清掃師、登頂を目指す
「えっ……!?」
翌日の早朝、俺は起きて早々にマリベルから出された提案に対し、眠気が【一掃】するまでもなく吹き飛んでいた。
「そう驚かんでも……アルファならできるとわしは確信しておるっ!」
「は、はあ……」
彼女の提案は、俺が一人でこの迷宮山『アバランシェ・ブレード』を登頂することだった。人間がたった一人で迷宮山を登りきるなんて普通じゃ考えられないことだが、確かに神スキル【一掃】を得た今の俺ならやれるかもしれない……。
「もちろんわしらもついていくのじゃ。とはいえ、あくまでも見守り役としてであって協力はせんがなっ」
「マリベルッ、なんでわたくしたちまでついていくことなってますの……?」
「ルカよ、嫌ならここに残っても――」
「――ま、待ちなさい。そこまで言うなら、その下等……いえ、人間がどこまでやれるか、特別に見てあげてもよろしくてよっ」
「……」
お、下等生物から人間にクラスアップしてる。
「わ、我はむしろアルファどのの成長が楽しみだがな……」
「カミュよ、アルファはお主には渡さんのじゃっ!」
「ふっ……我とやるつもりか、マリベルどの?」
「喧嘩はダメなにょれふっ。アルファしゃんが困ってましゅよ?」
「「ぬぬっ……」」
「……」
地味にユリムが俺の名前を呼んでくれてる。あとはルカって子だけか……って、彼女たちはこれから山頂を目指すっていうのに、緊張感の欠片もないんだな。神スキル【一掃】を手にした俺でさえ結構ドキドキしててそのたびに払ってるんだが……。
「アルファよ、Fクラスのこの迷宮山くらい軽く登頂してもらわねば困るぞ。ゆくゆくはわしらでも無理なSクラス以上の山々も目指してもらうつもりじゃっ」
「……」
俺はマリベルの言葉に息を呑んだ。というか、S以上は人類が登頂どころか足を踏み入れたことすらないっていわれる迷宮山しかないんだ。
それも見た目からして異常で、山を反転させたグラスのような形の山だったり、巨大な樹のようにまっすぐ空へ伸びた構造のものだったりと、出現するモンスターも神気を纏うS級の化け物ばかりという事実も相俟って、エルフやドワーフら人外の登山家ですら途中であきらめるか、登山自体を断念するほどだとか。
「さて、おやつもリュックに入れておかねば……って、な、ない。どこにもない! わしの大事なお菓子を食べたのは誰じゃ!?」
「し、知りませんわよ」
「我も知らぬ」
「も、もがっ……!」
「ユ……ユリムウゥッ!」
「……」
マリベルとお菓子を咥えたユリムの追いかけっこが始まってしまった。ドワーフたちはまるでピクニックに行くかのようだな。忘れがちだがここは迷宮山で、普通についていくだけでもかなり危険なんだが……。
◇◇◇
『ギャンッ!』
「ヨシッ! 仕留め……あっ……」
迷宮山『アバランシェ・ブレード』の第一セーブポイント付近、【弓使い】のジェイクが遠くからスノーウルフを狙うも急所を外してしまい、さらに木陰へと逃げられたため、【回復師】のレイラ、【鑑定師】のクエスとともに追いかける羽目になった。
「「「――こいつっ!」」」
『ギャッ!』
三人でようやく仕留めるものの、彼らの顔には疲労の色が滲んでいた。荷物役のアルファがいなくなり、一人募集したものの誰も来ず、結局三人で分け合って運ぶことになったからだ。
「おいレイラ、お前が【祝福】してくれなかったから【的中】が外れちまったじゃねえか」
「し、仕方ないだろ、こんだけ荷物持たされて疲れてんだから、あたいだって忘れることもあるさ……。それに、あんたの腕も悪いんじゃないのかい?」
「バカか。俺だって疲れてるけどよ、俺の【的中】は【祝福】ありゃ急所命中率100%だってクエスの【鑑定】でわかってんだよ。てかとっととモンスターの解体頼むぜ」
「えぇっ、あたしが!? ……クエス、頼んだよっ」
「ちょっ……僕にやらせるのかよ……」
「クエス、お前【鑑定】するだけだろうが!」
「そうだよ、それくらいおやりよ!」
「……はあ。【鑑定師】は確かに【鑑定】するだけだよ。でもアイテムだけじゃなくて敵のスキルとか残りの体力とか、ほかにも色々あるけど……とにかく沢山のことを調べることができる有能なジョブってのは知ってるよね?」
「んなのわかってるし、つべこべうっせえんだよバカッ!」
「な、何っ、僕に向かってバカだと!? ジェイク、君にだけは言われたくないもんだね!」
「こ、こいつ……!」
ジェイクとクエスが真っ赤な顔で取っ組み合いになる中、レイラが慌てた様子でその間に入る。
「ふ、二人ともやめなって! クエス……頼むよ。今度荷物役見つけたらそいつにやらせるからさ……」
「……はあ、わかったよ。今回だけだからね」
クエスがしかめっ面で狼を解体し、収集品を拾う。
「ご苦労さん! ほら、ジェイクも何か言っておやりよ!」
「わ、悪かったな、クエス」
「もういいよ」
「あいつさえいりゃなあ」
「「……だねえ」」
ジェイクが発した言葉で、三人がうなずき合う。
「ゴミアルファの存在の大きさを思い知ったぜ。ストレス解消にも使えるしよ……」
「あはは、まったくだねぇ」
「思えば貴重な存在だったね。ゴミ箱そのものとして」
「「「アハハッ!」」」
しばらく笑い合う三人だったが、ふとジェイクが驚愕の表情になった。
「ん、どうしたのさ、ジェイク?」
「どうしたの?」
「……あ、あれ、見てみろ……」
「「あ……」」
ジェイクが震えながら指し示した方向には、アルファに酷似した者とその連れらしき者たちの姿があるのだった……。
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