【不安要素】
俺達は晴れてAランクになったが、ギルドでは他の傭兵や冒険者達には相変わらず白い目で見られている。
「御主人様、今日はどんな依頼を受けるのですか?」
それもこのニアが目立つからだ。
ニアはギルドのAランクでも有名人らしい。
Aランクでありながら試験官と云う立場に着き、解放した力はSランクにも匹敵する。
そんな彼女が俺を御主人様と呼ぶ。
公衆の面前で。
(逆にどんな羞恥プレイだよ!?)
「今日は二手に分かれて依頼をこなそうと思う。俺はアーサーと、ニアは半蔵とフォカロルの3人だ。俺とニアはAランクだから依頼を受けることができるし、今は依頼の数をこなして評価を上げたい。」
ニアは頬を膨らませているだろう。
仮面で顔は見えないが何となく分かってきた。
半蔵は俺の命令ならと首を縦に振ったがフォカロルは不服そうだ。
「なんで僕がコイツと依頼をこなさないといけないんですか?僕と半蔵で十分ですよ!」
フォカロルはニアを敵視している様だ。
フォカロルとニアが睨み合う。
「ニアは仮にもAランクだからな。Aランクの依頼を受けるのにランクを所持している者が受注する必要がある。確かにフォカロルと半蔵の実力なら依頼のモンスター討伐は問題ないだろうがギルドからの依頼をこなす以上、ギルドの取り決めに従う必要がある。すまないな、少し我慢してくれ。」
俺はフォカロルの頭を撫でるて、フォカロルは頬を膨らませながら俺の頼みならと納得してくれた様だ。
「さて、では行こうか。何かあればタリスマンで連絡してくれ。」
俺とアーサーはニアと別れ以前ナポリと行った青の洞窟に向かった。
今回、俺達の依頼は魔導石の入手。
以前のナポリの報告で青の洞窟に出現するクリスタルガードから魔導石がドロップすると話を聞いた魔道具屋からの依頼だ。
本来であればSランク以上の依頼になるが、俺達は討伐経験がある為、異例ではあるがAランクでもクリスタルガード討伐を許可されている。
(なんだか今日のアーサーは元気がないな…調子が悪いのか?)
「アーサーどうした?体調でも悪いのか?」
俺はアーサーの顔を覗き込む。
「なんでもありません。」
アーサーは目を伏せ顔を逸らす。
(え?何?何?俺何かしたっけ?アーサーに嫌われた!?
ちょ………あー…もうダメだ…死にたい…。アーサーに嫌われるとかサービス終了でアーサーに会えなくなるって思った時並に辛い…。)
俺達は青の洞窟へ向かう事にした。
アーサーは俺の後ろを俯きながら歩いていた。
青の洞窟に着き、前回の横穴まで進んだ。
「この奥に今回の討伐目標のクリスタルガードが居るはずだ…。行こう…。」
(どうしてもやる気が出ないな。)
暗闇を手探りで進んでいく。
以前の戦闘跡まできたがクリスタルガードの姿は見えない。
「ここには居ないようですね。奥へ行きますか?」
アーサーは辺りを見渡し更に奥へ続く道を見つけた。
「そうだな…なぁアーサー…。」
俺が声を掛けると、アーサーは振り返る。
「…俺に愛想つかしたのか?確かに俺なんか隊長として頼りないかもしれないが…。」
俺はアーサーの顔を直視出来ずにいた。
アーサーは不思議そうな顔をしてキョトンとしている。
「私が?隊長を?有り得ません!ただ私は…隊長の周りに女性が増えていくので、私が必要なくなるのではと不安で…。それに、ルシファーにはお名前で呼ばれていると聞いたので…。」
アーサーは目を伏せ顔を赤らめながら逸らした。
(嫌われてなかったぁぁぁ!!)
「ニアか。あくまでニアはこの世界での動きに利用価値があると判断しただけだ。俺がアーサーを離すと思うのか?ルシファーの件は俺自身の姫達への配慮不足だったな。アーサー、良ければアーサーも名前で呼んでくれないか?隊長ではなく、神威と。」
俺はアーサーのそばに寄り、肩に手を置きアーサーを見つめた。
「いいのですか?私が隊長をお名前で呼んでも…。」
アーサーも上目遣いで俺の目を見つめ返す。
「あぁ、アーサーには名前で呼んで欲しい。隊長としてでは無く、一人の男として。」
(うわっ!はずっ!?呼ばれる度に悶絶しそうだけどな!)
「か…むい様…。」
アーサーは頬を赤らめて見つめてきた。
(やばい!やばい!やばいっ!!何?この破壊力!!可愛いにも程があるよ!!)
「ありがとう、アーサー。」
俺は膝から崩れ落ち五体投地したいのを堪えながらアーサーに悟られないように微笑んだ。
(よし!よく耐えた!俺!!)
