今を映して

桜川 ゆうか

切れた回線

 携帯を手に取った私は、路線を検索しようとして、異常に気づいた。

「あれ?」

 回線が通じていないようだ。どうしてだろう。契約が切れたわけではないはずだ。何か問題でも起きているのだろうか。ただ、ネットが繋がっていない状態では、調べようもない。

 電車はそのまま銀座方面へ向かっていく。途中の駅で乗り換えるか迷っていたが、この状態では、新たな道は検索できない。前と同じルートで行くしかないと、私は諦めて検索を閉じた。

 地下鉄は比較的、空いている。平日の夕方ということもあって、普通ならもう少し混んでいてもいいと思うのだが、新型コロナウィルスの拡大に対する懸念もあってか、人々はあまり多く外出していないようだ。

 SNSを開く。普段どおりに開けたので、メッセージを送ろうと試みるが、どうもネットが繋がっていないのは事実らしく、送信がエラーになってしまう。

 寂しい。

 閑散とした町に、繋がらないインターネット。なんだか一人になってしまったようで、急に不安になる。

 電車を降りてすぐ、私は母に電話をかけた。今ごろ、夕食の準備でもしているところかもしれないが、こちらは、それどころではない。一度、行ったことがある場所とはいえ、道に迷わず辿り着ける保証はなかった。

 電話は、すぐに切れてしまった。ネットと別回線になっているはずだが、こちらも回線状態が悪いのだろうか。いや、銀座近辺は普段でも良くない。

 私は一旦、地下から外へ出て、もう一度かけ直した。今度は繋がる。母に道を訊きながら、私はネットも繋がるのでは、と少しだけ期待し始めた。

 ただ、電話を切って地図を確認すると、やはり回線が繋がっていないのは、明らかだった。とりあえず言われた道を歩き、目的地までどうにか到達する。

 仲間たちは集まっていた。といっても、さほど親しいメンバーがいるわけでもない。英会話の実践をしようという試みのグループで、私にとっては、まだ初めてか2回目の人が多い集団だ。それでも、人がいないよりはマシだった。

 まだ携帯の回線に不安があったので、通信障害の情報を訊きたかったが、指定されたテーブルのメンバーは、コロナウィルスの話に夢中のようだった。

 この状況では、それも仕方のない話だ。

 ネットの回線については、ほとんど話す機会はなかった。席替えが2回あって、グループが解散するころになって、ようやく話した。

 どうやら通信障害は発生していたらしい。ただ、もう収まったという話だった。私は少し安心して、飲み会には参加せず、帰宅することにした。

 

 帰宅時に、もう一度、地図を確認しようと試みる。だが、やはりネットは繋がっていない。

「え?」

 困って周囲のメンバーに確認し、方向を教えてもらう。それ以上は、どうしようもなかった。

 家に帰れば、一応、ネットは繋がるはずだ。そうは思うものの、どこか寂しいという気持ちが消えない。携帯の回線表示は、一見、何の問題もなさそうに見えるのに、実際にはネットが繋がらない。なんだか不気味だ。

 不安になって、サポートに電話をかけてみる。

「確かに、繋がっていないようですね」

「ええと……」

「そうしたら、一回機内モードにしていただいて……」

「あ、ごめんなさい。今、通話しているこの携帯なんですけど。通話回線は別の会社なので、電話はできるんですが」

「どちらの機種をお使いですか?」

 そして、私の機種が、simカード2枚を挿入できるタイプの機種とわかると、一旦、電話を切って、機内モードにしてみたり、再起動してみたりを試すということになった。

 どうして、そんな簡単な操作をやってみようと思わなかったのだろう。ネットの繋ぎ直しは試みたが、機内モードまで試さなかった。機内モードに切り替えて、戻してみる。それだけの作業で、回線はすぐに回復した。溜息が漏れる。そのくらい、思いつけたはずなのに。

 ここのところ、少し気分が落ち込みがちだったので、おそらく、それが原因だろう。少し気持ちを楽にしないと。

 それにしても、今の時代にネットが使えなくなったら、自分がどれだけ孤立するかと考えると、恐ろしい。まるで、自分だけ世界から切り離されてしまうような気分だった。

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