サイキックス・オブ・ラウンド 

黛 美影

プロローグ

 曇天の河川敷に二人の少年と複数の黒いスーツを着た男達がいた。少年の髪はどちらも青く、一方の少年は手足をスーツの男達によって手足を掴まれ、拘束されている。もう一方の少年はスーツを着た男に拳銃の銃口を向けられている。


「遺言はあるか」

 スーツを着た男は銃口を少年のこめかみに当てる。銃口を突きつけられている少年は大きく息を吸った。

大河たいが。正義を貫け‼︎お前の拳で。正義を貫け‼︎俺の分まで」

 その言葉の一つ一つがもう1人の少年の胸に刻まれた。スーツの男は突きつけていた銃の引き金を引く。


 ドンッ

 

 拳銃から弾丸が発砲され少年は死んだ。


「うわぁぁぁぁ」

 大河たいがと言われたもう1人の青い髪の少年、わらび大河はその場で泣き叫んだ。


 銃を撃った男と蕨を拘束していたスーツを着た男達は、近くに止めてあった外車にさっと乗り、早速と河川敷を立ち去った。


 強い雨が降り始めた。大玉な雨粒と悲惨な現実が蕨を長時間に渡り襲った。


 しばらくして、白衣の老いぼれが蕨の元に来た。白髪で眼鏡をかけていた。目つきは眼鏡越しでも鋭い。老いぼれは蕨の前にある、少年の遺体を確認した後、蕨大河に語りかける。

「この子を知っているのか?」

「知ってるのは名前くらい。今川蓮って、俺にはそう言った」

「君に話があるんだ。その為に一つだけ質問がある。君はこれからどうなりたい?」

 その老いぼれは言った。

「正義を貫ぬきたい‼︎」

「具体的に、君の正義を教えてくれ」

「分かんねぇよ、俺の正義なんて。ただ、もう目の前にいる友達を死なせたくない‼︎」

葛切くずきりだ。実は超能力開発をしている。きっと君の力になれる」

 老いぼれは手を差し出す。蕨はその手を掴み、立ち上がった。


 会話を早々に切り上げ葛切くずきりと蕨は歩いた。たどり着いた先には巨大なガラスのビルである。2人はそのビルのエレベーターで海底へ向かった。


 ドーム状の超巨大な水族館のような建物、それが超能力開発用に作られた海底都市だった。名前はポセアリウス。わらびは葛切に連れられ、ポセアリウス中心部にある施設に向かった。施設は立方体の3〜4階建ての建物である。


 施設の中のとある部屋に入ると配線がぐちゃぐちゃのカプセルがあり、葛切はそのカプセルに誘導した。蕨は中に入る。


 プシュー


 暫くして、カプセルの扉が開くと蕨には衝撃の言葉が放たれた。

「すまない。君に能力を与える事ができなかった。すまない」

「それって珍しい事なのか?」

「前例のない事だ」

「そっか」

 淡泊にわらびは答えた。次第に蕨は強い悲壮感に染まっていた。わらびはすっかり無気力になってしまった。


「もし、良ければ、ポセアリウスの宰領さいりょう学園に入らないか?」

 葛切くずきりは言った。

宰領さいりょう?」

「宰領は超能力開発を受けた学生が入る学校さ」

「俺は超能力が使えないんだろ」

「宰領学園への入学は体内に流れるルクスの量で決まる。ルクスとは超能力におけるエネルギーの事だ。君はそのルクスを誰よりも多く有している」

「そうなんだ……」

 時間を置いて蕨は言った。話は聞いていたが興味はあまりない様子だった。

「宰領学園には円卓というものがある。円卓はこの海底都市、ポセアリウスの治安を維持するために作られた宰領学園の組織だ。円卓のメンバーはルクスの量で決まる。君がもし、宰領に入れば円卓に選ばれるのは必然だ。円卓でなら、君は君の理想に近づけるんじゃないか」

 葛切りは蕨の目をしっかり見て言った。

「よっし、決めた。宰領に入って、円卓の一人として、俺は正義を貫く‼」

 蕨は覚悟を決め、声高らかに宣言した。

 

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