一輪の花~姫だと勘違いされて姫になりました~
雨井蛙
第一章
01話 見知らぬ花畑にて
――どこ、ここ?
少女が気が付いたときには、そこは花畑の上だった。赤や黄、紫で彩られたその花畑に少女はいた。霞む先さえも、花で埋め尽くされていた。
――あれ?なんでここにいるんだっけ。
少女は見知らぬ花畑にいた。
――花を踏まないように、は不可能だったので思い切って踏んで進む。裸足だったが痛くはないようだ。
――ごめんなさい、と潰された花を思って良心が痛む。少女は花を潰して良心が痛むような善良の持ち主だった。
でも少女はそもそも闇雲に進んでいたから、花に謝るくらいなら進まなければいいと思ったのか、しばらく体育座りをして、顔を伏せて、縮こまっていた。ここでようやく少女は布切れ一枚のようなワンピースを着ていて、足も裾も花の汁で彩られてることに気づいた。
――誰か迎えにくるだろうか。
そう思いながらだいぶ時間が経った。日が暮れることもなく、移り変わりもしない風景だったので、時間が永遠に感じられた。
「ぴょんぴょんぴょん」
――はて、なんの音だろうか?、顔をあげて辺りを見てみるが誰も居なかった。
「ぴょんぴょんぴょん」
――やはり、聞こえる。じゃあ、花がぴょんぴょん泣いているのだろうか?ぴょんぴょん泣く花なんて聞いたことがない。
「ぴょんぴょんぴょん」
――確実に何かがいる。ガサガサと近くの花が動いた。そこに何かがいる。
――おそるおそる、しかし確実に、もう無限に感じられた時間に飽きてきたところに、ようやく刺激が現れたのだと、この機会もはや逃すすべない。
素早く、確実に、音のあるじを掴んだ。
ムニュッ。
――音のあるじはさほど大きくなく、両手でやっと覆える大きさであった。肌触りは……
「うげぇ! 気持ちわるっ!」
――あまりの気持ち悪さに放り投げちゃった。結構遠くまで飛ばした。もう戻ってこられまい。
しかし、あれは、何だったのだろう?
ひとつに、ムニュッという感触からスライムの可能性がある。ここはファンタジー世界で少女は伝説の勇者だった、と。そして、冒険の始まりの敵であった、と。
それとも、ぴょんぴょん、と跳ねる動物としてウサギの可能性がある。けど、それだったら、モフモフの触感にアラカワイイなんて言うのだ。
しかし、少女の掴んだそれはどちらでもなかった。それは、ぴょんぴょんと動き小動物で感触が悪い生き物。
「ぴょんぴょんぴょん」
結構遠くに投げたのに戻ってきた。その音のあるじは、何と、喋るじゃないか!
「いきなり投げるなんて! 酷いじゃないですか!」
最後の可能性、それは
「こんにちは、カエルさん……」
***
少女は清く正しく、さっき投げた飛ばしたことを謝った。
「ごめんなさい」
「まったく、マリー様は何故そういつも、突発的に行動なされるのですか!」
――はは、カエルに怒られる少女の図。てか、マリーって誰だ?
「もしかして誰かと勘違いされてるのでは?」
「んまあ!」
口をぽんかり開けたカエル。しばらく固まっていたが、すぐに説教を再開した。
「またそうやって言い訳をして! この世界の姫である自覚を持てとさんざん言ってきたじゃないですか!」
――ひめ?姫ってあれか。プリンセスのことか?私が?
「ごめんなさい。やっぱり人違いじゃないですか?」
「んまあ!」
また、口をぽんかり開けて固まるカエル。そのまま墨画にすれば、
「王宮へ帰りますよ」
説教に飽きたのか。そのカエルはぴょんぴょんぴょん、と進み始めた。少女はどうすればいいのか分からなくて、しばらくその場で立ち止まっていると、「何をしているのですか、早く」とおっかないカエルに従ったのだった。
して、この花畑、抜けられるのだろうか。少女は、とりあえずカエルについて行ってはいるが、霞む先さえも花畑であって、抜けられそうにない。
「では、ここらへんに出口をつくりましょう」
喋るカエルはその場に止まり詠唱を始めた。
「《完全な世界の顕現》」
すると、その喋るカエルの中で発せられた淡い綺麗な光が、水溜まりに落ちた水滴がつくる波紋のように拡がって、現実がだんだん波打っていく。そして
「魔法?」
「いえ、違います」
私がそう呟くと喋るカエルが否定した。
「これは想いです。もし永遠に続く花畑があったなら、という想いが作り上げた現実」
「想い?」
「無数にある並行世界をありままの現実にする力。それが想いの力です。『永久庭園』といいましたか…元は何も無い大地でしたが、無数にある並行世界の中から、そこが花畑であった世界を現実にしました」
「てか!想いの力はさんざん教えてきたのに何故、覚えていらっしゃらないのか!このハルヴェイユ、長年マリー様にお仕えしたというのに!」
――どうやら、このカエル、ハルヴェイユというらしい。で、私はマリーってお姫様に勘違いされてるのようだ。否定しようにも何も覚えてないしな……。
「ご、ごめんね。ハルヴェイユ、ちょっとからかって見ただけ」
嘘をついた。少女は自分がマリーだと
「んまあ!」といって喋るカエル、ハルヴェイユは固まった。
――マリーとして生きたら分かるだろうか?私がここにいた理由も、私が存在している意味も、分かるかもしれない。だって、マリーってお姫様なんでしょ?なら、一般人として生きるよりお姫様と
「それに」
――お姫様ってちょっと憧れてたんだ、と浮かれながらその喋るカエルに着いて行ったのだ。
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