しばらくアーサーと見つめ合い無意識に抱きしめようとした俺は、我に返り咳払いをした。
「さ…さて!もう少し奥まで進んでみるか!」
俺は大袈裟に奥の道を指さすと歩き出した。
アーサーはクスクスと笑うと俺の後を追ってきた。
「待ってくださいよ!…神威様!」
ーーーーー
ニア達はギザの森に向かっていた。
「今回私達がこなす依頼は本来生息していない筈のミノタウロスがギザの森に現れた為、早急に討伐して欲しいと近隣の村から依頼があった。その村には自衛団はないが、駐屯するフリーの傭兵が居るそうだ。傭兵は村の警備に当たるため討伐には出られない。その為、ギルドに依頼をしてきた様だ。」
ニアは歩きながら依頼の内容を説明していた。
「ねぇ、半蔵。その村ってトリスタンとベディヴィアがいる村だよね?」
フォカロルと半蔵は小声で話している。
「あの2人なら余裕でたおせるでしょ?」
半蔵はため息をつきフォカロルに耳打ちした。
「今はインビジブルの評価を上げるために拙者達が依頼をこなし、隊長殿の評価を高める必要がある。だから、トリスタン達には手を出さず村人を説得してギルドに依頼させるように隊長殿が指示してたでしょ。」
フォカロルは初めて聞いたかの様になるほどと頷いていた。
ニアは振り向き、不思議そうな顔をしてどうした?と聞くがフォカロル達は何でもないと答えた。
次第に目の前に森が広がっていく。
「ここがギザの森だ。谷の近くと言う事もあり、地盤が弱く所々崩れている場所もあるようだ。戦闘の際は足場に注意しろ。」
ニア達は武器を構え、辺りを警戒しながら森に入って行った。
森を進むと切り倒された木が道を作っていた。
「これを辿っていけば討伐対象に会えそうだ。」
ニアは先を見つめた。
ニアが先に進もうとすると半蔵が制止する。
「待って…気配の残留がおかしい。ミノタウロス以外にも複数の気配が残っている。」
半蔵は倒れた木に手を当て残留した気配を探る。
「馬鹿な!ミノタウロスは群れを作らぬ。ならば他のモンスターと争っているのか?」
ニアは顎に手を当て考えていた。
「群れは作らないにしても、複数のモンスターがいる事は確かなんでしょ?まぁどっちにしろ見つけないと始まらないよ?」
フォカロルは奥を指さすと先に歩き出した。
「確かに対象を補足しなければ確かめようもない。速やかに対象を追跡し、発見したら様子を探るぞ!」
ニア達は倒れた木を頼りに足早に先へ進んだ。
しばらく森を進むと半蔵が皆を制止した。
「近いな…。」
半蔵は地面に耳を当て音を探った。
「この先に複数の足音がする。一体は大型、ミノタウロスで間違いない。小型は…1、2、3…3体の四足歩行のモンスターだ。」
「ここからは慎重に近づこう。四足歩行のモンスターと言う事は鼻が効くはず。風上には立たず気付かれない距離を確保するぞ。」
ニアは木の上に飛び乗り、先を見つめ進めの合図を出した。
ニアが先導し木の上から様子を見ていた。
「ミノタウロスがカースウルフを率いているだと?」
視線の先には何かを探しているようなミノタウロス達がいた。
「何か探しているのか?…あれは?」
ニアはミノタウロスの先に女性がいる事に気付いた。
(あのままだとモンスターに襲われる…!)
