第31話:眠る巴蛇
この絶対的な魔力、間違いなく
先ほどまでの喧騒はどこへやら、今は鳥のさえずりすら聞こえない。
「我の鼻先で騒ぐ痴れ者は誰ぞ」
声には明らかに苛立ちが混じっている。
「あ、あわわわわ…」
ローベンもバルドも突然のことに地面に這いつくばり、声も出せないでいた。
「あ、あなた様は…御巴蛇様でございましょうか」
リオイとルスドールがよろよろと蛇頭窟の前に近寄って膝をついた。
「如何にも我はこの地に住まう巴蛇である」
「「ははあっ!先ほどは大変失礼をいたしました!」」
二人が地面に頭をこすりつけた。
見ていた獣人族とエルフ族が慌ててそれに続く。
バルドとローベンも平伏していた。
「どうかお怒りをお鎮めいただきますようお願い申し上げます!我が身にかえてお願いします!」
「お鎮めいただけるのであればこのおいぼれの命、幾らでも捧げます。どうか、どうか我が同胞をお許しください!」
リオイとルスドールは地面に額をこすりつけて哀願していた。
一方で俺はと言うとただ見守ることしかできなかった。
俺に何ができる?文字通りこれは大自然を相手にしているようなものだ。
こんなのが目覚めたら本当にこの辺一帯は壊滅してしまうぞ。
「この匂い…我の前にあるのは酒か」
「ははあ!御巴蛇様のために用意いたしました!お気に召していただければこれ以上の喜びはございませぬ!」
リオイが更に平伏した。
「いらぬ。今すぐ下げよ」
しかし
「は?え、いや…わ、わかりました!何をしている!今すぐ御神酒を下げるのだ!」
一瞬耳を疑ったリオイだったが、すぐに青い顔をして部下たちに命令した。
酒で釣るという考えは効果がないということか。
「もうよい。この度は特別に貴様らを許す。疾くと居ぬるのだ」
再び
どうやら見逃してもらえるらしい。
周囲に安堵の空気が広がった。
俺も知らず知らずのうちにため息をついていた。
「お、お待ちくださいませ!どうか我々の願いをお聞きくださいませ」
その時、ルスドールが声を張り上げた。
「私は大エルフ国森エルフ族ルスドール氏族のルスドール・パラダイ・マスロバ、御巴蛇様にお願いの儀があり参上した次第であります。どうか我の言葉をお耳にお入れくださいませ!」
悲痛な声でルスドールが話を続けた。
「近年より御巴蛇様の麓より流れいずる清水の量が減少を続け、我が民は困窮を極めつつあります。どうか、どうか御巴蛇様の寛大なる心を持って我が民をお助けください!」
「わ、私からもお願い申し上げます!このままでは我らパンシーラ氏族とこちらのルスドール氏族は滅んでしまいます。今再び水を授けてくださいますれば、我ら永代に渡って御巴蛇様を奉るとここに誓います!」
リオイもルスドールの横で頭を下げた。
バルドもローベンも、今や両氏族が全員頭を下げている。
図らずも
「わかったわかった。いずれなんとかしてやろう。今は疾くと居ぬるのだ」
しかし
「し、しかし、我々は今ひっ迫しているのです!なにとぞお願いしたします!」
「「「「お願い申し上げます!」」」」
「「「「どうか我々をお救いください」」」」
「「「「御巴蛇様!御巴蛇様!御巴蛇様!御巴蛇様!」」」」
今や獣人族もエルフも全員が声を限りに嘆願していた。
「だあああ!うるさい!耳元で騒ぐな!」
苛立たしそうな
「今すぐ黙らんと貴様ら全員喰い殺すぞ!あ、あいたたた…」
しかしそれはすぐに苦痛に満ちた声へと変わる。
どうしたんだ?ひょっとして
動こうとしないのもそれが理由なのか?
「ど、どうかなされたのですか?」
ルスドールが心配そうに声をかけた。
「な、なんでもない。少し体調が悪いだけだ」
「そ、そんな!御巴蛇様様の身に何かがあれば我々はどうすれば…!」
リオイが恐怖に顔をひきつらせた。
「御巴蛇様、どうか御身を大事になさってください!そうだ!我々で御巴蛇様の病気平癒を祈祷するのだ!者ども楽器を取れ!声を限りに祈りを行うのだ!」
それを聞いていたローベンが突然立ち上がった。
「そ、そうだとも!今こそ我らの信心が試されるとき!みんな御巴蛇様のために祈り、舞い、奏でるのだ!」
獣人族が一斉に立ち上がる。
「我々も負けてはいられぬぞ!御巴蛇様を回復させるのは我々の祈りだ!」
バルドと森エルフ族も立ち上がった。
「だからそれを止めろと言っておるのだ!」
蛇頭窟から圧倒的な魔力が噴き上がった。
「「「「ひぃい」」」」
再びエルフも獣人族も一斉に地にひれ伏す。
「あ…クソ、頭が…貴様ら我に大声を出させるな!」
再び
待てよ、頭痛がして周囲の声が障るのか?
「それって…」
俺は立ち上がって蛇頭窟の方を向いた。
「ひょっとして二日酔いなんじゃないのか?」
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