第3話

黒ねことお姫さま

池上加津


時は室町時代、鎌倉幕府が敗れ足利尊氏、[あしかがたかうじ]から足利義詮[よしあきら]と第が変わっていった。そのころ皇統の分裂がおき、持明院統【じみょういん】北朝、大覚寺統【だいがくじ】南朝と分裂し幕府が介入してゆく、義詮が亡くなり幼い義満十一歳三代将軍就任、管領に細川頼之【ほそかわよりゆき】が実質的に統治、済分をだす足利義満花の御所【花営】に移るのである。

康暦の政変で管領細川頼之を罷免し将軍独裁が始まる。

そのころ御所では後伏見天皇が帝となるが後伏見天皇が即位したことが新たな火種となるのである。

益々北朝と南朝が対立は激化してゆき、持明院、大覚寺両統のそれぞれの特使が派遣されるが、そこで幕府は両統の皇太子を交互に立てるという方針をだすのであった。

世の中が乱れる中、後伏見天皇の側室伊予の局【いよのつぼね】が御懐妊、後伏見天皇にとっては初めての子供であった。

「伊予よ、このような時節に自分の子供ができる事は喜ばしい事だが、産まれてくる子供は、皇太子にもなれぬ。それより無事に産まれても、このわたしは守ってやることもできぬ!無事に大きくなるまで、そなたが守って育ててくれぬか、わたしの子供である事が世に知れぬように、男の子であったなら、五歳になったら寺に預けるように、それが産まれてくる子供が生きてゆく道、たのむぞ、」

天皇である後伏見天皇が伊予の局の手を握りしかっと伊予の局の目を見る。伊予の局の目から泪がこぼれる。「帝……」 「ゆるせよ、そなたの御身もいつくしめよ」 その日のうちに乳母一人をつれ嵯峨野に移り住む伊予の局であった。古い屋敷廻りは竹薮と林が小山になっている中の屋敷、静かな嵯峨野の地であった。「おかわいそうなお局様、世が世であったら、御所で大勢な共の者にかしずかれているのに、うっう…」と泪する尾根の乳母であった。

