語り継がれた物語
華心夢幻
調律の巫女と渡り鳥の少年
「あ、あの兄妹ぃぃぃ!」
「レ、レイナ?一旦落ち着こう?」
「なに?私は落ち着いているわよ?えぇ、本当に」
「いや、どう見ても怒ってるよね!?」
フィーマンの想区にある神殿。エクスとレイナは、その一室に閉じこめられていた。最近神殿の仕事で忙しく、エクスとの時間が取れていないレイナの事を思い、タオとシェインが二人きりになった時を見計らって、外から鍵を閉めたのだ。
エクスとレイナが閉じこめられた部屋には、本来鍵などついていなかったのだが、タオがこっそりとこぶた達に頼んでつけてもらっていた。
「はぁ…それで、どうしようかしら…」
「そうだね…無理矢理壊すこともできなさそうだし…」
「しょうがないわ。誰か来るまで待つとしましょう」
「うん。とりあえず、そこに座ろうか。立ちっぱなしも良くないからね」
二人は近くにあったソファに腰かける。ソファはそこまで大きくなく、二人で座ると、ちょうど肩がくっついてしまう。
そんなこともあってか、二人の顔は少し赤くなり、何かを話そうとしてもうまく口にだせない。
そんな中、最初に口を動かしたのはレイナだった。
「エクス、ありがとう」
「レイナ?いきなりどうしたんだい?」
「あのとき…シンデレラの想区で、ヴィランに襲われていた私を、あなたは助けてくれた。おかげで、私は沢山の思い出ができたわ」
「…うん」
「…でも、悲しい別れもあった。私の目の前で命を落とした勇気ある少年も…私たちを守るために戦って、そして、亡くなった魔女もいたわ」
「…そう、だね」
「でも、私は前に進まなきゃ行けなかった。調律の巫女として、想区をあるべき姿に戻すために。だけど、それでもやっぱり、辛いものは辛いの。大切な誰かを失う、っていうのは」
「………」
「だけど、そんな私を、あなたたちは支えてくれた。時には喧嘩して…そして、仲直りして…エクス?」
エクスは無意識に、レイナの手を握っていた。
エクスがレイナたちと出会う前、そして、それよりももっと前。レイナはたった一人でカオステラーと立ち向かっていた。
そのとき、レイナは幾度となく、誰かが消える様を見届けたのだろう。でも、そんなレイナを支えることのできる「誰か」は側にいなかった。
だが、ファムやタオ、シェイン、そしてエクス。大切な仲間たちと出会い、レイナを支えてくれる「誰か」が側にいるようになった。それはきっと、今、レイナがレイナであるために必要な存在だった。
「レイナ。僕も、レイナに…皆に感謝しているんだ。もしあの日、レイナたちが来なかったら、僕は何者にもなれなかったから」
「エクス…」
「僕は確かに主人公じゃない。運命も与えられず、ただ運命が流れる様を横から見ることしかできなかった。だけど、レイナと出会って、僕は僕の物語を歩むことができたんだ」
「…後悔、しているかしら?私たちと旅をして、その先でエクスは…」
「レイナ、僕は後悔していない。僕が選んで進んだ道に後悔なんてしたら、それこそ僕は、本物のモブキャラだよ」
「…ふふっ、そうね。ごめんなさい、こんなことを聞いて」
エクスとレイナは見つめあい、そして、笑顔になった。
フィーマンの一族として、苦しみながらも進み続けた少女。
何者にもなれず、ただ見ていることしかできなかった少年。
シンデレラの想区で出会った二人は今、こうして笑いあっていた。まるで、どんな逆境にも負けず、幸せを勝ち取ったシンデレラのように……
「と、ところでエクス…その、えっと……」
「ど、どうしたんだい……?」
「こ、子供、欲しくない、かしら……?」
「…へっ!?」
「エクスは、欲しくないの?」
「い、いや…!その、欲しいとは思ってるけど!レ、レイナは子供の作り方知って…!?」
「そ、それくらい知ってるわよ!…カッツェから聞い、たけど…はぅ」
カッツェに教わった子供の作り方を思い出したのか、顔が真っ赤に染まるレイナ。
結局、タオとシェインが鍵を開けるまで、エクスとレイナはお互いの顔を見ることも、話すこともできなかった。
それから数年後、二人の間に小さな命が産まれていた。
その命に与えられた運命は───
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