【悲劇の先の真実】
「マスティマーー!!」
俺が剣を振り下ろすとマスティマは咄嗟に自分を庇うように腕を出した。
血飛沫を上げながら、マスティマの腕が宙を舞う。
マスティマは舌打ちをしながら、重力場を発生させるが、
「私の事も忘れるなよ?アンチ グラビティ!」
バアルが重力場をかき消すと、俺は返しの剣で斬り上げた。
マスティマの腕が地に落ち、両腕を失ったマスティマは後ろによろめいた。
「僕が!負ける訳がないんだ!!カウンター フォース!」
マスティマの体から再び魔力の塊が放出される。
「まずい!小僧よけろ!」
バアルが叫ぶが俺はよけずに剣を握り直した。
「もう無意味だよマスティマ…。
"絶対なる創造主""スキルキャンセラー"!」
魔力の塊を切り裂くと魔力は塵のように消えていった。
その様子をマスティマとバアルは目を見開き見ていた。
「マスティマ…俺のせいなんだ…この世界は…全部思い出したんだ…。ごめんな。」
俺は真っ直ぐマスティマを見るとそのまま剣を振り下ろした。
ーーーーー
「アーサー大丈夫か?」
俺は項垂れるアーサーに声を掛けた。
「神威様…無事だったのですね…。」
アーサーの瞳から大粒の涙が零れる。
「心配かけたな…すまない…。今は時間が無い…急いで自軍に戻るぞ!バアル!倭の国に行って、咲耶姫とベリアルを呼んできてくれ!ベリアルなら俺が呼んでいると言えば分かると思う。」
アーサーは不思議そうな顔をしていたが、バアルは寂しそうに頷くと猫の姿に戻り空間の狭間に入って行った。
「メドラウド、君はどうする?俺達とくるか?」
俺は膝を抱えるメドラウドに声を掛けた。
「神威…俺は母上と居たい…でも、アノニマスにケリをつけないといけない。もう俺はアノニマスのボスでは居られないから…。」
メドラウドは小さくうずくまる。
「そうか…また会おう!次はちゃんと相手になるからな!」
俺は別れを惜しむまもなく急いで自軍に向かった。
「モルドレッド…達者でな…。」
アーサーも寂しそうな顔をしながら去っていった。
「神威…母上を頼んだぞ…。ランス居るんだろ?」
メドラウドがゆっくりと立ち上がり声をかけると上空からランスが降りてきた。
「ボス気がついてたのかよ!」
「力を貸してくれるか?」
メドラウドはランスを真っ直ぐ見つめた。
「俺はアンタには恩があるんだ。返し切れない恩が。最後までアンタについて行くさ。」
ランスはニカッと笑うとつられてメドラウドも口元をほころばせる。
「先ずは、アノニマスを潰す。その後は、アシエルを食い止める!神威はきっとアシエルに邪魔をされるだろう。俺達で時間を稼ぐぞ!」
ランスは頷くとメドラウドの肩を叩いた。
「んな顔すんなよボス!」
メドラウドは俯いていた。
「また奴らには会えるさ!な?」
ーーーーー
「みんな!」
神威達か自軍に駆けつけると至る所で無惨な姿の姫達が倒れていた。
アーサーは真っ直ぐ奥の部屋を見据えていた。
「神威様…もはやここは戦場です。感傷に浸ってる余裕はありません。さっきまでの私が言えた事ではありませんが…。」
俺は目を背けながら奥の部屋を見た。
「隊長室か…行くぞ!」
俺は駆け抜けた。
見るかげもない姫達の姿を後目に。
隊長室のドアを開くとソファーにはジャンヌとルシファーが座っていた。
何事も無かったかのように。
「ジャンヌ…!ルシファー!!」
俺が声を荒らげると不思議そうな顔をしてルシファーが見てきた。
「どうしました神威様?なにかありましたか?」
俺はルシファーの言葉に不安感を覚え部屋の外を見渡した。
いつもと変わらぬ風景。
さっきまでの残酷な世界が夢のように。
「ルシファー…何をしたんだ…?」
俺はルシファーを睨みつけた。
「なんの事でしょうか?私はジャンヌと自軍の今後について打ち合わせをしていたのですが?」
俺はジャンヌを見つめた。
「ジャンヌ…?」
ジャンヌは机の上を見つめたまま返事がない。
「神威様!しっかりしてください!!」
突如アーサーに声をかけられハッとする。
「これは幻覚です!"エンペラー アイ"!」
アーサーの両目が光り、部屋にかけられた幻覚をかき消した。