「泣かないで、帝も考えに考えた末のことお腹の子供が無事に産まれる事を願ってのことでしようし、躰を動かすほうがお産が軽くなると聞いています。庭にでて草でも引きましようか、」まだお腹が目立たないので庭に降りる伊予の局であった。その時である。小さな鳴き声がする 「ミヤー」 「まあー、かわいいこねこちゃん」 「本当に、目が開いたばかりかと、」 そうです。妖怪になった黒ねことお姫さま 「いまはどこ?ここはどこ?くろちゃんいつの時代ですか?、」 「しらないよ、のんきなお姫さまだ。そうだ!カラスの勘三郎に聞きましょう、それよりこのまま闇の中では、だれかに取り憑てやりましょう、」「そうですね、好きにして下さいね、暗いなかでは、くろちゃんは見えません。早く見つけて下さい。」 「のんきな人だ。あ!ちょうどいい少し小さいねこだがあれにしょう、」 ねことお姫さまは産まれたての小さな猫の中に入ってゅく。「あれー、」と悲鳴をあげる姫君、 「なにがアレーじや、少し慣れて下さいよ、」なにもわからない子猫突然にわけもわからない物が躰の中に入ってこられ、目を白黒させるのであった。「お前ら、何者!なんだなんだよ、」 「早く外に出ろ!わたしはお腹が空いている!お母ちゃんや兄弟はわたしを置いてどっかに行ってしまった。早く探さなくては。」 「子猫よ、わしの言うことを聞けば、飯も食えるし、暖かい所にも住めるぞー、」 「本当に?」 「まずわここから出て、人のおる所に行かねば、」 ヨチヨチと縁の下から出る 「まあー、子猫がお局様子猫です。」 「本当に子猫が可愛い。こんな寂しい侘び住まいに、子猫でもいたら楽しいでしょうね。」伊予の局が子猫を抱いて部屋に戻る。 「おい!子猫、大人しくしているんだ。いいか、好かれなかったらエサも水も貰う事も暖かい所にもいられないぞ、今は我慢我慢ゴロゴロと喉をならすのだ。」子猫は言われたとぅりに膝の上で大人しく小さく喉をゴロゴロとならす。 「まー、珍しい猫だこと、」 「お局様を気に入ったのでしょうね、子猫の名前を決めなくては、」 「そうですね、よく懐いてくれるので、「なつ」と名付けましよう。」 「「なつ」いい名前ですね、」 その夜、「なつ」と名付けてもらった子猫は、お局様の古着で首輪を付けてもらうのである。 「おい子猫、お前の名前は「なつ」だぞ、」 「??、なつ?」 「そうだ「なつ」だ。「なつ」と呼ばれたら行くんだよ、」 「なんだかこわいよー、」 「そぅよね、こわいよね、くろちゃんは言うだけだからいいけど」 のんびりとお姫さまが言葉を入れる。 「いいんだ!こわくても我慢我慢、すぐに慣れる。あの人たち優しそうだから、」 「うん、頑張る!」 それから伊予の局の産み月を迎え、可愛い男の子を出産をしたのである。千菊丸と名付けられる。元気に育ち、子猫のなつとよく遊ぶのであった。夏の暑い日昼寝をしている千菊丸を狙って大きな大蛇がはいよってくるのであった!誰もおらず、その時大きくなつたなつ側気がつき大蛇に向かってゆく千菊丸を守るように、毛を逆立て爪を伸ばし蛇に向かってゆくが、はるの何倍も大きな蛇、蛇のウロコが硬くはるの爪も歯もたたず、はるの躰に巻きつく蛇!その時である、躰の中にいるくろとお姫さまが、黒い煙となって蛇に向かってゆくのである。それにはたまらぬ蛇が外に出てゆく。蛇が出てゆく姿を見た尾根の乳母が悲鳴をあげる。「キヤー、お局様ー、」激しい悲鳴に伊予の局や下女が走ってくるのであった。「どうしたのです!」「ヘビが!ヘビが部屋の中から」座敷の中には千菊丸がすやすやと寝息をたてて休んでいるのを見た時、胸をなぜおろす。「ここは昔から大きなヘビがでる。村の守り神としているのです

、」 その時、部屋の奥で猫のなつが倒れていた。 「なつ!なつが千菊丸さまを守ってくれたのですか?なつ!、」 目を開けるまわりを見るなつ、だがヘビにきつく巻つかれた躰は起き上がることができず、手足を少し動かすだけであった。 「お局様なつが、なつが千菊丸さまを守って怪我をしたようです、」 くろとお姫さまがなつの躰の中で 「おい大丈夫か!今わしらが直してやるから、」 だがけっこう深い傷でなつの下半身は少ししか、動かず後ろ足が不自由になり、少しひこずって歩く そのおかげか、千菊丸は五歳になるまで怪我一つなく元気に過ごしてきた、別れの日が近づいてきた、伊予の局が千菊丸を膝に乗せ 「いいですか、千菊丸!立派な和尚さまになって下さい。母はここで祈っています。」「どうして?お坊さんにならなくてはいけないのですか、なぜお母上さまと別れなくてはならないのですか?」 「許しておくれ、それがあなたのためなのです、あなたのお父さまとのお約束なんです、立派な僧侶になっておくれ、母はここで祈っています。」

次の日安国寺の和尚が千菊丸を迎えに来た。 伊予の局と尾根の乳母が見守るなか髪が落とされた。像外【ぞうがい】和尚に手を引かれ嵯峨野の庵を出てゆく。伊予の局必死に涙をこらえたが、千菊丸いや宗純と名を変えた小坊主の小さな姿が見えなくなると、こらえていた泪が袖を濡らすのであった。猫のなつも小さな声で千菊丸を恋しがるのであった。