「半蔵、フォカロル!私はあの女性を保護する!2人はモンスターの注意を引き付けてくれ!」
ニアは木の上を渡り女性まで近づいた。
「やれやれ。じゃぁ僕がミノタウロスに攻撃するから、半蔵はカースウルフね!」
フォカロルは魔法の詠唱を始めた。
半蔵はカースウルフにクナイを投げた。
「"爆"」
カースウルフに刺さったクナイが爆発する。
一体のカースウルフは焼け焦げその場に倒れた。
ミノタウロスとカースウルフは半蔵に気づき向かってきた。
「フォカロル。」
半蔵はフォカロルの影に溶け込んだ。
「はいね!"ウィンド サイクロン"」
ミノタウロスとカースウルフ達の周りに竜巻が巻き起こる。
カースウルフ達のは竜巻にのまれ舞い上がり切り刻まれていく。
ミノタウロスは重心を低くし風に耐えていた。
「次っ!"ウィンド カッター"」
フォカロルが杖を掲げると風の刃がミノタウロスに突き刺さる。
ミノタウロスが雄叫びを上げると、ミノタウロスの角に雷が迸る。
ミノタウロスは雄叫びを上げながら地面に角を突き刺すと雷が地面を伝い半蔵達に襲いかかる。
半蔵はフォカロルの影から飛び出すとフォカロルを抱え、空高くジャンプした。
「やはり面倒ね。ニアの目がある以上この世界に合わせて行動しないといけないなんて…。」
「僕もう飽きちゃったよ。隊長様がこの世界を征服しちゃってくれれば、好きに動けるのに!」
フォカロルは半蔵の腕に掴まれながら頬を膨らませている。
雷が収まったのを確認し地上に降りた。
一方ニアは。
「おい!怪我は無いか?今モンスターがコチラに向かっている。仲間が引き付けてくれている間に避難するぞ!」
ニアは女性駆け寄った。
「モンスター?仲間…?」
女性は呆然とし虚ろな目をしている。
(何処と無く誰かに似ている気がするが。)
ニアは女性に近ずいた。
「取り敢えずこの場を離れよう。」
ニアは女性の手をとり駆け出した。
「あっ…。」
女性はニアに引っ張られながら走り出した。
ニアと女性は谷近くの森の外れまで来ていた。
「はぁ…はぁ…取り敢えずここまで来れば大丈夫だろう。貴女はあそこで何を?」
ニアは息を切らせながら女性と木の影に座り込む。
「私は…あそこで何を?…あれ?」
女性は困惑している。
「どうした?大丈夫か?私はニア、ラクシス帝国ギルド本部所属のAランク冒険者だ。依頼で森に入り込んだモンスターを退治にきたんだ。貴女は?」
ニアは女性を見つめた。
「私は…あれ?名前…思い出せない。
なんであそこにいたのか…私は何者なの…?」
女性は頭を抱えうろたえた。
「記憶喪失!?森で何かあったのだろうか…?ひとまず、モンスターを退治してギルドに戻り保護して貰うのが良さそうだ。」
ニアは女性にここで待っているよう伝え、半蔵達の元へ急いだ。
ーーーーー
「丁度よくニアが居なくなったね!じゃぁ片付けよう!」
フォカロルは万遍の笑みを浮かべ地面に手を当てた。
「フォカロル!拙者まで巻き込む気か!」
半蔵は慌ててフォカロルの影に隠れた。
「にしし!いいかな?いくよ!」
フォカロルが手を着いた場所から水が溢れ出す。
「"海魔の断葬"」
溢れ出した水は大きな波になり、ミノタウロスを飲み込んでいく。
ミノタウロスは波の渦の中でもがいていた。
渦が段々と早くなりミノタウロスの五体を引きちぎる。
引きちぎられた部分から血が溢れ出し、水を赤く染めていく。
次第に、ミノタウロスは動かなくなり水に沈んだ。
「はい、終わり!半蔵、もう出てきていいよ!」
フォカロルが地面から手を離すと大量の赤い水は消え、ミノタウロスの角が転がった。
半蔵が影から飛び出すと、反対からニアが駆けてきた。
「おーい!ミノタウロスは!?」
ニアは剣を構え辺りを見回すと、自分の足元に転がる角を見て驚いていた。
「倒したのか!?御主人様といいお前達といい…インビジブルは強者が揃っているのだな…。」
フォカロルはにししと笑うと腰に手を当て胸を張った。
「そうだ!先程保護した女性はどうやら記憶喪失らしい。ギルドに保護して貰うために待たせてある。迎えに行こう。」
ニアは半蔵達と合流して女性の元へ向かった。
しかし女性の姿は見えない。
「何処に行ったんだ?」
ニアは辺りを見回すが姿は見えない。
「記憶が戻って帰ったのでは?」
半蔵は女性がいたらしき場所に目をやる。
(この気配は…でも何かが違う…。)
半蔵は眉間にシワを寄せながら眺めていた。
「そう…かもな。では私達も戻るとしよう。討伐対象のミノタウロスの角も拾った事だ。御主人様達も戻って来ているかもしれないからな。」
ニア達はギザの森を戻り、都市レインに戻って行った。
その後ろでは黒い人影が揺らめいていた。
(邪魔な奴らだ。あと少して奴を捕まえられたのに…。)
ーーーーー
俺とアーサーは飛び出してくるモンスター達を斬り捨てながら進んでいた。
「今の所クリスタルガードは居ないな…。前回倒したので全部だったのか?でもクリスタルガードは魔石のある魔素の濃い場所なら自然発生するはずだ。この辺りなら居てもおかしくは無いんだが…。」
俺が斬り捨てたモンスターを蹴飛ばし足場を確保しているとアーサーは何かを見つけた。
「神威様、居ましたクリスタルガードです。」
アーサーはクリスタルガードを見つけ指さした。
「前回は神威様が倒したので、今回は私が倒しますね!」
アーサーはにこやかに振り向き俺を見る。
俺が頷くと前に向き直りエクスカリバーを引き抜いた。
「たまには神威様にいい所を見せないと!」
アーサーはいたずらっぽく笑うとクリスタルガードに向かって行った。
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