第37話:陰謀の匂い
「上手くいったみたいですね」
会談が終わった後でフェリエがやってきた。
「ああ、ほっとしたよ。フェリエやドライアドには大きな負担を強いることになってしまうけど、お願いするよ」
「任せてください!蝗はドライアドにとっても脅威なんです。ワールフィアまで来る前に止めないと!」
フェリエが胸を叩いた。
「やっぱりフェリエって変わったよな。なんかこう、大きくなった気がする」
「な…!き、気付いてたんですか!?できるだけ隠すようにしてたのに!」
フェリエが顔を真っ赤にして胸元を隠した。
なにか勘違いしてないか?
「テツヤ、少しいいか。話がしたいのだが」
そこにヘルマがやってきた。
「どうしたんだ?急に改まって」
公邸の執務室に呼ばれるとそこにはヘルマの他にゼファーとアディルもいた。
「陛下が狙われている」
椅子に座るなりヘルマはそう切り出してきた。
「それは確実な情報なのか?」
「狙われていると言っても命ではない。その地位だ」
「どうやら元老院と執政官の中に余を追放しようと企む派閥があるらしい。命を狙われていると言っても同義かもしれぬな」
ゼファーがヘルマの言葉を引きついだ。
そこにはこころなしか愉快そうな響きが込められている。
「じゃあひょっとしてバグラヴスもそいつらに…?」
「まだそれはわからない。だが巧妙に偽装されてはいるが貴族の間に奇妙な金を動きがあり、その中にシセロが加わっていたのは事実のようだ」
ヘルマが続けた。
「奴は他の貴族に多額の借金をしていて破産寸前だった。しかし虫害以降そのような話は一切なく、債権者である貴族が債券執行をしたという話もない。そして反陛下派にはシセロの債権者が多数含まれているという情報もある。カエソもその一人だ。いや、カエソこそ反陛下派の中心となっているのかもしれぬ」
マジかよ。
この大変な時に更に厄介ごとが増えるのか。
「事の真偽はともかく、今回の作戦は余を追放しようともくろむ者にとっても千載一遇のチャンスとなるであろうな」
ゼファーがまるで世間話でもするかのように話を続けた。
「…まさか、そのことを知っていてそれでも俺の案に乗ったってのかよ!?」
「ふん、余を出し抜こうと企む連中に
「そ、それはまあそうだけど…」
まさか裏でそんな陰謀が動いてるなんて知らなかった。
国家どころか大陸全体の一大事まで政戦の道具になるのか。
「ともかく余は全てをお主に賭けた。これが失敗すれば余は王の座を追われることになるやもしれぬ。そうなればお主の身やフィルド王国とて無事では済むまい。いわば一蓮托生だな」
そう言ってゼファーが俺の肩を叩いた。
「プレッシャーかよ!」
「だが事実だ。なに、上手くいけばいいのだ。それにお主の案はそう賭けるだけの価値があるとふんだのだ」
「やれやれだ。とんでもないことになってきたな」
俺は大きくため息をついた。
「ともかく誰が反陛下派なのか、バグラヴスと繋がりを持っているのかは引き続き調査を進める。テツヤも気をつけてくれ」
ヘルマが俺の肩に手を置いた。
「おそらく今回の作戦にも横やりが入るはずだ」
「わかった、そっちも気をつけてくれ」
俺はゼファーたちと別れて部屋へと戻っていった。
これは蝗をどうこうするだけじゃ済まなくなってきたみたいだ。
◆
砂漠の雨作戦の本拠地はガルバジアと蝗の群れの中間にあるメッディンという中規模の交易都市に設置された。
この街はガルバジアを流れる川の下流に位置しているから運河を作るのにも適している。
そしてメッディンの遥か東の地平線は既に黒い霞のようなものが見えはじめていた。
蝗の群れがもうすぐそこまで来ている。
俺は一足早く運河作りを開始した。
これだけは俺にしかできない仕事だからだ。
蝗の群れを囲むように掘られた運河はそのまま元の川へと合流させる。
更に山を流れる伏流水も流すための運河も掘っていく。
おそらくベルトラン帝国の地図職人は数年間地図の書き換えに忙殺されることになるだろう。
「テツヤ、少し根を詰め過ぎではないか?」
運河を掘っているとアマーリアがやってきた。
今回は水を扱うだけに龍人族にもだいぶ助けてもらっている。
「いや、大丈夫だよ。これは作戦決行までに終わらせないと」
そう言って歩こうとしたらかくんと膝の力が抜けた。
転びそうになったところで何か柔らかなものが頭を包み込んだ。
見上げるとそれはアマーリアの豊かな双丘だった。
「ご、ごめん!」
慌てて離れようとするとアマーリアの両手が俺の頭を抱え込んだ。
「まったく、無理をしすぎだ。倒れてしまっては元も子もないぞ」
アマーリアがため息をつきながら持っていた水筒を取り出した。
「龍人族の土地から湧きだす霊験あらたかな龍水だ。これを飲めば少しは魔力も回復するだろう」
「ありがとう、助かったよ」
お礼を言って受け取ろうとするとアマーリアが水筒を自分の口にあてて中の水を流し込んだ。
そして俺の顔を掴むなり口と口を重ね合わせてきた。
温かな水がアマーリアの口から流れ込んでくると同時に魔力が回復していくのがわかる。
「あ、ありがとう…でもなんで?」
「ふふ、気を失った想い人に口移しで薬を飲ませるというのがあるだろ?一度それをやって見たかったのだ」
突然のことに目を白黒させているとアマーリアが微笑んだ。
「いや、意識を失ったわけじゃないんだけど…」
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