第伍拾伍話


 日英米の三カ国の艦隊は無事合流し、あの英国薩摩隼人フィッシャーきょうの作ったトンデモ艦を中心に艦隊を組んでいる。あの艦をル=ルイエーに突っ込んで爆発させるつもりだってんから、信奉者連中にはご愁傷様としか言えない。


 ……そう思っていた時期が俺にもありました。


 ル=ルイエーときたら、連中の手で完全に要塞化されてやがる。砲弾ガンガン撃ってきやがってまるで炎のハリネズミといった風貌である。だが、さすがにビッグセブン勢揃いの火力の前に、砲台も次々と沈黙していくし、飛行場もあったようだがそいつも息の根が止まっている。要塞のあちこちがまるで火山のように燃え上がっていく。


 これはもう、反撃もしてこないだろう。人間同士の戦いなんだから、多少のことで戦力を揃えたところで、数が多い方が勝つ。数の暴力だ。砲門の数でも、艦の数でも勝てる要素がない。


 あっさりと決着がつきそうかと思ったら……敵の艦隊がまだ出てきた上に、巨大な海棲生物が触手をくねらせている。要はでっかいタコかイカか、まあそんなもんだろう。しかし、これで英米の動きが若干おかしくなってきた。俺は思わずぼやく。


「おいまさかびびってんじゃねぇだろうな?」

「英語でああいうのなんていうか知ってますか、師範」

「なんてんだよ」

「デビルフィッシュだそうです。悪魔の魚」


 そんなびびんなくてもいいだろうに、所詮あんなもん海産物じゃないか、うまく捕まえたら食えるだろ。動きが悪くなる英米艦隊をよそに、日本軍は気勢を上げている。魚雷と砲門を艦隊と海産物に向け始める。そらな、うちらからしたら、なにそれ美味しそう以外の何物でもないもんな。


 優位に攻撃できると思って襲撃した奴らが、一度反撃され始めると弱いもんだ。炸裂する魚雷、巨砲の餌食……あっさりと沈み始めるル=ルイエー防衛艦隊。


 そうなってくると今度は英米も負けてはいられないのが、艦隊戦に加わってきた。さすがは海の漢たちである。ちょっとびびったかもしれないが、触手がなくなっただけで戦闘力を回復してくれたようだ。


 そしてついに秘密兵器に火がついた。艦から船員たちが離れてゆく。……50ノットって思ったより速いな。魚雷より速いんじゃないのか?まだ横で魚雷を撃ち込んでいた駆逐艦の魚雷に、追いつかんと言わんばかりの速度でル=ルイエーに吸い込まれてゆく艦。


 閃光。


 数秒おいて猛烈な爆発音に俺は驚かされた。どんだけ爆発物積んでたんだよ!島の形変わってないか!?


「さて、行きますよ!」

「お、おう」


 俺は富山一飛曹に連れられ、艦攻に乗り込んでゆく。爆裂したル=ルイエーの要塞部分は、最早元型など留めていない。人間って、怖い。


 俺が乗ってるのは、いや、載っているのは艦攻の爆弾庫である。さすがに直接降りるのは艦攻が生きて戻れない可能性あるから、俺だけを『投下』することにしたのだ。投下の衝撃を抑える仕組みはある箱だから怪我はしないらしいけどさ、でもこれなんも見えなくて怖い。


「もうすぐ島の上空です!」

「わ、わかった!」


 すぐかよ、心の準備とか出来ないんだけど!?


 そんな俺の気持ちとは裏腹に、もう島が近づいてきたようで、


「投下します!」

「えっちょっと待て心の準備が」


 などと言っているうちに俺はもう投下されてしまった。早いよ。衝撃とともに俺が入った箱がごろごろと転がる。あんまり高くは投下しなかったので助かるけどさ。


 やっとの思いで箱の扉を開ける。怪我はないけどびびる。もう二度とやりたくない。そして、俺はル=ルイエーの要塞に降り立った。最早要塞とは呼べない単なる廃墟と化している。島の形も変わっているし、無数の死体も転がっている。


 人も怪物も皆等しく死んでいる。


 こんな惨劇を引き起こしたのはおれたちだが、やらなければやられるのも事実だ。それでももう少しこうなるまでにどうにか出来ないものだったのか。


『行くぞ』

「あ、あぁ」


 魔剣に促され俺は地下を目指す。目指すはクトゥルーの寝所である。こんな戦争になって起きてこないといいんだがな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る