第21話:城の中の二人
「ここが北の裏門か」
俺たちがやってきたのは街の中心にあるシセロの屋敷だ。
屋敷と言っても高い塀に囲まれた石造りの建物で、城壁や胸壁、回廊を備えているから城とほとんど変わりがない。
既に日没は過ぎ、あたりは闇に包まれようとしていた。
「早いところ忍び込まないと」
俺の脳裏に居酒屋でのヘンドリックとの会話が蘇ってきた。
◆
「シセロの屋敷…つーか街のみんなからは城って呼ばれてんだけど、そこは警備が半端じゃねーんだわ。普通の方法じゃまず入り込めねえ」
ヘンドリックはそう切り出した。
「つまり普通じゃない方法を知ってるってことだな?」
「ま、そういうこと」
ファリードが続けた。
「城には正門と裏手にある北門があるんだ。で、その北門を警護してるのは俺らと同じ冒険者仲間なのよ」
「そいつらは日没から門の警護に入るから暗くなってから北門にいきな。ヘンドリックから言伝がある、と言えば通すように
ただし気を付けた方が良いぜ、とヘンドリックは続けた。
「シセロはしこたま貯め込んでるって噂だからあの城にゃ今まで何人も盗賊まがいの冒険者が忍び込んでんだが生きて出て来た奴はいないって話だぜ。俺らもそれで二の足を踏んでんだ」
「ま、気を付けるんだな。何か見つけたら俺らにも知らせてくれよ」
金貨でズシリと重くなった革袋を懐にヘンドリックとファリードはそう言って立ち去っていった。
◆
そしてその言葉を信じて俺たちは今シセロの城の北門に来たわけだ。
さっさと忍び込まないとすぐに坑道へ交代に向かった兵士たちが戻ってくるだろう。
そうなるとこの街中の警備が厳しくなってしまうからぐずぐずしている暇はない。
俺は北門を警護している兵士に近づいた。
「ヘンドリックの伝言を持ってきた」
俺の言葉に兵士の眉がピクリと持ち上がる。
もう一人の兵士に目配せをするとその兵士が頷いて門の中に入っていった。
やがて門が細く静かに開いた。
「さっさと入れ。音を立てるなよ」
俺たちは滑るように門の中へと入っていった。
全員入ると背後で音もなく門が閉まる。
「ここには誰も来なかった、そうだな?」
俺は二人の兵士に金貨を投げながらそう言った。
「ああ、俺は何も見ちゃいねえ。今日は月も出ない夜だからな、何かいたって見えやしねえよ」
俺たちは静かに城の暗がりへと移動を開始した。
同時に数人の兵士が門の方へ走っていくのが見えた。
おそらく坑道の兵士が見つかったんだな。
「城の中であれば魔法探知も多少は緩くなっているはずだ。シセロがいるのはおそらく上層階だろう」
ヘルマの言葉に従い、俺はみんなを引っ張り上げながら城壁を伝って主塔の天辺へと登っていった。
天井に穴を開けて天井裏から中の様子を窺う。
主塔の最上階がシセロの居室となっているようで、中から話し声が聞こえてきた。
「どうするのだ!あの場所が何者かにばれたのかもしれぬのだぞ!」
頭が薄いでっぷりとした男が大声を張り上げている。
「あれがシセロだ」
ヘルマが小声で話しかけてきた。
「隠し倉庫を警備していた兵士たちが拘束されていたそうではないか!何者かが私の領地に忍び込んできたのだ!そうに違いない!」
シセロは苛々しながら歩き回っている。
「落ち着きなさいな」
そこに別の声が聞こえてきた。
真っ黒な髪の男が見える。
上から見ているから表情まではわからないけどその態度はシセロの部下とは思えない余裕があった。
「扉には異常なかったのでしょう?そもそもあの坑道の奥は私が放った蟲が守っているのです。そこを通ってくるなど不可能ですよ」
男の言葉に俺たちは顔を見合わせた。
坑道に巣くっていた
「し、しかし…」
落ち着き払った男とは裏腹にシセロの声からは隠しきれない緊張の響きがある。
「明日にでも確認をしに行けばよいではないですか」
男はなだめるようにシセロに話しかけていた。
「あなたはこのマッシナを支配し、ゆくゆくはベルトランをもその手中に収めようという方なのだからこの程度で動転していては示しがつきませんよ」
ベルトランを手中に収める?そんなことまで考えているのか?
「そ、それはお主が言い始めたことではないか!わ、私はそのような大それたこと…」
男の言葉にシセロは
そんなことを口にするだけでも恐ろしいというように頭を振っている。
「何を仰います。私に虫害を起こさせてこの国一帯を不毛の大地にさせたのはあなたではないですか。今やあなたはこのベルトラン帝国で唯一農作物を生産できる能力を持っている。ベルトラン十五世ですら跪いて食料を乞うようになるだろうと言ったのはあなたですよ」
「あ、あれはただの冗談だ!そもそも私はここまで大事にするつもりなどなかったのだ!不良在庫となっていた穀物を捌くだけで充分だったのにお主が…お主が…!」
「今更そんなことを言っても遅いですよ。ここまで来た以上あなたには最後まで責任を持っていただく。それが私の雇い主であるあなたの義務だ」
「私は…私は何ということをしてしまったのだ…!」
シセロは座り込んで頭を抱えた。
もう十分だった。
今までの会話でこの二人が今回の虫害の主犯であることは明らかだ。
あとは突入して二人を確保すればいいだけだ。
その時突然黒髪の男がこちらを見上げた。
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