはぐれ者として追放し、それを"見せしめ"のための"いけにえ"として、その対価として秩序安寧を得ているともいえる。
果たして、その数が多いとすべきか・・・。
テルミス王国ではいかがでしょうか、犯罪者・犯罪被害者の数は?
ヴォルカニック皇国の人々はテルミス王国の人々よりも平安に過ごしているのではないかと、私は考えておりますが・・・。
いずれにせよ、このやり方でうまくいっているので、誰もこの問題に正面から触れようとしない。もはや見ようともしない。
いや・・・私とて必要悪と考えてしまっている。変わらぬ王国楽土を維持するための。
こう思うのです。完全な国はない。最小限の理不尽は安寧の代償として受け入れざる得ないと・・・。
全ての人は幸福をえられるべきである、全ての人に幸福を与えるべきである、フィオレンツィ殿の言われる考え方が真実であると認めなければならないでしょう。しかし、人の生き方をがんじがらめにしているこの皇国では、残念ながらフィオレンツィ殿のなさっている活動は、許されんでしょう・・・。」
「フ~~、・・・。」
もうこれ以上論じることもない。しばらくの沈黙の後、別れの挨拶と礼を伝えて、自分の部屋に戻った。
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