第4話

「斉藤さん、大丈夫? すごい勢いでやつれ……痩せてきてるけど」


葬儀場の近くのファミレスでハンバーグを食べている雛子に、一緒にランチに出た先輩社員の宮本が不安そうな声で尋ねた。


「大丈夫どころか、私史上最高の体調なんですよ。身体が軽くって」


雛子はハンバーグを大きく切り取り、頬張った。口の中に広がる肉のうまみに、うっとりと目を閉じる。


「ならいいんだけど……でも一度、病院で見てもらったほうがいいんじゃない?」


「えええ? どうしてですか?」


答えながら、雛子は窓ガラスに映る自分の姿に見とれた。


(宮本さんたら、ダイエットできないからって嫉妬してるのかな。あのサプリ、教えてあげたいけど……)


なんとなく、自分以外の人がキレイになるのは嫌だなと思ってしまい、サプリのことは誰にも言わずにいた。


サプリを飲み始めてもうすぐ二か月。雛子の体重は45キロになっていた。会社の制服も、今では一番小さなSサイズを着用している。


憧れの40キロ台になったのだからサプリは止めても良いはずなのだが、飲まなくなったとたんに元の体重に戻るのではないかという不安から、今も一日二回、サプリを飲み続けていた。



どうやらこのサプリには痩せるだけでなく美容効果もあるようで、吹き出物は消え、艶のある滑らかな肌へと変わっていった。


華奢な首、小さな顎、肉の中に埋もれて小さく見えていた目も今はぱっちりとした二重になっている。


(こんなにかわいかったんだ、わたし。今まで損してたな)


今まで諦めていた洋服やヒールを颯爽と着こなし、道を歩けばいろんな人が羨望のまなざしを送ってくる。


この頃には体重がもうすぐ40キロを切りそうになっていたから、サプリは一日一回に減らした。十分に痩せたからサプリを止めるという選択肢はない。


出社してすぐ、遺族に挨拶するために待合室へ向かう。扉を開けると、みんなはっとしたような顔で雛子を凝視した。故人の息子である20代半ばの男性は、目が合うと慌てて目をそらす。


(やだ、照れちゃって)


キレイになった自分と目があって恥ずかしくなったのだろうと思った雛子は思わず笑みを浮かべそうになったが、斎場にふさわしい神妙な面持ちで挨拶し、個室へ案内して葬儀や火葬についての説明を始めた。




「あの人、やばくない?」


その言葉が賛辞に聞こえるようになったのは、いつからだろう。


鏡に映る自分を見て、雛子の口元がほんの僅かに綻んだ。もう少し若かったら、モデル事務所に登録したのに……とも思っている。


もっと早くあのサプリと出会っていたら、自分の人生はもっと楽しかったはず。


葬儀の間も参列者からチラチラと視線を送られ、自分を誇らしく思う。


**********


その日の仕事を終え、更衣室で黒のローヒールを通勤用の華やかなヒールに履き替えていたとき、


「斉藤さん、部長が読んでる」


と宮本に声をかけられた。


「え? でももう打刻しちゃったし」


「うーん……でも大事な話があるみたい。行ったほうがいいと思うよ」


入社以来ずっと親切にしてくれていた宮本がいつになく困った様子だったから、雛子は仕方なしに頷いた。


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