第33話:見えた光明
「とは言ったものの、どうしたらいいんだ?」
王城に戻った俺は頭を抱えた。
あれだけの数の蝗を短期間に対処する方法なんてあるんだろうか?
「テツヤ、お主がマッシナで作ったあのガスはどうなのだ?あれを大量に使えば蝗を殺すことができないか?」
「いや、あれだけの規模に使える硫黄を今から用意しようとしても間に合わない。それにあれは毒性が強すぎるんだ。蝗どころか他の生き物も殺してしまう。それじゃあ局地壊滅術式と大して変わりはないよ」
…
……
…………
駄目だ、どう考えても思いつかない。
「なあアディルさん、何か知らないか?あの蝗たちを一掃できるような手段とかさ」
半ば捨て鉢で尋ねてみる。
「あるぞい」
アディルがあっさり答えた。
「あるのかよ!」
「本当なのか!?」
ヘルマも驚いて目を丸くしている。
「うむ、あるにはあるのじゃが…実現させるのはちと難しくてのう」
「いやこの際なんでもいい、まずはそれを聞かせてくれないか。できるかどうかはそれから考えよう!」
「そうじゃのう、ならばウルカンシアにある儂の家に行くのが早いじゃろうな」
「わかった!早速行こう!」
◆
「懐かしいのう。王城の柔らかいベッドも良いがやはり一番は勝手知ったる我が家じゃ」
ウルカンシアのあばら家に戻ったアディルは嬉しそうに家の中へと入っていった。
マジかよ…
ため息をつきながら俺も中へと続く。
ヘルマは一度入った後ですぐに出ていき、それ以降は五十メートル以内に近づこうとしなかった。
「あったあったこれじゃこれじゃ」
そう言ってアディルが棚の中から虫かごを一つ取り上げた。
「これがどうかしたのか?」
その虫かごの中にはバッタの死骸が数匹入っていた。
「バッタの死骸しか入ってないけど」
「よく見てみるのじゃ、これはただの死骸ではないぞ」
アディルが虫籠の中からバッタの死骸を取り出した。
その死骸は体中が白い膜に覆われていた。
「これは…?」
「これはこの辺りでは珍しいカビの一種でな。儂は便宜上
アディルが言葉を続けた。
「当然蝗にも寄生する」
「…そうか!このカビなら…!」
「喜ぶのはまだ早いぞ。確かにこのカビは蝗にとって致命的な存在じゃ。ただしここベルトランのような乾燥した場所では繁殖させるのが難しいのじゃ」
アディルはそう言ってため息をついた。
「このカビ自体ベルトラン南部の高温多湿地帯で見つけてきたものなのじゃ。なんとか乾燥地帯でも大量培養できないかと色々試みたのじゃが、どうにも上手くいかなくての」
「そうなのか…」
確かにベルトラン帝国は大半が乾燥した平原だ。
そんな世界ではカビを育てる方が難しいのだろう。
せめて雨でも降ってくれれば…
待てよ、湿度があれば良いのか?
「なあアディルさん、そのカビは適度な湿度があってバッタがいれば勝手に繁殖していくものなのか?」
「?その通りじゃが?」
「そのカビは他の動物たちには悪さしないか?例えば人間にそのカビが寄生して病気になるとか」
「今まで試した限りではないのう。そもそもこれは湿度の高い地域には普通に存在しているカビじゃからな。このカビ自体はフィルド王国にもワールフィアにもいるものじゃぞ」
それならなんとかなるかもしれない。
「アディルさん、ちょっと俺と一緒にフィルド王国に来てくれないか?」
「??それは一向に構わぬが、フィルド王国に行ってどうしようというのじゃ?」
唐突な俺の要求にアディルは不思議そうな顔をした。
「それはおいおい説明するよ。ヘルマ、ゼファーにはそっちから説明しておいてくれないか?…あと、このことはゼファー以外には知らせないで欲しいんだ」
「…どういうことだ」
ヘルマが訝しげな顔を向けてきた。
「バグラヴスがやけに余裕だったのが気になったんだ。ひょっとしたらシセロの他にも後ろ盾がいるのかもしれない。それも奴をあそこから釈放できるだけの力を持った人間が」
俺の言葉にヘルマの顔色が変わる。
「気付いていたのか」
「だから俺がフィルド王国に戻ってる間にヘルマはその件も調べておいて欲しいんだ。もしそういう後ろ盾がいるんだとしたら間違いなく妨害してくるはずだ」
「わかった、そちらの件は任せておけ。元々ここから帰ったら調査をするつもりだったのだ」
「じゃあ任せたよ。アディルさん、俺たちはすぐに出発しよう」
俺たちは宙に舞い上がるとフィルド王国へ向かっ……
「待て!こんな地獄のような場所に私を置いていく気か!」
地上でヘルマが叫んでいる。
「そういえば虫が苦手だったもんな」
俺は苦笑しつつ地上へと舞い戻った。
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