第27話:獅子人族の頭領

「しかし本当にあんな巨大な生き物が存在してるなんて流石は魔界と呼ばれるだけのことはあるな」


 帰路につきながら俺は息をついた。



「大蛇伝説だったらワールフィア全土にあるぜ。俺たちオニ族にも似たような伝承が残ってるからな」


 グランが眼下の寝巴蛇山ねはだやまを見下ろしながら口を開いた。


「マジかよ」


「ああ、ワールフィアには孤立峰が幾つかあるんだけどよ、みんな元は大蛇で五千年後に再び眠りから覚めるって話だ」


「龍人族の伝承では龍神と言い伝えられているな。龍神たちが大地に降りてきて宴をし、眠り込んで山々ができたという」


 アマーリアがグランの言葉を継いできた。


 まさか、遥か彼方に見えるあの山々も下には大蛇が眠っているのか?


 今となっては全くの与太話とは思えないのが怖い。



「とにかくあの大蛇を起こさないように水を確保する方法を考えないと」





    ◆





 リオイの屋敷に戻るとそこにはローベンとその仲間たちが待ち構えていた。



「親父!なんでこんな奴らと一緒にいやがるんだ!」


 ローベンがリオイに詰め寄ってきた。


「む、息子よ、これには訳があるのだ」


「ふざけんじゃねえよ!こいつらはクソエルフ族の手先なんだぞ!そんな奴らに懐柔されてどうすんだよ!頭領としての誇りを忘れたのかよ!」


「うっさいわね!」


 詰め寄るローベンにチャイタが吠えた。


 文字通り獅子の咆哮で。



「あんたがだらしないからリオイ様が苦労してんじゃないの!あんたこそ今まで何やってんのよ!エルフ族とチクチクやりあってばかりで一族のことなんかまったく気にかけてないじゃない!こちらのテツヤさんたちの方がよっぽど私たちのことを心配してくれてるわよ!」


「チャ、チャイタ…」


 チャイタの迫力にローベンはたじたじだ。


「いいぞいいぞ、嬢ちゃんもっと言ってやんな」


 グランが愉快そうに囃し立てている。



「で、でもよう…俺だって頑張ってんだぜ。でもご老公たちがいつまでたっても俺のことを子ども扱いして言うこと聞いてくれねえんだよお」


「でもも鴨もない!あんたがそんなんだから子ども扱いされるんじゃないの!いっつも子分と一緒に我が物顔で町を練り歩いてるだけだから馬鹿にされてんのよ!」


 ローベンとチャイタの力関係は完全に決定されているみたいだ。



「チャイタが頭領の方が合ってるようだの」


「いやはや、なんともお恥ずかしい」


 リンネ姫の独り言にリオイが申し訳なさそうに頭を垂れた。




「と、とにかくだ!俺はこいつらの協力なんか認めねえからな!さっさとクソエルフ族の町に戻りやがれ!あの川は絶対に渡さねえぞ!」


 チンピラのような捨て台詞を残してローベン一行は去っていった。



「まったくとんだ愚息で申し訳ない」


 リオイがそう言ってため息をついた。


「昔はあんなんじゃなかったんだけど…確かにあいつは昔から馬鹿でお調子者だったけど面倒見は良かったし町のみんなからも好かれてたんです。でも頭領になってから権力を笠に着るようになっちゃって…あれじゃただのチンピラと変わらないです」


 チャイタもため息をついた。



「とにかくローベンの問題はひとまず置いておくとして、寝巴蛇山ねはだやまのことをもう少し考えてみないと。こっちは一旦エルフ族の町に戻ってルスドールさんとも話をしてみます。場合によってはリオイさんと一緒に話をすることになるかもしれません」

 俺の提案にリオイが頷いた。


「了解した。ルスドール殿は知らぬ顔ではないので何かあればまた連絡してくだされ」


「そういえばリオイ様、このようなものをご存じないですか?」


 帰る間際になってリンネ姫が思い出したようにリオイに亜晶を渡して尋ねた。



「これは…非石ですな。珍しい石ではあるが、特にこれと言った価値はなかったような…この辺りで採れるという話は聞かぬな」


「…そうですか」


 リンネ姫はしょんぼりと肩を落とした。


 やっぱり獣人族でも駄目だったか。



「お役に立てず申し訳ない」


「いえいえそんな!俺たちはこの石について調べたくてワールフィアに来たんです。もし非石について何かわかったことがあれば教えていただけませんか?」


「うむ、かならず知らせると約束しよう」



 俺たちはリオイたちと別れを告げてルスドールの屋敷へと戻っていった。



「あちらはあちらで問題があるようだな」


 帰路につきながらリンネ姫がため息をついた。


「しかしこうも揉め事続きだとじっくり亜晶を探す暇もないな」


 うう…申し訳ない。



「テツヤを責めているわけではない。私の原郷げんきょうを想ってくれてのことだからな」


 そう言ってリンネ姫が俺の腕を取った。



「ともかく山から水を引いてこれないとなると和解させる以外にないが、あの両頭領ではそれも難しいぞ」


 ソラノが腕を組んで唸った。


「いっそのことクーデターを誘発させてあの二人を失脚させるか?」


「そんな物騒な」


 リンネ姫の提案に俺は苦笑した。



「それよりもあの両部族は氏族なんだろ?もっと上の部族に掛け合ってもらうわけにはいかないかな?その、大エルフ族や大獣人族の偉い人たちに仲介してもらうとか」


「うーん…本来であれば国同士の揉め事の場合はそれが常道なのだからそれは既にやっていると思うが…お爺様に確認してみるよりあるまいな」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る