お菓子との出会い(2)

 エミリーは、前王からこの建物の話は聞いていた。しかし、今になって何故、秘密の抜け道を教えたのか。エミリーはそんなことを考える余裕がない。

「お祖父ちゃん。プレゼントって何なの?」

「ちょっと待っていなさい」


 前王は石窯のそばにある、テーブルの所へ行き。テーブルの上に置いてあった皿を持ってきた。皿の上には、見たこともない物が置いてあり。

「これ、食べてみなさい」

「……これって、食べ物なの!? 初めて見る食べ物だけど、甘い匂いがする。何だろう、ワクワクする」

 エミリーは1口食べてみて、驚いた。今まで食べたことがない味。

「美味しい! サクサクしてる。こんなの初めて……甘くて、美味しい……。お祖父ちゃん。これって、何て言う食べ物なの?」

「これは、クッキーって言って、焼き菓子なんだけど、デザートは知ってるよな!?」

「食後に食べる、果物のことでしょう!?」

「そのことなんだが、他にもあるんだよ、食後に食べる食べ物が」

「どういうこと?」

「お菓子だ」

「お菓子!?」

「そのことは後で教えるから、他のクッキーも食べてみなさい」


 同じ種類のクッキーだが、形が違い、〇、△、□、☆の形をしていた。

「……あれ? このクッキーとこっちのクッキーは、微妙に味が違う……。そっか、分かった。甘さが違うんだ」

「流石、私の孫だな。小さい時から、微妙な味の差を言い当ててきたことだけはあるな」

「お祖父ちゃん、これって、どうやって作るの?」

「作ってみたいか?」

「作りたいけど……私に作れるかな?」

「何故そう思う、作ってもいないのに」

「だって、魔法を使ったんでしょう?」

「魔法!? 魔法ねー、確かにこの世界には、魔法使いはいるが、残念ながらお祖父ちゃんは魔法使いではない」

「だったらどうして、こんなに美味しいクッキーが作れるの? 魔法でもかけないと作れないよ」

「そっか、そんなに美味しかったか」

「今まで食べた中で、一番美味しかった」

「エミリー、これは魔法じゃないんだよ。これも料理の一種なんだよ」

「えっ!? そうなの?」

「そうだ、お祖父ちゃんとお菓子を一緒に作ってみないか?」

「……私にできるかな?」

「できるさ。なってたてエミリーには、天性の舌を持っているからな。微妙な味も見分けられる能力がある。そして、一番重要な味を記憶する能力を持っていること。おもけに、記憶力もずば抜けている。お祖父ちゃんは最近、物忘れが多くて困っているが、そうだ、 私の宝物を見せてあげよう」


 前王は、この料理研究室の東側の中央に位置する、引き戸の前に行き。ズボンのポケットの中から鍵を取り出し、引き戸の鍵を開け、部屋の中に入り。しばらくして、部屋から出て来ると。手には本を持ち、エミリーの所に行き。

「これは、お菓子レシピ100選といって、私が書いた本だが、読んで見なさい」


 エミリーは、前王から手渡された本を見て驚いた。その本の表紙には、まるで本物の絵のような、いろんなお菓子の写真が載り。タイトルには『お菓子レシピ100選』と書かれ。本を開くと、目次には。ケーキ、シュー菓子、デザート菓子、冷たいお菓子、クッキー、タルト、パイ、ワッフル、チョコレート、これらをメインにして更に細かく分類され。それぞれのお菓子の作り方が書かれ。そこには、お菓子の写真とその作る工程の写真が載っていた。


