03話 お姫様でも教育を。
ぬくもりを感じる白い光に照らされ、マリーは目が覚めた。窓から入る清らかで涼しげな風が、ぬくもりの陽の光と合わさり、なんとも清々しい朝であった。
「……朝?」
本人の自覚なしにいつまのにか眠っていたらしい。窓が開いていることから昨日のことは本当だったと、半分眠った脳みそを起こそうと頭を回す。
――コンコン。
タイミングよく扉を鳴らされ、その方へ向くと、扉ごしにメイドの声が聞こえた。
「おはようございます。マリー様。お目覚めでしょうか」
「起きてるわ」
部屋の主に許可をとった後、一人のメイドが入ってきた。一連の行動は、
「おはようございます。マリー様。朝の支度が出来ました」
「おはよ…う、」
ぎこちない挨拶をする。
ここは姫としてなら敬語が正しかったのだろうか、それとも、身分ありきのタメ語か。一瞬迷った末、ぎこちない挨拶になってしまったのだった。
「う?」
「う、」
メイドが聞き返すが、マリーも、どもってしまう。しかし、メイドは何かを理解したらしい。
「カトレアと申します。マリー様に名前を覚えて頂けるなんて光栄なこと」
「…そ、そう!カトレアさんね!喉まででてきたのに出てこなかったのよ」
「……さん?マリー様はいつも敬称はつけておりませんでしたので」
――まずい!ここでマリーの振りをしているのがバレたら、ゲームオーバーってのも有り得る。
「え、え?カトレア!カトレアね!」
「いや、付けてました」
「カトレアさん!」
このメイド、天然であった。
「付けてたときもあるし付けてなかったときもあったような…」
と付け足した。つまりはどっちでも良かったのだ。
思わぬところで冷や汗をかいたマリーは、気を取り直して、メイドに案内された部屋に入る。そこは洋服部屋で数人のメイドが待ち構えていた。
「「おはようございます。マリー様。」」
「おはよ。みんな」
今度は気さくに挨拶をする。ここは立ってるだけで着替えができる貴族
「さ、マリー様」
手を持ち上げられ体で十字架のポーズをとる。マリーは脱がされ、予め用意されてた服に着替えされられるのだ。
――なんか、なんか、むず痒いわね……。
そんな思いもつかの間、気づけばメイドたちは着替えを済ませていた。前にある大きな姿見を見ると、白のワイシャツに丈の短い茶のマント、マントにはフードが着いており、紺のスカートは膝上で、マントは同じ花の文様のバッジで止められていた。
「おほほ!結構いいじゃない!お姫様って結構動きにくい服装すると思ってたけど、これは身軽よね!」
「マリー様ったら毎日着ていらっしゃるのに」
姿見の前でさまざまなポーズをとって確認するマリーの姿をみて、メイドたちはクスクスと笑う。
「では、参りましょうか。今日お供させていただきます、マーガレットです」
扉の前で待っていたのは昨日からかってきたメイドであった。名をマーガレットと言う。その服装はマリーのものと全く同じであった。
「あれ?」
◇
「早くしないと、遅刻しますよ。学院の朝食は8時までですから」
ドボドボとマリーの足取りは悪い。
「お姫様ってもっと紅茶を
「?」
メイドのマーガットが疑問符を浮かべる。マリーが文句を言うのも無理はない。マリーが向かっているのは学院、つまりこれは通学であった。
王立クリューサンテムム学院。
もともとは王宮に仕える一部のもの達が、この世界にある異能、《想いの力》について研究するために造った研究機関であった。それを教育機関として運用するよう提案した一匹の偉大なるカエルによって、王国を代表する能力育成機関になったのである。
アマリリスがマリーの教育をどうすべきかと悩んでいた際、「では、ワタクシが教育を
「道理でみんな同じ格好をしてるのだと分かったわ」
朝食に間に合ったマリーはパンと目玉焼きを頬張りながら、辺りを見回す。
「てか、あれカトレアじゃない?あれは昨日、風呂場にいたメイド」
よくよく見ると見知った顔がいるのである。もちろん、学院にくるメイドは交代制で全員が来てるわけではなかった。王宮を
「では、私はこのへんで」
「あれ?同じ授業受けるんじゃないの?」
マーガレットが席を外そうとするとマリーが問いかける。マーガレットはマントを止めてるバッジは指さしながらこう言った。
「私、一等級でして。一限はボーア教授のコペンハーゲン解釈その3なのです」
マントのバッジ、花の
「お待たせしまた。マリー様、いきましょう」
と、マーガレットに代わって今度はカトレアが先導する。
――色によってクラス分けされてる?
「カトレアさん、私の一限ってなんだっけ」
「たしか、私たち二等級はハルヴェイユ教授の
――二等級ってマーガレットは一等級って言ってなかった。あの女…!?
静かなる闘争心をもやすマリーであった。
◇
教室に入るとマリーはカトレアに連れられ中央の席に座った。ここからだと黒板が良く見える。逆に言うと黒板の方からも良く見えるので、居眠りなんて出来ないと察した。二百名くらい入るその大教室は教卓に向かって傾斜があり階段を下っていく構造であった。それゆえ、黒板も大きくなりそれに数式など書くとさぞ見栄えもいいだろう。
「ハルヴェイユ教授って、ハルヴェイユってなんか聞いた事あるような」
頭の中に何かひっかかりを感じであった。
――てか、他の女の子からの視線が熱い。
一国の姫であるマリーは同性のファンも多いのだ。
もちろん、同室に男子もいるのだが少数であった。大半の男子は学院ではなく士官学校にいくからである。それでも、男子の視線はマリーに向かなかった。度外視してる訳ではない。
仮にでも見ようものなら、放課後、マリーの側近のメイドたちに
「マリー様を厭らしい目付きで見ていらっしゃったけど……?」
と、筋骨隆々な一等級兵士に脅されるよりも怖い目をみるからである。
ガラガラと扉が開くと教授と思われるものが入ってきた。
――ハルヴェイユ?そうか思い出した。それは確か、あの喋るカエルの名前だった。
教卓に一匹のカエルが座り授業をはじめた。
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