寂しくなった家の中で、伊予の局は下半身が少し不自由になったなつを抱きかかえ、千菊丸を恋しく想い出すのである。時は 皇統は大覚寺統の後二条天皇の代に代わり、足利義満が幕府をよりいっそう強く大きくしようと欲望を燃やしていた。まだ千菊丸のいるころより、義満が伊予の局にいいよっていたが、伊予の局から断られていた。千菊丸、いや宗純になっても安国寺に宗純を訪ねて行くのである。義満の欲望は深後伏見天皇の第一子の宗純を手に入れ皇統のなかにも入っていきたかった。これ以上皇室関係が複雑にならぬように後伏見天皇は考え我が子を寺に入れたかは誰にもわからない。「おい!千菊丸さまがいなくなったら寂しくなったな-、」 「本当に頭のいい子だったなー、いたら楽しかったのに、」「この世の中は今はどうなっているのかしらん、」 「おーい元気か?」「アレー、カラスの勘三郎さん、お久しぶりね、ねー千菊丸さまいや宗純さまのこと知らない?」「ああ知っているよ、頭がいいのか、大人の人をからかっているよ、」

「まー、そうなんだくろちゃん宗純さま元気そうね。」「お おお、おれに似て頭がいいのさ、」くろが胸をはる。「よくゆうよ」カラスの勘三郎とお姫さまに言われ久しぶりに笑う黒ねこ

月日がたつ中、後伏見天皇が後伏見上皇となり伊予の局を訪ねてくる、その日は安国寺から宗純も呼ばれ、久しぶりに母伊予の局と逢う宗純嬉しく照れる。母伊予の局も頬を濡らす。

「上皇さまのお越しでございます、」 初めて逢う父の上皇、宗純の胸が膨らむ。 「お久しぶりでございます、上皇さま。」 「うん、伊予も元気そうで大義であるぞ、」

初めて聞く父の声、おもわず顔を上げ父の顔を見る。父後伏見上皇は宗純を見て目を細める、「そなたが宗純か?大きくなったのー、幾つになった?」「はい、十歳になりました。」 「そうか、何か不自由してないか?」 「いいえ、何も、上皇さまもお元気そうで、お初にお目にかかれて…」宗純はそれ以上の言葉がでてこなかった、母の袖が触れるほど近くにいるのが嬉しく母の甘い匂いが懐かしい。その日の母を目に焼き付ける宗純、 「宗純!この父はそなたに何もしてやれぬ腑甲斐ない父じや、父からそなたに今日から一休と名乗るように、」 「このわたくしが一休と名乗るのですか?」 「そうじや、今日から一休と名乗るがよいと。」後伏見上皇は伊予の局をねぎらい御所に戻っていった。それから二度と後伏見上皇と逢うこともなく、これが最後の出会いと別れであった。

「母上さま。これからもお会いする事はかないませんが、くれぐれもおたっしやにて、尾根もいつも衣や野菜などを届けてくれて、」大人のように、挨拶をする一休であった。 「いいえ、それもすべてお局様が自らのお手にてのお品物でございます、自らの物は何も創らず少ししか食せず、一休さまのことばかり。考えておられてます。」 一休の目に泪がこぼれそうになる。母伊予のお局様は猫のなつを抱き食いいるように一休を見っめている、言葉が喉の奥に詰まったようになる。「母上さま。」「宗純!父からもらった一休の名を大事に」 「はい、一休宗純として一生暮らしてゆきます。なつ!母上をたのみますよ。」ねこのなつの頭をなぜ、嵯峨野を後にする。母伊予の局は袖で泪を拭きながらみをくる、ねこのなつも小さな声で「ニヤー」と鳴く寂しそうに、ますます詫びしくなる「おいおい元気出せよ、」「そうよ、あなたまで沈んでいたらお局様は、元気になれないよ、」それからもお局様は貧しい衣を身につけ我が子一休にできた野菜を安国寺に届けさせるのである。 膝にねこのなつを抱き、「一休は元気でしようか?逢いたいですね。」ねこのなつも「ニヤー」と鳴く。隙間風が冷たく入ってくる、ねこのはがニヤーニヤーと鳴くが伊予の局の躰は二度と動かない。ねこの鳴き声で尾根の面がかけつけてくるが、伊予の局の躰は冷たく傍らにねこのなつが折り重なるように亡くなっていた。

「よく頑張ってくれたな!、本当ならとっくに亡くなっていただろうに、わしらのために、よく長生きしてくれた、ありがとうな。」「本当にありがとう、」「さて次はどの時代に行くか、カラスの勘三郎」。

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