 エミリーはレシピ本を読み始めてから、15分くらい経ち。お菓子は料理の一種だが、料理自体を考えると魔法のようなもの、そんな感じを受けていた。

「お祖父ちゃん、この本に書いていることが、お菓子ってことなんだよね?」

「その通り。あと料理の作り方を説明しているのが、レシピと呼んでいる。覚えておきなさい」

「はい……。ところでお祖父ちゃん。何で、100番目のページは真っ白なの? あっ、そうか。もしかして、あと1ページっていうのが関係しているの?」


 このレシピ本の最後のページをめくると、100番目のレシピページには、何も書いていなかった。


「実は、100番目のレシピがどうしてもわからない」

「わからないって、どういうこと?」

「……エミリーなら、100番目のレシピを見つけることができるかもしれない」

「私が!?」

「エミリー、お菓子の基本材料は、何だと思う?」

「材料!? そっか、小麦粉でしょう、次に砂糖、卵、バターかな」

「正解。流石、記憶力がいいな、もしかして全レシピを記憶したな?」

「一応ね。でも、覚えるのは得意だけど、覚えるだけじゃ、作ってみないと」

「そうだな。何か、作ってみるか?」

「いいの? 私、クッキーが作りたい」

「クッキーか、材料もあるから作ってみなさい」

「はい! 頑張ります」

「その前に、その頭を何とかしないと」

「頭!?」

 頭を触っているエミリー。

「髪の毛のことだよ」

「髪の毛!?」

「ちょっと待ってなさい」

 前王は、鍵のかかった部屋に行き、しばらくして出てきた。


 エミリーの髪は、肩より10センチほど長く。前王は、髪の毛を後ろに束ねてから料理はしなさいと言い。

 この城の決まりで、女性は皆、髪の毛は長い。髪の毛を後ろに束ねるといったことはしない。というよりその光景を見たことがない。


 前王の話しでは、料理をする時は衛生面に気をつけないといけない。その髪の毛の長さでは、食べ物の中に髪の毛が入る可能性がある。

 そこで、前王は手に持っていたシュシュをエミリーに渡し。髪の毛を後ろに束ね、それをシュシュでとめると説明し。鍵のかかった引き戸の近くの壁にかけられた鏡を見ながら髪の毛を束ねてみた。手先が器用なエミリーは簡単にポニーテールができ。

「お祖父ちゃん。これでいいの?」

「いいんじゃないか!? 似合ってるよ」

「本当に!? 似合ってる!? なんかこれって可愛いいね。私、気にいっちゃった」

 エミリーは鏡を見ながら嬉しそう。

 その様子を見ていた前王は。

「エミリー、ちょっといいか? エミリーは頭がいいから先に話して置くが、料理で一番大事なことは、工夫。料理は工夫次第でなんとでもなる。しかし、まずは基本をしっかり覚えること。あと、お菓子職人のことをパティシエと言うが、もしかしたらエミリーは、パティシエの素質があるかもしれない。おじちゃんの勘だけど」

「私はずっとお父様から言われてきた。王女として、生きていかないといけないって、他の人とは違うって言われたけど。お祖父ちゃんからいろんな話を聞いて、私に何ができるのかわからないけど、それを探してみたいって思うの……」

「わかっている。話はそれくらいにして、クッキーの基本を教えるからよく見ていなさい」


 クッキー生地には、大きく分けて3種類。型抜き用、絞り出し用、アイスボックス用があり。前王は3種類の生地を作ってみせ。

 次は、生地を鉄板の上にのせる。この時、型抜き用の生地は、型抜き用の型で型をとり。絞り出し用の生地は、絞り袋に入れ、鉄板の上に絞り。アイスボックス用の生地は、冷凍庫に冷やし固めてカットし。それぞれを鉄板の上にのせて石釜で焼く。


「エミリー、この本のレシピを記憶しているのなら、クッキーを作るポイントは何だと思う?」

「ポイント!?」

「要点、重要という意味だ」

「火加減のことでしょう!?」

「何故、そう思う?」

「同じ材料、同じ分量であれば、火加減さえ間違わなければ、何度でも美味しいクッキーが作れるでしょう!? あと、焼き時間もね」

「正解、その通り」

「火加減って難しそう、だって測れないでしょう?」

「石釜を良く見てみなさい」

「……あっ! これ何?」

「気がついたか、それは温度計だ」

「温度計!?」

「これで、窯の中の温度を測ることができる。それに合わして火加減を調整し、時間を測る……。石窯には石窯の魅力があるが、あの山小屋に行けば業務用オーブンがあるんだが、今は連れてはいけし。それに、エミリーに会わせたい女の子がいるんだが……」

「会わせたい女の子!?」

「今は詳しい話はできないが、名前はメアリーって言って、エミリーと同い年で、ここにある調理道具や温度計、キッチンタイマー。全てメアリーが用意してくれた物なんだ。このことは秘密だからな」

「何で秘密なの?」

「話せる時がきたら、教えてやるから」

「わかった」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る