何事も無かった風景から現実に引き戻される。
ソファーに座るジャンヌは傷だらけで、既に息絶えていた。
「ルシファー…君は…お前は何がしたいんだ!!ルシファー!…いや…クリスさん!!」
俺は剣を引き抜きルシファーに向けた。
「…ふふふ…やっと気づいたんだね神威くん。君がルシフェルに会っていたのは知っているよ。だから、君の記憶が戻るのも時間の問題だった。だから、少し強引だったけど、邪魔な姫達を処分させて貰ったよ。」
ルシファーはゆっくりと立ち上がり口元を歪めた。
「なんで…こんな事を…。」
「なんで?簡単だよ。私は外界を壊したいんだよ。今いるこの世界。そして本当の私達がいる世界。全ては外界なんだ。本界の人々により綴られた世界。そんな世界で生きて何になる?造られた世界で生きていると言えるのか?アヴァロンによって無駄な世界が増えていく。私はそれが許せない!」
ルシファーの姿がボヤけクリスの姿に変わっていく。
「今までルシファーに成り代わって俺を監視してたんですか?」
「そうだよ。君がアヴァロンに接触しないようにね。アヴァロンは自我を持った…私から逃げ出したよ。だから君の傍にいれば、アヴァロンが接触してくるんじゃないかと思ってさ。でもまさかだったよ…こんな簡単にバレるなんて。」
クリスはアーサーを睨みつけた。
「最後の姫はやはり君が残ったねアーサー。」
俺はクリスの視線を遮るようにアーサーとクリスの間に手を出した。
「クリスさん…俺は外界を壊させないよ…。俺が本界の人間じゃなくてもいい。外界に生きる人間ならば、外界を護る。」
「やはり神威くんはそう言うと思ったよ…。
だからアヴァロンは君を選んだんだ。私の考えに気づいて逃げ出したアヴァロン。」
クリスはゆっくりと腰にさげた刀を引き抜いた。
「この刀は少し反則的な物なんだよ。トリガーの世界で噂になっていた無属性の最強武器。実在していたのさ!データとしてはね。神剣"天羽々斬"。」
妖しく光る刀身に俺は息を呑んだ。
「さあ神威くん。アヴァロンを渡してもらおう!」
クリスが放つ斬撃を紙一重でかわすと、後ろのドアが切り裂かれ崩れ落ちた。
「アヴァロンの居場所は俺も知らない!だけど…クリスさん!アンタには渡せない!アーサー!バアル達と合流してアヴァロンを探せ!もう時間が無いんだ!」
俺が斬り掛かるも簡単に受け止められてしまう。
「神威くん…トリガーの世界でも私には勝てなかったのにこの世界なら勝てると思ったの?残念だね!」
クリスの刀が振り下ろされる。
何とか受け止めるが一撃の重さに手が痺れる。
「くぅ!一撃が重い!アーサー!早く行け!俺がクリスさんを引き留めてる内に!!」
アーサーは躊躇いながらも力強く頷き部屋を後にした。
「優しいね神威くん。本当は気づいているんでしょ?アーサーこそがアヴァロンだって。本当のアーサーはもう居ないんだって。トラウマの塔で消滅したんだって。」
クリスは口元を歪めた。
「君を殺せば、もう世界は私の物だよ!!アヴァロンの頭を少し弄ってやれば、昔みたいに…私の言う事を聞いてくれる…。私には父のような才能は無かった…父の跡を継ぎ病院も継いだ…でも、私には回せなかった。でも…でもアヴァロンが助けてくれた!トリガーで再びアヴァロンが君に会うまでは…。君の存在が邪魔なんだ!私はアヴァロンを手に入れて世界を作り直す!私の思うままの世界に!!」
クリスの刀が肩口に刺さる。
「アヴァロンは…アンタには渡せない…!たとえ外界だとしても…そこに生きる人々がいる!綴られた世界だとしても、生きるのは皆の意思だ!」
俺はクリスを蹴飛ばし、突き飛ばす。
肩口の傷に痛みが走る。
(不可侵領域を超えるダメージか…。)
治癒魔法をかけ傷を治すと、クリスに向かって走り出した。
"トリガー オブ アヴァロン"~ガチャを引いてスキルを得たらチートレベルのキャラになって異世界召喚されたと思ったけど何かが違う!?~ 狐塚 間介(キツネヅカ マスケ @tokoyami_kitune
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