第2話
陽菜の奴が追いかけてくるかもと思っていたが、あそこまで言い合いになれば、陽菜でもさすがに気まずいというものはあるらしい。
俺としては、陽菜に振り回されずにすんだので平穏に下校できて助かった。
陽菜と一緒だと、あいつのわがままと気分でまっすぐには帰れないからな。
ただし……それは家に帰るまでだった。
家に帰ると、俺のスマホに何度も通知が来る。
ラインか。
俺に送ってくる人間はそう多くない。
見てみると、陽菜の奴からいくつもラインが届いていた。
……あいつ、俺以外に送る相手なんていないからな。
『ちょっと、見てるんでしょ!?』
『見てるなら、ちゃんと返事しなさいよ!』
陽菜は相当に暇なのか、連続で何度も送ってくる。
既読をつけないよう、俺は待機画面で確認していた。
だいたいは、さっさと返事をしろというラインだな。
無視を続けていると、「!」の数が増えていく。
めちゃくちゃ怒っているようだ。
『あたしがこんなにライン送ってるのに、いつまで無視するのよ!!』
……相変わらず、上から目線だな。
少し冷たくすれば、自分のわがままっぷりに気づくんじゃないだろうかと思っていたが、ダメそうだな。
俺がラインを開くと、既読がついた。その瞬間、さらに連続で文章が送り付けられる。
『見たわよね!? 見たのなら返事しなさい!』
電話がきたが、俺は拒否ボタンを押した。
その次の瞬間、さらにラインが来た。
『あんた! なんで拒否したのよ!? 何か言いなさいよ!』
「……騒がしいな」
俺は小さく息を吐いて、陽菜のラインをブロックした。
そのおかげで、スマホは静かになった。
これで、プライベートも守られる。
陽菜のわがままに付き合わないで済むとなると、途端に心が軽くなった。
これでも陽菜のわがままには他の人よりは耐性があるほうだった。
しかし、それでもやはり。
無理やり相手に合わせるというのは想像以上の苦痛になっていたようだ。
完全に静かになった部屋で、友人としばらくラインをしてから、俺は眠りについた。
〇
次の日だった。
「一真! 起きなさい!」
カーテンがばっと開かれ、朝日が俺を焼く。
ぐぉぉ……なんだいきなり。
見れば、そちらには陽菜がいた。
昨日のことなんて何もないかのような様子だった。
いつもの勝気な笑みを携え、堂々とした態度である。
胸を強調するように腕を組む陽菜は、相変わらず黙っていれば美少女だった。
「……なんで人の部屋に勝手に上がってるんだ?」
「起こしに来たに決まってるでしょ!? 幼馴染なんだから当然でしょ!?」
「……ったく」
いつもの通り。
母さんが陽菜を家にあげたのだろう。
家族ぐるみでの関わりがあるせいで、陽菜はこうして俺の部屋まで容易にたどり着けてしまう。
どこか楽しそうな陽菜が俺のほうにやってくる。
「昨日はどうしてラインの返事しなかったのよ。何度も送ってたのよ!」
「そうか。知らねぇな」
「なんでよ! 途中までは見てたでしょ!?」
「その後ブロックしたんだよ」
「え……っ?」
陽菜がきょとんとこちらを見た。
俺はそれから、彼女をジトリとみる。
「昨日も言っただろ? 俺たちはただの幼馴染だ。……もう関わらないでくれ」
俺が冷たく言い放つと、陽菜はびくっと肩をあげた。
それから、彼女は何かを言おうとした様子だったが、
「着替えるから部屋を出て行ってくれないか?」
「……な、なんで――」
「ただの幼馴染さん、出て行ってくれないか?」
何も言わず、陽菜はそのまま部屋を出て行った。
予約しておいたアラームが枕元でやかましく響いたので、それを止めながら俺は制服に着替えた。
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